見事な夢の晩餐会

メトロポリタン歌劇場、昨日の出し物はフンパーディンクのヘンゼルとグレーテル。これは文句なく素晴らしい舞台でした。NHKはつまらなかった順に放送しているんじゃない? と勘繰りたくなるほど、日を追って良い物を出してきますね。
記録のために配役を列記しておくと、
ヘンゼル/アリス・クート
グレーテル/クリスティーヌ・シェーファー
父親/アラン・ヘルド
母親/ロザリンド・プロウライト
魔女/フィリップ・ラングリッジ
眠りの精/サシャ・クーク
露の制/リセット・オロペーサ
 指揮/ウラディーミル・ユロフスキー
 演出/リチャード・ジョーンズ
まず、演出が素晴らしい。演出というか、美術とかメーキャップの見事なことは、まるで動く絵本を見ているようで、こういう上質な舞台を本気で造り出してしまうメットに改めて驚嘆しますね。
この舞台に携わったスタッフは85名だとか。作り物もあるんでしょうが、お菓子の豪華なこと。そうそう、この演出ではお菓子の家は出てきません。従来の演出とは全く異なるものです。
全3幕、全てにキッチンが出てくるのが目を惹きました。その小道具のサイズを微妙に変えているので、人物の大きさに錯覚が生じてくる工夫。これが御伽噺の仕掛けになっています。
第1幕は典型的なニューヨークの安アパートを舞台にしているのでしょう。両親の服装も現代のサラリーマン風。
第2幕は森のシーンですが、ここは「森の部屋」に設定されています。この幕のハイライトは、ヘンゼルとグレーテルが見る夢のシーン。
おとぎ話の世界から飛び出してきたような眠りの精に続いて、料理人たちや魚の給仕長が繰り広げる、夢の晩餐会の素晴らしかったこと。子供でなくとも呆気に取られて見惚れてしまいます。
ただ視覚的な面白さに留まらず、オーケストラが奏でるパントマイムの音楽に見事にマッチした演技。これがスローテンポの行進曲であることに思い当たるのでした。
第3幕の圧巻は魔女でしょう。誰がラングリッジにこの役を充てようと思いついたんでしょうかね。私が現役で最も好きなテノール、英国の至宝ラングリッジが歌い演ずる魔女には、完全に意表を突かれました。
ということで、思わずテレビに向かって乗り出してしまったヘンゼルとグレーテル。再放送があったら見逃さないこと。
今年の1月のプロダクションで、新年を祝うステージでもあったようです。客席には子供の姿も多く、上演は当然ながら英語でした。
最後に出てくる子供たちの合唱のメンバーには、ルネ・フレミング・ママの可愛い娘さんも出演していたそうな。
シェーファーが強調していたように、この舞台がもたらした感動は、正に音楽の力なのです。
ヘンゼルとグレーテル、改めて資料を紐解いてみたら、ワイマールでの世界初演を指揮したのは、彼のリヒャルト・シュトラウスなんですってね。皆さん、知ってました?

 

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