強者弱者(69)

近郊の梅

 蛤を売る声寒し。
 市内各駅に鉄道庁の探梅広告を見る。杉田、大森、蒲田の梅園既に見頃なり。関東の梅は杉田に尽く。江東、木下川の梅園は未だし、梅は庭園にありてよしといふは僻言なり。大船より横須賀線に沿うて通ずる山道、渓谷紛糾して蒼空を壺中に仰ぐ所、茅屋三五、脩竹蕭條として半扉を閉し、白昼闃寂として鶏鳴を遠く山腹の廃寺に聴く所、梅あり、懸崖により、竹林に沿うて咲く、野趣最も掬すべしといはんか。

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梅の名所として杉田が挙がっていますが、江戸時代は関東地方随一の梅の名所でした。浮世絵にも描かれているほど。

http://ch.kanagawa-museum.jp/dm/ukiyoe/kanagawa/meisyo/d_meisyo12.html

「僻言」は「ひがごと」と読みます。事実と違ったこと、間違ったこと、の意味。

「紛糾」(ふんきゅう)は、物事が上手く行かないことに使いますが、本来は乱れもつれること。山や谷が千千に入り組んでいる様を表しているのでしょう。

「蒼空を壺中に仰ぐ」という表現は、中国の故事、「壺中の天」をもじった言い回し。一壺天(いっこてん)で辞書を引いてみて下さいな。

「茅屋」は「ぼうおく」。かやぶきの屋根の意味から、あばら家を指します。自分の家をへりくだって言う時にも使いますね。
「三五」は「さんご」。ここでは、あちらに三つ、こちらに五つと散らばることで、現在では「三々五々」と使った方が通りが良いかも知れません。

「脩竹」(しゅうちく)は、長く伸びた竹。「蕭條」は秀湖随筆には良く登場する言葉で、既に取り上げましたから繰り返しません。

「闃寂」(げきせき)も同じ。これは(44)で取り上げました。

 

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