追悼、イルジー・ビエロフラーヴェク

昨日、6月1日の夜、ビエロフラーヴェクの訃報が飛び込んできました。悲しみより先に立ったのが驚き。“エッ、未だ若いのに”
咄嗟にそう感じたのは、ビエロフラーヴェク氏は私と同い年。氏は日本で言う早生まれなので学年は一つ上でしたが、私が定期会員である日本フィルを定期的に指揮してきた指揮者の中で、ビエロフラーヴェクとオッコ・カムとが同年生まれなので特に親しみを持って聴いてきた次第です。

最近ではスッカリ「偉く」なってしまって日フィルの指揮台からは遠ざかっていましたが、未だマエストロ・サロンが毎月の様に行われていたころは3年置き位のペースで来日し、サロンにも何回か登場してくれました。
その最後の会は当ブログにも間に合って概要をレポートした覚えがありますが、そこでは触れなかった事などを含めてマエストロの思い出としたいと思います。

些か箇条書き風になりますが、
ビエロフラーヴェクが初めて日本フィルを振ったのは確か1974のことで、当時は日フィルが分裂したばかり。世界的に名のある指揮者を呼べるほどの財政状態ではなく(失礼!)、苦境のオケを手伝ってくれる人を探していた頃でしょう。
同オケと縁のあったチェコの指揮者、コシュラーだったかスメターチェクだったか(記憶が定かではありません)が“才能のある若手がいるよ”ということで推薦してきたのが彼。当然ながらギャラも安かったでしょうし(又しても失礼)、日本フィルに続けて客演することになった(もちろん演奏が良かったから)と聞いています。

あの頃は一人の指揮者が2か月間ほど滞在して2回の定期を振る位のことが普通でしたから、ビエロフラーヴェクも東京に長期滞在。その間ホテル住まいが出来るほど裕福でなかった氏は、楽員の家に寝泊まりして凌いでいた由。
その当時の逸話で、ビエロフラーヴェクはカレーライスに付いている福神漬けに大感激。“世界にこんな美味い食べ物があったとは知らなかった”とかで、来る日も来る日も福神漬け漬け。これはマエストロから直接聞いた話ではなく、裏マエストロ・サロンで教えてもらったと記憶しますが、もう時効でしょう。

ビエロフラーヴェクの最初のマエストロ・サロンは未だBBCとの関係が生まれる前で、近況としては“比較的ヒマ。家には池があって、そこで飼っている鯉にエサをやるのが日課です”なんて話してもいましたっけ。
日本では英語を使っていましたが、立て板に水というような話しぶりではなく、言葉を選ぶというか、探すように訥々と語っていたことを懐かしく思い出します。

その中にスコアの勉強法というのがあって、マエストロ曰く、スコアは一番上の段のフルートのパートを最初から最後まで通して読み、次はオーボエ、クラリネットと進み、最後のコントラバスまで一通り読む。それが全体を理解するのに大変効果がある。という趣旨のことを話されました。
私は音楽家ではありませんが、一応演奏会に出掛ける前にはスコアに目を通しておく習慣があります。私も早速マエストロの方法を取り入れ、判らないなりにパート毎に通して音符を追いかけるのが習慣になりました。

日本フィルとしては、今やチェコの巨匠となったビエロフラーヴェクにドヴォルザークの交響曲全曲演奏を打診(正式にではなく内々に)したことがあったようですが、即座に「ノー」。理由は、“初期の交響曲はつまらないから”。これはサロンで直接話していたと思いますが、真に正直なところが如何にもビエロフラーヴェクでしたね。

またBBCの音楽監督を務めていた時には、マルティヌーの交響曲全曲を何度かに分けて紹介。その時は演奏会当日に別の場所で作品の内容を解説するプレトークを行っていました。
これなどは、私の推測ではありますが、日フィルで何度も体験したマエストロ・サロンを応用・発展させたものだったのではないでしょうか。

確か最後のサロン、ブルックナーの第5交響曲の時だったと思いますが、“マエストロの都合でサロンは少し遅れます”ということがありました。
後で司会の新井豊治氏に聞くと、指揮棒がなくなったのでヤマハの銀座店に買いに行ったんだそうな。あの年はヤマハ銀座店が工事中で、店舗を別の場所に移して営業中。そういう時でも東京を勝手知ったる我が町の様に闊歩していたイルジー・ビエロフラーヴェクさん。
今夜は福神漬けを大盛りにしたカレーライスでマエストロを偲びましょうか。

もしこの記事を新井さんが読まれていたとしたら、間違いを訂正してください。
長年にわたってマエストロと楽員との間を調整するインスペクターとして活躍されてきた新井氏なら、逸話や秘話は数知れずお持ちのはず。その一端でも紹介して頂ければ、ビエロフラーヴェク氏の存在がより身近なものに感じられるでしょう。

 

 

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