強者弱者(99)

青葉の雨

 田植の頃、毎年青葉の雨に冴えかへりて寒さ身にしむことあり。駿遠地方時に茶の霜害を被ることあるも此頃なり。近郊に絶えて茶摘の歌を聴かず。唯、相州田名の高原、中津の台など、馬入川の上流に於いて桑の新芽の遠く霞に入りて天際に連る処、またなき眺めなり。此あたり春昼閴として行人全く絶えたるに、若き男女の、相抱きて葉蔭にしのびたるが、のどかなる雲雀の声に、そぞろ夢路をたどれる旅人を驚かして、あわただしく立ち出でたる、罪深し。

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今日(5月2日)は八十八夜ですから、それまでは年によって霜害があります。今年(平成22年)は特に冷害が酷く、静岡の新茶の出荷もかなり遅れているようですね。

相州は言うまでもなく相模のこと。田名も中津も相模川上流の地名ですね。

馬入川(ばにゅうがわ)は、要するに相模川のこと。茅ヶ崎市と平塚市に挟まれるように相模湾に注ぐ辺りを馬入川と呼んでいます。

「天際」(てんさい)は現代ではあまり使いませんが、「天の果て」のことです。

「閴」(げき)は以前にも取り上げましたが、ひっそりとしている様を表現する文言。

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