デッドヒートのこと

2月1日の日経夕刊を見ていたら、競馬の記事が目に止まりました。京都で1月26日に行われた若駒ステークスが1着同着だったという話題。写真判定でも勝ち負けの判別がつかず、両馬を1着と見なすということ。3歳オープン特別では10年以上なかったそうで、珍しいケースでしょう。
ところでこの同着、英語では Dead Heat デッドヒートと言います。こんなこと知っている人はあまりいないでしょうから紹介しましょう。滅多にない機会ですから。
デッドヒートは競馬用語です。というか、競馬から生まれた言葉。
現在の競馬は、「せぇ~の」で走って、先頭でゴールインした馬が勝ちです。当たり前じゃないか、と言われるかも知れませんが、そうじゃない。
実は18世紀の中頃まで、競馬はこういう一発勝負ではなく、何度か走って決着を付けたんですねぇ。このスタイルの競馬を「Heat」(ヒート)と言いました。
例えば10頭が競馬をする。ヒートの結果、Aが勝ったとしましょう。当時はこれで勝負が付いたとは見なしません。もう一回10頭で第2ヒートをやります。ここでもAが勝てば、このヒート競走の勝者はAで問題なし。
しかし仮にBが勝ったらどうするか。そのときはAとBの2頭で第3ヒートを行い、決着を付けます。全部、距離や負担重量は同じ。
以上が原則。例外もありますが、昔の競馬はこのスタイルでした。しかしこれは時間がかかりますし、馬に対する負担も大きい。そこで考え出されたのが、現在のスタイル。これを「Race」(レース)と名付けたんですねぇ。
だから英語で The Race と言えば競馬のこと。嘘だと思ったら、本格的な辞書を引いてご覧なさい。
それでですね、話を第3ヒートに戻します。当時の判定はもちろん写真などありませんから、コースの向うとこっちに審判が二人立ち、彼らの目で判定したんです。で、AとBの差が判定できないほど際どい場合には、決着が付きません。そのとき初めてデッドヒート、即ちヒートでは決着が付かない、ヒートは無効とされたのです。だから Dead Heat 。
野球の放送などで点の取り合いになり、“激しいデッドヒートですねぇ”などと喋るのは明らかな間違い。引き分けになって初めてデッドヒートなんです。

 

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