第63回SQW/エルデーディQ

昨日は今年最後のSQW例会、エルデーディ弦楽四重奏団を聴いてきました。客席が埋まらないことでは名物の水曜日四重奏連続演奏会、昨日はその中でもガラガラ度が際立っていた夜でしたね。
エルデーディは聴きたくない、ということではなく、ヤッパリ曲目故なんでしょう。ツェムリンスキーとベルク? というだけで敬遠した人が多かったかも。その曲目は、

ツェムリンスキー/弦楽四重奏曲第2番 作品15
~休憩~
ベルク/抒情組曲
エルデーディ弦楽四重奏団

演奏時間は短めですが、演奏するほうも聴くほうもこれで充分。重量級強面四重奏大盛。ベルクは先月、エクセルシオを聴いたばかりです。それも試演会と本番の2度も。ほんの一月で3度目ですから、どうしても比べてしまいました。
その感想。

リーダーの年齢とか音楽的背景のためでしょうね、エクセルシオに比べると遥かに大人しく、口当たりの柔らかいベルクでした。二つの演奏の間には、音楽的なバックボーンに10年、いや四半世紀(25年)くらいの開きがある感じでしょうか。
エルデーディをこのシリーズで聴くのは7回目です。これまでハイドン→メンデルスゾーン→シューマン、と聴いてきて今回のコンサート。どうしてもドイツ・オーストリア音楽の伝統の範囲内でのベルク、という繋がりで聴いてしまいました。

3回聴いた抒情組曲、私にとって最も強烈だったのは、代官山サロンでのエクセルシオでしたね。やはりこういう音楽はサロンのような小さな空間で、眼前に展開する弦のあらゆるテクニックを目の当たりにするのが私の好み。
あの場でのベルクの面白さが上野の小ホールでは大分減退して聴こえたし、今日の晴海は美しく柔らかいベルク、という側面に光が当たっていたように感じました。
それでも第3楽章、とてつもなく面白いですね。中間点から音楽が逆行し、最初から弾いても最後から演奏しても同じ音楽になる仕掛け。何度聴いても面白いし、難しそう。何で解説にこのこと書いてないんでしょうかね。凄い聴きどころだと思うんだけど・・・。
エルデーディも第3楽章、バッチリ決まってました。

その前に演奏されたツェムリンスキー。実はこれこそが聴きたかった作品。極めて少ない常連さんの中にも、“ツェムリンスキーが聴きたくて来ました” という人もいたように、コアなファンには聴き逃せないレア・チャンス。
ただし演奏という観点からは、ベルクの方が出来が良かった、というのが私の正直な感想です。それでもツェムリンスキーの四重奏文献をナマで聴けた喜びは望外なもので、ますますこの作曲家に嵌ってしまいました。
この日のプログラムの執筆も渡辺和氏。それによれば第2は、「室内楽の限界ギリギリの複雑巨大な音楽。・・・・・40分の夢から覚めるように終わる」ということです。

この後半は正にその通り、あっという間、夢を見ているような40分でした。しかし前半の複雑巨大さ。これについては別の機会に体験してみたい、という期待が高まりましたね。この日はあくまでも室内楽の典型、という感じ。今日の演奏に、更なる鋭い切り口と迸るパッションが伴えば、それこそ限界ギリギリが味わえそうなクァルテットですね。
(今回のプログラムも中々の読み物。特に「ツェムリンスキー復興とベルク再評価」は、様々な示唆に富んだ永久保存版です)

第2弦楽四重奏は単一楽章の作品です。私は第2に限らず、ツェムリンスキーのクァルテットは楽譜しか知りません。CDも持ってません。
譜面だけでの判断では、実に複雑に声部が入り組み、その構造も多様。単に通常の4楽章構成を繋いだものではないと思っています。冒頭に出る音型が全体を通して繰り返され、変容していく。最後は第2ヴァイオリンが、この音型を使った美しいコーダを、それこそ夢のように奏でるのです。
演奏を目で追いながら、面白いことに二つ気が付きました。

ベルクにも一ヶ所あるのですが、ツェムリンスキーでも二箇所、第2ヴァイオリンがチェロの譜面を捲る所があります。エクセルシオでは隣に座った奏者が手で捲っていましたが、エルデーディの場合は間にヴィオラが座っています。そこでチェロの譜面に固めの付箋のようなものを貼っておき、第2ヴァイオリンが座ったまま弓で付箋を押し、チェロの譜面を捲るのでした。

もう一つ面白い場所。スケルツォ部に相当するシュネルが終わって少し行ったところで、チェロが調弦を替えるんですね。少し弾いて直ぐに元に戻す。
帰ってからスコアで確認したところ、練習番号80に C Saite nach H herunterstimmen! と書いてあります。つまり一番低いC弦を一音下のHに調弦する。即ちスコドゥラトゥーラですね。普通の調弦では出ないHを10小節弾いた後、rasch nach C umstimmen で素早く元に戻す。この間モルト・アレグロでたったの5小節です。音を出して確かめるわけにはいかないので、花崎氏、ネジの位置を目で確かめて調弦してました。

う~ん、こういう荒業を確認できるのはライヴの醍醐味。レコードだけ、楽譜も無しに判る人がいたら尊敬しちゃいますよ。つくづくレコード評論家なんぞにならなくて良かった、と思いましたわ。
それにしても何でツェムリンスキーはこんな手間をかけたんでしょうか。一つ思い当たったのは、第2はシェーンベルクに献呈していますね。シェーンベルクの嫁さんはツェムリンスキーの妹ですから、義理の弟にあたるわけ。
で、シェーンベルクは確かチェロ弾きですよね。第2もシェーンベルクが弾くことを仮定して作曲したんじゃないのかなぁ。だとすれば、かなりの意地悪。
ツェムリンスキーとシェーンベルクの間って、本当のところはどうだったんだろう。チョッと調べてみたくなりました。

 

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