強者弱者(170)

蜻蛉

 此頃、場末には腕白ざかりの子ども手に手に細き竹竿をもちて蜻蛉とりに余念なし。曾ては蝉の声に箸を捨てゝ飛びいだしたるが今はせめあぐみて其ほこさきを新来の蜻蛉に向く。捕りて鳥籠などに入れたるを見るに、大さ夏の初めに出づるシャホ、カギヤに二倍し、青緑色にして、其色甚だ美なり。戯れにこれは何といふ蜻蛉ぞといふに、鼻をすゝりながらギンチョなりといふ。ヤンマならんといふに眼をむき出してヤンマは之より大なり、これはギンチョなりと一大事のごとく争ふもをかし。
 野馬に次ぎて赤蜻蛉出づ。赤蜻蛉は夕日に群れて飛ぶ。其驀然に進みきたりて巧みに身をかはすさま、とんぼがへりといふことおもひ合されてをかし。

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「蜻蛉」(とんぼ)の話題です。昔からトンボ採りは子供の最も楽しい遊びでした。現在は捕虫網で採るのが一般的でしょうが、私が子供の頃は細い竹竿の先にトリモチをつけた「モチ竿」で採るのが普通でしたね。トリモチは駄菓子屋で売っていました。
他に糸に錘をつけて採る方法もあったそうですが、私の時代の東京ではほとんど見られませんでした。メスを囮にしてオスを何匹も採る強者もいたものです。

ここに出てくるシャホ、カギヤ、ギンチョ、ヤンマは、どれもトンボの種類。時代により、地方により呼び方は様々でした。
「ギンチョ」が「ギンヤンマ」であることは間違いないでしょう。これより大きい「ヤンマ」も「オニヤンマ」で決まり、か。

ヤンマを漢字で書けば「野馬」。

よく判らないのは「シャホ」と「カギヤ」。夏の初めに出てヤンマ類の半分ほどの大きさということからすれば、「シオカラトンボ」「ムギワラトンボ」と呼んでいるものではないでしょうか。
虫に興味がある方ならご存知でしょうが、ムギワラトンボはシオカラトンボの♀で、同じ種類。共に「シオカラトンボ」が正式な和名です。

その他、東京では初夏にコシアキトンボが多く見られますが、これの別称かも知れません。いずれにしてもトンボは詳しくないので、ご存知の方がおられましたらご教示願えれば幸甚です。

赤蜻蛉も厳密にはいろいろな種類がありますが、子供の頃、恐らく昭和20年代の終わりか30年代の初めだったと思いますが、東京の空が赤蜻蛉の大群で真っ赤になったことがあります。時に大発生する赤蜻蛉、トンボの自殺という話題も思い起こされて懐かしい気がいたします。

「驀然」は、「まっしぐら」。「ばくぜん」とも読み、「驀地」と書くこともあります。「驀」を辞書で探すなら、「くさかんむり」ではなく、「うまへん」。この一字で乗り超える、まっしぐらの意味です。

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