日本フィル・第278回横浜定期演奏会

関東地方も梅雨入りした昨日、横浜みなとみらいホールで行われる日フィルの定期を聴いてきました。実はこの日は都心の各ホールでも聴き逃したくない室内楽も多く、悩ましい選択だったことを正直に告白しておきましょう。
ただ定期会員になってオーケストラを支えると決意した以上、身勝手な我が儘で演奏会をパスするのは慎むべきと思慮します。

この回は「輝け!アジアの星」と題された日フィル横浜の連続企画の一環、第4弾に相当します。対象は韓国・釜山生まれの女流指揮者シーヨン・ソン。以下のプログラム。

ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488
     ~休憩~
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
 指揮/シーヨン・ソン
 ピアノ/仲道郁代
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

もちろん私は初めて聴く指揮者です。名前も初めて耳にする方。4歳でピアノを始め、13歳でソロ・デビューした由。
指揮者としては2006年のショルティ国際で優勝して以来、欧米の著名オケを振っているそうな。オペラでも「魔笛」でベルリン・デビュー、現在はソウル・フィルでチョン・ミュンフンのアソシエイト・コンダクターを務めています。
今回は日本フィルだけでなく日本デビューともなる、彼女にとってはかなりプレッシャーがかかるコンサートだったと思われます。

その所為もあるでしょう、颯爽と登場しながらも緊張した面持ち。笑顔は見られません。胸を張り、堂々たるタクト。協奏曲とアンコールは指揮棒を持ちませんでしたが、他はタクトを使います。譜面を見ながらの堅実な指揮。

私としてはただ一度の体験であれこれ言うのは遠慮したいと思いますが、やはりまだまだ経験が浅いことを感じてしまいました。
ワーグナーにしてもショスタコーヴィチにしても元気は良いのですが、表現したいことが見えてくるまでには至りません。恐ろしく速いテンポが目立ちましたが、最初から意図したというより、やや舞い上がって思わず知らず加速してしまった、という印象なのです。
今回の経験を糧にして、更に精進を重ね、企画のようにアジアの星として輝くようにエールを贈りたいと思います。

それにしても指揮者を育てる、あるいは指揮者になる、というのは時間が掛かるものだと言わざるを得ません。現在若手の人気指揮者として活躍している人たちでも、そのほとんどは未完の大器と言おうか、指揮者としては成長途上。アジアに限らず、先進欧米諸国でも指揮者の人材不足は深刻な問題ですね。
なんであんな人が指揮者として人気を博しているのかと、疑問を持たざるを得ない人の何と多い事か。

前半の2曲目に協奏曲がありました。弦は8型、コントラバスは1人という徹底した省エネ編成。もちろんソリストの要望でしょう、ここまでオケの音量を抑えれば何とかピアノも聴こえてきます。
しかしこの微かな響きでは、みなとみらいホールを満たすまでには至りません。もっと小さい室内楽ホールで演奏されるべきモーツァルトと感じます。
ピアノ演奏も書かれた楽譜通りの誠実なもの。残念ながらモーツァルトならではの独創性はほとんど感じられませんでした。

最後にアンコールが一つ、グリーグの「過ぎにし春」。これを終えて漸く、ソン嬢にも笑顔が浮かんできました。
おっと、会場は大いに盛り上がっていましたよ。辛口な感想を持ったのはメリーウイロウだけだったのでしょうね。

この日で、かつては首席奏者も務めたホルンの工藤光博氏が退団、花束贈呈がありました。明日の同じプログラムにも登場しますが、エキストラとしての演奏だそうです。

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