読売日響・名曲聴きどころ~09年2月

2月の名曲は下野竜也によるドヴォルザーク交響曲シリーズⅢと銘打たれています。丑年のドヴォルザークに因んだプログラム。
ただし名曲シリーズと呼ぶにはあまり馴染みの無い作品が並んでいて、「聴きどころ」を書く身としては苦笑せざるを得ません。

さて演奏される順番は①「オセロ」序曲 ②チェコ組曲 ③交響曲第4番 ですが、作曲された順序は全く逆であることに注目しましょう。実際に作品を聴けば納得されると思いますが、作品の完成度としては序曲が最も高く、交響曲にはまだ先人たちの影響が色濃く感じられます。

そこで聴きどころは逆に進めたいと思います。まず第4交響曲から。

今回の曲目は、全て日本初演のデータが特定できる資料は無いようですので、日本のプロ・オケ定期初登場の記録ということでお読み下さい。
第4交響曲はこれです。

1983年6月28日 東京文化会館 イルジー・ビエロフラーヴェク指揮・日本フィルハーモニー交響楽団。

オーケストラ編成は通常の2管編成。

フルート2(共にピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、打楽器3人、ハープ、弦5部。
打楽器はトライアングル、シンバル、大太鼓。
ハープは第2楽章と第3楽章だけ、ティンパニ以外の打楽器は第3楽章だけに登場します。

4楽章で作られた通常のスタイルの交響曲ですが、かなり長いのが特徴です。長いと言うより冗長の感が否めませんが、これを如何に最後まで退屈せずに聴かせるか。指揮者の腕の見せ所でしょう。

私の個人的な聴きどころはドヴォルザークが受けた先人達からの影響と、それでも垣間見せる作曲家の個性を聴き分けることでしょうかね。

その典型は恐らく第2楽章でしょう。ここは変奏曲ですが、その主題がワーグナーの「タンホイザー」にそっくりなことに誰でも気が付かれるはず。半音づつ下降してくるパターンと3連音符の上向の組み合わせがそうさせるのです。思わず苦笑される方もいるのではないでしょうか。

この主題が17小節で構成されているのもドヴォルザークらしい所ですね。普通は主題は4小節単位のもの。そこに余分とも思える小節が加わってくるのがドヴォルザークの「らしさ」というのが私の感想ですが、皆様は如何ですか。
第1変奏はオーボエとヴァイオリンのユニゾンで17小節、第2変奏はチェロが主題を受け持つ17小節、第3変奏では管楽器にシンコペーションが出ます。

この辺から変奏の区切りが曖昧になって、第4変奏では途中に小フーガが挟まれます。第5変奏にはハープも掻き鳴らされて、この楽章の頂点。
第6変奏は第4変奏からフーガを省略したもの。クラリネット2本が3度で新たなメロディーを出すところからがコーダ。

無理にアナリーゼをすれば、こんな具合でしょう。全体にかなり長く感じられるのは、ドヴォルザークがやりたいことを全て投入しているから、と考えましょうか。

第3楽章は最もドヴォルザークらしい音楽だと思います。スケルツォとトリオからなる3部構成。スケルツォの22小節目から出る木管による主題が直ぐに耳に馴染んできます。
トリオは各種打楽器を総動員して「酒の歌」の様な雰囲気に変わります。トリルが印象的。
トリオの終わりは、如何にも酔い潰れて祝宴が跳ねるかのよう。スケルツォが戻ってくるのは常套手段ですが、後半はトリオが復活するのが新機軸でしょうか。
コーダに第1楽章の主題がチラッと顔を出すのにも注意して下さい。

第1楽章に話を戻します。ここはソナタ形式ですが、第1主題はいきなり登場しません。主題の核となるモチーフを何度か演奏しつつ第1主題に到達するのですね。この部分、私はベートーヴェン、それも第9交響曲第1楽章の影響と考えています。
第2主題はドヴォルザーク独特の美しいメロディー。
展開部はかなり長いもの。再現部も通り一遍の再現ではなく、二つの主題が絡み合いながら新たな展開を始めてしまうので余計に時間が掛かります。

第4楽章はロンド形式という解説がほとんどですが、私はソナタ形式と見る立場です。第1楽章と同じように、主題をモチーフから始めて漸く25小節目で本論に入る、と解釈しています。
このリズミックな主題が何度も繰り返されるので、ロンド形式のようにも聴こえてくるのでしょう。

