ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィル(3)
一気に遡って、この記録集に記載された最初のシーズンである1942-1943シーズンからワルターのプログラムを抜き出します。ニューヨーク・フィルにとって、このシーズンは通算して第101シーズンに相当していました。
1942年10月22・23日 カーネギーホール
ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第2番
カーペンター/交響曲第2番(世界初演)
マーラー/交響曲第1番
指揮/ブルーノ・ワルター
1942年10月24日 プリンストン・マッカーター劇場(ニュージャージー)
ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第2番
シューベルト/交響曲第8番「未完成」
マーラー/交響曲第1番
指揮/ブルーノ・ワルター
1942年10月25日 カーネギーホール
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
シューベルト/交響曲第8番「未完成」
マーラー/交響曲第1番
指揮/ブルーノ・ワルター
1942年10月29・30日 カーネギーホール
シベリウス/交響曲第7番
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
ブラームス/交響曲第4番
指揮/ブルーノ・ワルター
ヴァイオリン/ナタン・ミルシテイン
1942年11月1日 カーネギーホール
ベルリオーズ/劇的物語「ファウストのごう罰」~三小品
ゴールドマルク/ヴァイオリン協奏曲
ブラームス/交響曲第4番
指揮/ブルーノ・ワルター
ヴァイオリン/ナタン・ミルシテイン
1943年1月28・29日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
ベルリオーズ/幻想交響曲
指揮/ブルーノ・ワルター
ピアノ/ルドルフ・ゼルキン
(1月29日はエグモントを省略)
1943年1月30日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベイト/ピアノと弦楽オーケストラのための小協奏曲
ベルリオーズ/幻想交響曲
指揮/ブルーノ・ワルター
ピアノ/スタンレー・ベイト
1943年1月31日 カーネギーホール
ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番
ベートーヴェン/交響曲第8番
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
指揮/ブルーノ・ワルター
ピアノ/ルドルフ・ゼルキン
1943年2月4・5日 カーネギーホール
ドヴォルザーク/交響曲第8番
ブルックナー/交響曲第4番
指揮/ブルーノ・ワルター
1943年2月6日 カーネギーホール
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
メーソン/リンカーン交響曲
ワーグナー/歌劇「タンホイザー」バッカナール
ドヴォルザーク/交響曲第8番
指揮/ブルーノ・ワルター
1943年2月7日 カーネギーホール
モーツァルト/交響曲第35番
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
ワーグナー/歌劇「リエンツィ」序曲
ワーグナー/歌劇「タンホイザー」バッカナール
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの葬送行進曲
指揮/ブルーノ・ワルター
ピアノ/アーナルド・エストレルラ
1943年4月6日 アカデミー・オブ・ミュージック(フィラデルフィア)
ハイドン/交響曲第86番
ヴォーン=ウイリアムス/タリスの主題による幻想曲
シューベルト/交響曲第9番「ザ・グレイト」
指揮/ブルーノ・ワルター
1943年4月8・9日 カーネギーホール
ハイドン/交響曲第86番
ヴォーン=ウイリアムス/タリスの主題による幻想曲
シューベルト/交響曲第9番「ザ・グレイト」
指揮/ブルーノ・ワルター
1943年4月11日 カーネギーホール
R.シュトラウス/ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
ハイドン/チェロ協奏曲第1番二長調
シューベルト/交響曲第9番「ザ・グレイト」
指揮/ブルーノ・ワルター
チェロ/ジョセフ・シュースター
1943年4月15・16・18日 カーネギーホール
バッハ/マタイ受難曲
指揮/ブルーノ・ワルター
ヴァイオリン/ジョン・コリリアーノ、ミシェル・ピアストロ
