ベルモントはユニオン・ラグス!
日本のスポーツ紙でも大きく報道されているように、三冠の期待が掛かったアイル・ハヴ・アナザー I’ll Have Another がベルモント・ステークスの前日、屈腱炎のために突如の引退。大きな失望が全米を奔り抜けました。
故障は軽いものだそうですが、治療には時間が掛かり、最低でも1年は必要とか。同馬がせん馬なら治療に専念して復帰を目指すのがベストの選択肢でしょうが、種馬としての価値が高いアイル・ハヴ・アナザー、馬主側の素早い判断で引退を決意したようです。
ということで、昨日のベルモント・パーク競馬場は、レースが行われた順にレポートして行くことにしました。先ずは第7レースのトゥルー・ノース・ハンデキャップ True North H (GⅡ、3歳上、6ハロン)。この日のダート・コースは fast 、8頭が出走してきました。
出走馬中6頭がG勝馬、内2頭はGⅠ馬でしたが、7対2の1番人気に支持されたのはチャールズ・タウン・クラシック(GⅡ)の勝馬カイシャ・エレクトロニカ Caixa Electronica 。タフな馬で、前走メトロポリタン・ハンデは4着でした。GⅠ3勝のスマイリング・タイガー Smiling Tiger も同じく7対2で続きます。
レースはパシフィック・オーシャン Pacific Ocean が飛ばし、これをGⅠ馬のジャイアント・ライアン Giant Ryan 、クロスボウ Crosbow 、ジャスティン・フィップス Justin Phips が追走するハイペースで、他の4頭は大きく置かれる展開。直線半ば、悲劇が起きます。2番手から抜けようとしていたジャイアント・ライアンが両脚を骨折して落馬。替って先頭に立ったジャスティン・フィリップが逃げ込みに入りますが、後方2番手で直線に入った本命カイシャ・エレクトロニカが信じられないような末脚を発揮して突き抜け、鮮やかな差し切り勝ち。
4分の3馬身差3着にジャスティン・フィップス、更に4分の3馬身差には後方3番手に付けていたスマイリング・タイガーの順。負傷したジャイアント・ライアンは救急車で運ばれ応急処置がなされましたが、現時点では様子見の状態のようです。
勝馬の調教師はトッド・プレッチャー師、勝利騎手はハヴィエル・カステラノ。
次は第8レースのジャスト・ア・ゲイム・ステークス Just a Game S (芝GⅠ、3歳上牝、8ハロン)。芝コースの馬場状態は firm 。7頭が出走し、前走ボーゲイ・ステークス(芝GⅢ)に勝ったウインター・メモリーズ Winter Memories がイーヴンの圧倒的1番人気。
レースは2番人気(3対1)のタピッツフライ Tapitsfly が逃げて平均ペースに落とします。本命ウインター・メモリーズは4番手追走から直線で追い上げましたが、結局はタピッツフライがまんまの逃げ切り勝ち。ウインター・メモリーズは2馬身4分の1差及ばず2着。更に1馬身4分の3差3着には2番手追走の3番人気(7対2)ハングリー・アイランド Hungry Island 。ほぼ人気通りの決着でした。奇しくも芦毛馬のワン・ツー・フィニッシュ。
タピッツフライはデール・ロマンス厩舎、ラモン・ロドリゲス騎乗。前走は、ケンタッキー・ダービー当日のチャーチル・ディスタッフ・ターフ・マイル(芝GⅡ)でハングリー・アイランドの2着でした。ロマンス師によれば、ベストの距離が1マイル。今回は競合する先行馬が無く、作戦勝ちでもありました。
第9レースのウッディー・スティーブンス・ステークス Woody Stephens S (GⅡ、3歳、7ハロン)。10頭が出走し、5対2の1番人気はケンタッキー・ダービーで逃げ争いを演じ17着に敗退したトリンニバーグ Trinniberg 。今回も先行逃げ作戦。
作戦通り先手を取ったトリンニバーグは、2番手を追走したカレンシー・スワップ Currency Swap を寄せ付けることなく1馬身4分の3差で快勝、行った行ったの決着となりました。3着も1馬身4分の3差で3番手追走のイル・ヴィラーノ Il Villano 。前のレース、ジャスト・ア・ゲイム・ステークスのタピッツフライと同じようなレース内容が続きました。
この勝利で最強3歳スプリンターに一歩近づいたトリンニバーグは、スウェール・ステークス(GⅢ)、ベイ・ショア・ステークス(GⅢ)と連勝してケンタッキー・ダービーに挑戦。再び短距離路線に戻っての快走でした。調教師はビスナース・パルボー師、鞍上はウィリー・マルチネス。同馬のオーナーはパルボー師の御子息で、皮肉にもトゥルー・ノース・ハンデで落馬したジャイアント・ライアンの馬主でもあります。騎乗していたのも同じマルチネス。トリンニバーグの優勝を素直には喜べない複雑な心境でしょう。
さて第10レースはマンハッタン・ハンデキャップ Manhattan H (芝GⅠ、3歳上、10ハロン)。1頭取り消して8頭立て。2対1の1番人気は、5月19日にピムリコでディキシー・ステークス(芝GⅡ)に勝ったハドソン・スティール Hudson Steele 。
そのハドソン・スティールが果敢にハナに立って逃げ切りを図りますが直線で一杯。内から抜けた4番人気(9対2)のボイステラス Boisterous 、中を通った5番人気(6対1)のデザート・ブラン Desert Blanc 、その外から6番人気(10対1)パパウ・ボウディー Papaw Bodie の3頭の叩き合いになりましたが、最後はデザート・ブランとパパウ・ボウディーが鼻面を揃えてゴール。写真判定の結果、デザート・ブランがハナ差先着していました。1馬身半差でボイステラスが3着。
