日本フィル・第597回東京定期演奏会

今朝、妙に静かだな、と思って窓を開けたら、東京は雪。それも積もっているではありませんか。
昔勤めていた会社に長崎出身の男がいて、「雪が降っちょる」と言っていました。“何だ、それ?”と訊き質したところ、長崎では(九州では)、雪が降っている状態を「雪が降りよる」といい、降った雪が積もっている状態が「雪が降っちょる」というのだそうな。日本語に痛く感心したことを思い出しました。さしずめ今日は雪が降っちょる。
ということで今日は一日冬篭り。昨日のコンサートの感想でもゆるゆると認めましょうか。

日本フィル第597回定期演奏会
シベリウス/交響曲第1番
~休憩~
吉松隆/鳥たちの時代(日本フィルシリーズ第31作)
シベリウス/交響曲第7番
指揮/井上道義
コンサートマスター/扇谷泰朋
フォアシュピーラー/江口有香

今回のプログラムは、この形に落ち着くまでに紆余曲折があったようですが、最終的にはよく纏まり、芯の通ったものになりましたね。
シベリウスは創立指揮者・渡邉暁雄の得意とした作曲家で、日本フィルも折に触れて演奏してきました。今回も指揮者は変われど、「日フィルのシベリウス」が懐かしくサントリーホールに鳴り響いたのでした。
またサンドイッチのように挟まれた作品は、これまた渡邉時代からの伝統である「日本フィルシリーズ」の一作。強く日本フィルを意識した選曲になっていると思います。

日本フィルシリーズから生まれた名作は数多いのですが、演奏される頻度は必ずしも多いとは言えないのが現状。そこで同オケは過去の作品を再演することによって、改めて作品の真価を問おう、という試みを開始します。今回はその第1回。もちろん新作委嘱も続けるそうですが、じっくり過去を振り返るのも大切なこと。今後のシーズンでも、日本フィルシリーズの遺産が定期的に取り上げられていくことに期待しましょう。

更にプログラムについて触れれば、吉松隆にとってシベリウスは「心の師」。態々フィンランドのシベリウスの墓に献花をしてきたほどの思い入れがあります。シベリウスと組むには相応しい作曲家の一人と言えるでしょう。
その上、冒頭に演奏されるシベリウスの第1は作曲者33歳の時の作品。吉松の「鳥たちの時代」も吉松33歳の若書きなのです。ここにもプログラミングの意図が隠されているのでしょうか。

さて指揮者の井上道義。彼もまた日本フィルとは少なからぬ因縁で結ばれている指揮者です。彼が指揮者としてデビューしたのは、何と1976年5月19日の日本フィル定期でのこと。時に道義29歳。井上も日本フィルから「飛び立った」一羽の鳥だったのです。
今回再演される吉松作品の初演を振ったのも、これまた井上道義。1986年5月24日の定期でした。

マエストロ井上は、事前のマエストロサロンでも触れていたように、シベリウスは良く似た素材を用いながら、若い時(第1番)と大家になってから (第7番)では向いている方向が全く違っているという意見。第1番では「ギンギラギン」の自己主張が煩いくらいに感じられるのに、晩年は自身の語法のエッセンスだけを単一楽章にギュッと凝縮し、清冽な音楽を書き上げている、とのこと。
当夜の井上の演奏は、正にこの点に主眼を置いたもので、その意味でも見事な「井上流シベリウス像」を打ち立てるのに成功していたと思います。

日本フィルも指揮者の意向をシッカリと受け止め、特に弦群の明るく澄んだ音色が作品を際立たせていました。人によっては重低音を物足りなく感ずる向きもあるでしょうが、これこそが日本フィルのカラー。

私は吉松作品の初演を聴いていませんので、今回が初体験。どこを聴いても吉松色に塗りつくされた音楽で、好き嫌いはあるでしょうが、やはり個性的な一品であることに間違いはありますまい。
シベリウスと並べて聴いた所為か、私には交響曲的な構成を備えた作品、と聴こえてきました。
通常の4楽章作品から第1楽章を省略したもの。即ち、第1曲「SKY」<空が鳥たちに語ること>、は緩徐楽章。第2曲「TREE」 <樹が鳥たちに語ること>、がスケルツォ。第3曲<The SUN>、が結論(フィナーレ)に相当するのではないか。全体は20分弱ですが、小交響曲と見れば、この長さも説得力があるように感じられました。
作品にはチャンス・オペレーション的な箇所がいくつもあるようで、指揮者が指で数字を指示し、各楽器に自由な演奏を促しているようでした。
このあたり、例えば故・岩城氏なら直立不動でオーケストラに数字を指示していくのでしょうが、井上はまるで踊るが如く、身体をしなやかに揺らせながらオケと対話していく。この姿から見ても、井上の音楽に対する柔軟な姿勢が見て取れるのでした。

コンサート終了後のパーティでもスピーチされたマエストロ、“吉松作品は初演の時よりは、作品に愛情を持って接しられたと思います。”と語っていました。それはシベリウスについても同じ、と私には感じられたのです。

 

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コンサートのあとで行われた、楽員と聴衆の懇親パーティーについても報告しておきます。

会場をアークヒルズの「ウルフギャング・パック・カフェ」に移して、楽団員と聴衆の親睦を兼ねたパーティーが行われました。カフェを借り切っての催しで、多くのファンが参加、楽員も全員ではないにせよ、主だったメンバーが和しました。サイン用の色紙も配られておりまして、皆さん思い思いのオーケストラ・メンバーのサインを貰い、会話が弾んでいたようです。

会はビオラ首席・後藤氏の司会進行で進められます。冒頭、平井専務理事が挨拶されましたが、その中で今後の様々な企画が紹介されました。初めて聞くような話題もありましたが、まだ決定事項ではないということで、ここでは発表は差し控えます。
会はこのあと、マエストロサロンの司会でもお馴染みのビオラ・新井氏による来シーズンの聴きどころ紹介があり、歓談を挟んで、ミニ・コンサートも。
フルートの難波薫さんとチェロの大澤哲弥氏によるヴィラ=ロボスなどのデュオ、後半はコンサートマスター・扇谷泰朋氏も加わって「カヴァレリア・ルスティカーナ」が演奏されました。

最後は当日の指揮者・井上道義氏のスピーチ、間もなく始まる九州ツアーへの期待も熱く語っておられました。後藤氏の話では、東京から九州公演を聴きに行かれる方には、事務局でチケットも準備してくれる由。参加されたい方はお早めに問い合わせを。
このパーティーの様子が、日本フィルの第2ホームページ「日本フィルへようこそ」に早くもアップされています。以下をご覧下さい。
http://www.japanphil-21.com/topics/0802party/0802party.html

 

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