浦安でチェロ三昧
桐朋学園時代の同級生、ピアノの野本哲雄とチェロの大友肇が再開し、2015年に結成されたチェロとピアノのデュオ。二人は現在共にゴーシュ音楽院の講師を務めていることもあり、千葉県を中心に年間4~5回の活動を続けてきました。偶然ながら、二人の名前をローマ字表記して並べると「OTOMONOMOTO」、そう、上から読んでも下から読んでもオートモノモトということになり、現在ではデュオ・グループとしてすっかり定着した感があります。
私も結成当初のデュオ・リサイタルを長柄町のホテル書斎に聴きに行ったこともあり、その後も彼らの本拠地でもあるゴーシュ音楽院に出向いたこともありました。
その彼らが、今年は浦安音楽ホールでリサイタルを開くと聞き、秋の一日を浦安でまったりと過ごした次第。
本来、この演奏会は5月に計画されていたのですが、例のコロナ騒ぎで中止。浦安音楽ホールも漸く先のクァルテット・エクセルシオのベートーヴェン・チクルスで再開し、本リサイタルも形を若干変更しての復活となったものです。5月の時点では一日2回公演だったと記憶しますが、復活リサイタルは何と一日3公演で、全てプログラムが異なるというもの。演奏会の時間を短縮せよ、という要請を逆手に取った発想大転換の企画でもありましょう。その結果組まれたのは、以下のプログラム。
《昼の部》
ベートーヴェン/ヘンデル「ユダス・マカベウス」より『見よ勇者は帰る』の主題による12の変奏曲
オッフェンバック/ジャクリーヌの涙
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番イ長調作品69
ブルッフ・コル・ニドライ
《夕の部》
J.S.バッハ/パルティター第2番ハ短調BWV826(野本哲雄)
J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調BWV1011(大友肇)
《夜の部》
パラディス/シチリアーノ
フォーレ/セレナーデ
ラフマニノフ/ヴォカリーズ
プロコフィエフ/チェロ・ソナタ
昼の部は午後2時開演。夕の部は午後4時半、夜の部が午後7時開演で、各回とも1時間強のコンパクトな設定。全て自由席で、「何処にでも自由に座っていただけますが、席と席との間を2席ほど開けて座っていただくようご配慮お願いします」というアナウンスが流れ、私も3回とも別々の席でチェロとピアノ、そしてホールの素晴らしい音響を楽しんできました。
各回とも、作品に対する思い入れ、今回の企画などについて二人の軽妙なトークを交えながら進められます。作品の一々は触れませんが、夫々の聴き所などを纏めて報告しておきましょう。
昼の部は、今年生誕250年を迎えたベートーヴェンへのオマージュでしょうか。大作チェロ・ソナタ第3番が朗々と、格式高く再現されました。改めて傑作の森の凄さを体感できた瞬間です。
個人的には、2曲目に取り上げられたオッフェンバックの珍品が楽しみ。その昔、ハーモニカで吹かれたのを聴いた覚えがありますが、オリジナルのチェロ作品としては初体験だったと思います。オッフェンバックは天国と地獄しか知られていませんが、こんな素敵なメロディーがあるんですね。例えば恋愛映画のバックにでも使えば大ヒット間違いなし、一度は聴いてもらいたい佳曲と言えるでしょう。最後のコル・ニドライ、大友にとってカザルスの古い録音が憧れだったとか。
アンコールはチェロの定番。サン=サーンスの白鳥でした。
夕の部は、一転してバッハ尽くし。野本と大友、夫々がソロとして思い入れの強い作品を取り上げました。野本が選んだのは、バッハ作品としては初めて出版されたパルティータの中から最も親しまれている第2番。そして大友も思い入れが強く、彼らのデビューCDにも録音している第5番。何れもハ短調なのは、単なる偶然でしょうか。
互いにバッハを弾いた後のアンコールは、バッハしかない。二人が揃って登場し、先ず曲名を告げて弾かれたのは、ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタ第2番変ホ長調BWV1028から、最初の二つの楽章。これで夕の部終了と思いきや、もう1曲ということで曲名を告げずに美しメロディーが流れ始めます。あ、これ何だっけ。曲名が喉元まで出てくるけれど思い出せない。
終わってから顔馴染みの音楽家や詳しい知人に聴いてみましたが、“あれ、あれだよね。ウン” てな具合で喉に棘が刺さったよう。思い切って関係者のチェロ弾きさんに聴くと、“バッハのアリオーソかな、原曲は判らん” との答え。それでも何とか分かりましたよ。二つ目のアンコールは、ハープシコード協奏曲第5番へ短調BWV1056から第2楽章ラルゴ。確かにバッハのアリオーソとして様々な楽器や歌に編曲され、映画音楽としても使われています。チェンバロでなくチェロで弾かれたので、思い出せなかったワケ。終了後に一騒動あった夕の部でした。
夜の部は日もとっぷりと暮れたとあって、大人のまったりとした時間を楽しむプログラム。盲目の女流作曲家パラディス、このデュオの愛奏曲でもあるフォーレ、誰でも知ってるラフマニノフと続き、一日の大トリとしてプロコフィエフが披露されました。大友にとって憧れの作品、師でもあった井上頼豊氏のエピソードを紹介しながら、熱きプロコフィエフで夜の部が締め括られます。
あとはアンコールのオン・パレード。フォーレの子守歌、ガスパル・カサドのセレナードと続き、最後は二人から来場された聴衆の方々への感謝の1曲(エルガーの愛の挨拶)で名残惜しくも、誠に豊かな一日が暮れていきました。
3回全て聴かれた方、都合で1回のみ参加された方、夫々の時間の過ごし方も夫々だったでしょう。二度のやや長い休憩がありましたが、個人的には近くの公園で動物たちと戯れたり(白鳥を聴いた後でしたからね)、浦安のグルメ・スポットを探索したりと、半日の浦安は退屈しませんでしたね。次があったら、皆様も是非。
なお、会場では3回とも本格的なビデオ収録が行われていましたが、実際にどのような形で視聴できるようになるかは未定とのことでした。
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