ヴィオラ・ダ・ガンバ/ヤーノシュ・ショルツ
フルート/ジョン・ヴンマー
オーボエ/ブルーノ・ラベイト
オルガン/アレキサンダー・マカーディ博士
ハープシコード/ラルフ・カークパトリック
ソプラノ/ナディーヌ・コンナー
アルト/ジーン・ワトソン
テノール/ウイリアム・ハイン
バリトン/ヘルベルト・ヤンセン
バス=バリトン/ロレンツォ・アルヴァリー
バス/マック・ハレル
合唱/ウェストミンスター合唱団
少年合唱/ピウス十世典礼音楽学校ジュニア・コーラス
《第1回サマー・シーズン》
1943年5月23日 カーネギーホール
ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番
ベートーヴェン/交響曲第8番
ベートーヴェン/交響曲第5番
指揮/ブルーノ・ワルター
1943年5月30日 カーネギーホール
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
シューベルト/交響曲第8番「未完成」
ドヴォルザーク/交響曲第8番
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以上ですが、この他に10月12日にカーネギーホールで特別演奏会の指揮もしています。内容は次のもの。
パガニーニ=ウイルヘルミ/1楽章のヴァイオリン協奏曲(アルバート・スポールディング)
プッチーニ/歌劇「ラ・ボエーム」~Che gelida manina(ニーノ・マルティーニ)
ロッシーニ/歌劇「ウイリアム・テル」序曲
しかもプッチーニではワルターに替わり、アルフレッド・アントニー二という人が指揮を受け持っています。恐らく何かのチャリティー・コンサートだったと思われますが、ワルターとしては珍品に属する作品ですので参考として紹介しておきます。
1943年の聖週間に演奏されたマタイ受難曲、ニューヨーク・フィルでは伝説になったコンサートで、ワルターはこのシーズンを含めて4年連続で指揮するのです。それ以前にも習慣があったのかどうかは不明ですが、カーネギーホールが教会と化したと言われたほどに感動的な演奏だったそうです。ただし歌唱は英語で行われた、という記載を別の資料で読んだ記憶があります。
ワルターはこのシーズンでアメリカ作品を3曲取り上げています。
1942年10月に世界初演したジョン・オールデン・カーペンター (1876-1951) はイリノイ州パークリッジに生まれ、シカゴで没した人で、ビジネスマンと作曲家の二足の草鞋を履いていた人ですね。交響曲は2曲残していますが、乳母車の冒険という管弦楽曲で辛うじて名前が残っています。
1943年2月に取り上げたダニエル・グレゴリー・メーソン (1873-1953) は、マサチューセッツ州ブルックリンに生まれ、コネチカット州グリニッチに没した人。交響曲は3曲残していますが、ワルターが指揮したリンカーン交響曲は第3番に当ります。
1943年のスタンレー・ベイト (1912-?) は調べがつきませんでした。例えばオックスフォードのコンサイス音楽事典にも記載がありません。この演奏では自身がピアノを弾いていますから、ピアニスト兼作曲家だったことが想像されます。
レコード音楽大辞典を調べたところ、SP時代にフルート・ソナタの録音があって、マルセル・モイーズとL.モイーズのピアノによる演奏がオアゾ・リールから出ていることが確認できました。
ニューヨーク・フィルは、このシーズンの終わりから「サマー・シーズン」という企画を始めています。United States Rubber Company がスポンサーとなり、Columbia Broadcasting Systems が放送、コンサートは毎週日曜日の午後3時からカーネギーホールで行われるというもの。ただしこれは3年で打ち切られています。
第1回の指揮者陣を紹介すると、
5月23日と30日がブルーノ・ワルター、6月6日と13日はピエール・モントゥー、6月20日と27日にユージン・オーマンディ、7月4日と11日はジョージ・セル、7月18日にウィリアム・スタインバーグ、7月25日ホセ・イトゥルビ、8月は1・8・15日の3回をフリッツ・ライナーが振り、8月22・29日と9月5日がディミトリ・ミトロプーロス、9月12・19日がハワード・バーロウ、9月26日と10月3日のウラディミール・ゴルシュマンで締め括っています。
新シーズンは10月7日スタートですから、オーケストラはほとんど休み無し。3回で打ち切られたのはこの辺にも事情があるのかもしれませんが、全くの憶測ですから念のため。それにしても凄い指揮者陣、見ているだけで卒倒しそうですな。
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