第2主題はほとんどウェーバーと叫びたくなるようなメロディー・ライン。これが再現部で高らかに奏される所など、私は思わずニッコリしてしまいます。

次はチェコ組曲に行きましょう。最初の記録はこれでしょうか。

1985年9月25日 東京文化会館 ズデニェーク・コシュラー指揮・東京都交響楽団。

オーケストラ編成は、

フルート2、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部。

イングリッシュ・ホルンは第4楽章だけに出ますが、ここはクラリネットがお休みなので、その一人がバセット・ホルンで代用しても良いことになっています。この楽章ではオーボエは2本とも使いますので、イングリッシュ・ホルンを使う場合は第3のオーボエ奏者が必要になるわけです。

この他、トランペットとティンパニは第5楽章だけ、第1楽章と第2楽章の木管はオーボエとファゴットだけ、第3楽章はオーボエとホルンがお休み、第4楽章はクラリネットがお休みと、楽章によって編成が微妙に変わるのが面白いところですね。
従って弦楽器は小振りに押さえるはず。序曲と交響曲の間に挟まれた、一服の清涼剤の役目も担っているのでしょう。中々心憎い配曲です。

全部で5楽章ですが、第1楽章「前奏曲」(パストラーレ)、第2楽章「ポルカ」、第3楽章「ソウセツカー Sousedska」(メヌエット)、第4楽章「ロマンス」、第5楽章「終曲」(フリアント)で構成され、どれも短く、如何にもドヴォルザークの個性が出たメロディックな音楽です。
特に終曲のフリアントはほとんどスラヴ舞曲の世界ですし、ポルカもドヴォルザークお得意の「グラツィオーソ」という指示があります。

これは理屈抜きに愉しいアンサンブルに耳を澄ませましょう。

さて最後になりましたが、冒頭に演奏される「オセロ」序曲

初登場が、

1987年6月9日 フェスティヴァル・ホール イルジー・ビエロフラーヴェク指揮・大阪フィルハーモニー交響楽団。

またしてもビエロフラーヴェクです。そう言えば彼が先年のプロムス・ラスト・ナイトに登場した時も、この「オテロ」を指揮していましたっけ。

オーケストラ編成は、

フルート2(1番奏者ピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器2人、ハープ、弦5部。打楽器はシンバルと大太鼓。
(ピッコロを兼ねるフルート奏者は、某資料では2番奏者となつていますが、スプラフォン社のスコアでは1番奏者となっています。どちらでも演奏可能。)

これは単なる演奏会用序曲というより、交響詩の内容を有した傑作です。今回のドヴォルザーク・プログラムでは最大の聴きもの。どうか遅刻などせぬよう、一曲目から神経を集中して聴いて下さいね。

「オセロ」には作品93が当てられていて、91の「自然の中で」、92の「謝肉祭」と共に三部作を構成していることはプログラムでも紹介されるでしょう。
三部作には共通した「主題」があって、最も有名な「謝肉祭」では中間部でイングリッシュ・ホルンが吹くメロディーが、「オセロ」でも出てくるのに気が付かれるはずです。
ドヴォルザークはこの主題を「自然と人生と愛」に象徴させていますが、「オセロ」では嫉妬に燃える愛がテーマ。

この三部作はドヴォルザークがアメリカに長期滞在する直前に書いただけあって、他の誰でもないドヴォルザーク独自の語法で書かれています。ワーグナーの影響を指摘する人もいますが、私はドヴォルザークの個性がはるかに勝った名曲だと思います。

曲はかなり具体的にストーリーを追った内容になっていますが、スコアには物語を示すような書き込みは一切ありません。
ただ、手書の手稿には、“オセロとデズデーモナは静かな恍惚の内に抱き合う” とか、“オセロの心に嫉妬と復讐の感情が芽生える” などという書き込みが小節毎に記されています。

“デズデーモナの死”、“オセロの自殺”も当然、あります。具体的に何小節目という指摘も可能ですが、それは実際に聴かれる皆様の想像に任せて置いた方が良いでしょう。
ただ、序曲の冒頭に出てくる美しいコラール風の弦合奏が最後にも再現してきますが、これは“オセロの祈り”を表していることだけはコッソリ教えておきましょう。

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