チャド・ブラウン師が管理、ラモン・ロドリゲス騎乗のデザート・ブランは英国産馬。フランスでパスカル・ベイリー師が調教師、ドーヴィルのリステッド戦に勝ち、プランス・ドランジュ賞(GⅢ)で3着してからアメリカに転厩していました。これがアメリカでの2戦目でした。ロドリゲスは第8レースに続いてG戦ダブル。
そしてフィナーレが第144回ベルモント・ステークス Belmont S (GⅠ、3歳、12ハロン)。三冠レースの最終便でもあります。冒頭で紹介したように、本命馬の突然の引退。ライヴァルとして闘ってきたボウディマイスター Bodemeister が欠場したこともあって、前2冠とは様相の異なるクラシックになってしまいました。最終的には11頭がゲートイン。替って1番人気(5対2)に支持されたのはブルー・グラス・ステークス勝馬でダービー3着のダラハン Dullahan 。冬場のダービー1番人気だったユニオン・ラグス Union Rags も同じ5対2の2番人気で差無く続きます。
レースは3番人気(4対1)のペインターPaynter が先行、アンストッパブル・ユー Unstoppable U 、オプティマイザー Optimizer などが追走。ユニオン・ラグスは先行馬を見るように5番手の内ラチ沿い、ダラハンは後方で待機します。直線、平均ペースで逃げたペインターが渋太く粘るところ、丁度馬1頭分ポッカリと空いた内ラチと逃げ馬の間を衝いてユニオン・ラグスが追込み、ゴールでは首差抜けていました。1馬身4分の3差でアティガン Atigun が3着。以下ストリート・ライフ Street Life が4着、ファイヴ・シックスティーン Five Sixteen 5着。ダラハンも追い上げたものの7着敗退に終わりました。
ユニオン・ラグスを管理するマイケル・マッツ師は、バルバロ Barbaro のケンタッキー・ダービーに続いてクラシックは2勝目。騎乗したジョン・ヴェラスケスは2007年のラグス・トゥー・リッチズ Rags to Riches に続きベルモント・ステークスは2勝目、去年はアニマル・キングダム Animal Kingdom でケンタッキー・ダービーを制しており、3勝目のクラシックとなりました。
去年はシャンペン・ステークス(GⅠ)に勝ってBCジュヴェナイルが2着、今年もファウンテン・オブ・ユース(GⅡ)に勝ちながらフロリダ・ダービー(3着)、ケンタッキー・ダービー(7着)と着順を下げ、終わった馬という評価もあった存在でした。主役のリタイアに恵まれたとは言え、鮮やかな復活劇でしょう。
一方惜しかったのはペインター陣営。ボウディマイスターでクラシックに連続2着だったボブ・バファート師は又しても2着。しかも馬1頭分を開けて直線に入ったマイク・スミス氏は、当分はバファート師の眼を見ることが出来ないかもしれません。主役不在でも多くのドラマを産んだベルモント・ステークスでした。
さてさて、この日はハリウッド・パーク競馬場でもG戦が2鞍行われました。余り目立ちませんが、古豪の復活もあります。
先ずはハネムーン・ハンデキャップ Honeymoon H (芝GⅡ、3歳牝、9ハロン)。こちらも芝コースは firm 、5頭立て。前走プロヴィデンシア・ステークス(芝GⅢ)を含めて2連勝中のレディー・オブ・シャムロック Lady of Shamrock が断然の1番人気(1対2)に支持されていました。
伏兵(13対1)ロング・フェース Long Face がスローに落として逃げましたが、後方を進んだ2番人気(3対1)のマイ・ジー・ジー My Gi Gi とレディー・オブ・シャムロックの差し比べに。際どい写真判定の結果、ハナ差でマイ・ジー・ジーが先着。次の一歩では完全に本命馬が抜けていたので、レディー・オブ・シャムロックは正に惜敗でした。3着は半馬身差でストーミー・ラッキー Stormy Lucky 。
マイ・ジー・ジーはブライアン・コリナー厩舎から現在のピーター・ユールトン師の下に転じて来たばかり。騎乗したラファエル・ベハラノは、去年のこのレースもセイラーズ・シークレット Sarah’s Secret で制しており2連覇となります。
そしてチャールス・ウィッティンガム・メモリアル・ハンデキャップ Charles Whittingham Memorial H (芝GⅠ、3歳上、10ハロン)。何と言っても去年の最強古馬に選出されたアクラメーション Acclamation の復帰に注目が集まります。1頭取り消した5頭立て、イーヴンの圧倒的1番人気。
スタートから終始先手を奪ったアクラメーション、堂々の逃げきりでこのレース3連覇を達成しました。2着は1馬身差で2番人気(6対5)のスリム・シェイディー Slim Shadey 、更に4馬身4分の1差3着が3番人気(5対1)ユートピアン Utopian と順当な結果。
ドナルド・ウォーレン師が管理、パトリック・ヴァレンズエラ騎乗のアクラメーションは、去年10月以来の実戦。去年5月からは6連勝で、今年も古馬チャンピオンの座を争うでしょう。なお、このレース3連覇は伝説的名馬ジョン・ヘンリー John Henry に続く偉業です。
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