東京籠城日記(3)

今日は歳時記を離れて最近の話題から。コロナウイルス関連のニュースに埋もれてしまった感はありますが、3月29日にクシシュトフ・ペンデレツキが亡くなりました。クラクフの自宅で療養中だったとのことで、コロナとは関係がなかったようです。志村けんと同じ日だったこともあって殆ど取り上げられていませんでしたが、産経新聞は翌30日に報道しています。

私と同世代のクラシック・ファンは皆そうだと思いますが、ペンデレツキの音楽を始めて知ったのは、1963年(昭和38年)にポーランド国立大交響楽団という団体が行った来日公演で、その初日だった2月17日(日曜日)に上野・東京文化会館で行われたコンサートをNHKがFMなどで放送した「広島の犠牲者への哀歌」でした。今と違って当時NHKが発信する音楽番組の影響力は甚大なもので、私もラジオに齧り付いて聴いたものです。
因みにこの演奏会のプログラムは、
モニューシコ/「ハルカ」序曲
ベートーヴェン/交響曲第5番
ショパン/ピアノ協奏曲第1番(ソロはバルバラ・ヘッセ・ブコフスカ)
R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」
ペンデレツキ/広島の犠牲者への哀歌
ハチャトゥリアン/バレエ「ガイーヌ」から3つの踊り
というもので、指揮はヤン・クレンツ。何かアンコールがあったと思いますが、覚えていません。盛り沢山なプログラムの中で一際異彩を放っていたのがペンデレツキでした。その後銀座のヤマハでPWM出版から出たスコアも手に入れましたが、トーン・クラスターというのかオタマジャクシではなく、ベタッとパートを塗り潰した真っ黒な太線に驚いたものです。
N響が哀歌を取り上げたのは、ずっと時代が下って1970年に岩城宏之が指揮した時でしたし、1968年に若杉弘が読響定期でルカ受難曲を演奏したのも大きな話題になりましたっけ。

そのあと暫く空白があり、私の視野に再びペンデレツキが入ってきたのは、1999年(平成11年)にご本人が日本フィルに客演した時でした。この頃にはペンデレツキは指揮者としても活躍されていて、11月の定期で自作のヴァイオリン協奏曲第2番を諏訪内晶子のソロで、また特別演奏会で自身の第2交響曲だったかを振ったのです。定期ではメンデルスゾーンのスコットランド交響曲も指揮しました。
当時日本フィルは定期演奏会の週にマエストロ・サロンという指揮者によるトーク企画を行っていて、ペンデレツキも御夫人同伴で有楽町の国際フォーラムに姿を見せてくれました。大作曲家本人の話が聞けるとあって緊張したものでしたが、細かい話は忘れてしまいました。ただ、氏は当時のソ連でショスタコーヴィチに会った思い出に触れられて、ショスタコーヴィチは物静かで殆ど話をしなかった、ということを感慨深く回想されていたことが強く印象に残っています。

このサロンには現代音楽の熱烈なファンが聞きに来ていて、サロンが終了すると早速持参した交響曲のスコアにサインを貰っていたものです。あのファンにとってサイン入りのスコアは家宝になっているでしょうね。

ところでペンデレツキの楽譜と言えば、現在では殆どの作品がショット社から出版・販売されています。ショット社ではペルーサル・スコアというサービスも提供していて、各ページに薄い字で「Perusal」という文字が印刷されていますが、我々のような聴くだけ人間には閲覧上支障がない有難いサービス。
今回の訃報を受け、私も故人を偲ぼうとペンデレツキのページを閲覧していて、相当な数の楽曲がペルーサル・スコアとしてダウンロードできることを知りました。例えば8曲ある交響曲で、ペルーサルの対象でない曲は第1番のみ。そのほか思い出の「広島の犠牲者への哀歌」も、ルカ受難曲もダウンロード可。何と38曲ものスコアをゲットしてしまいました。

ということで、今日はその中から「3本のチェロと管弦楽のためのコンチェルト・グロッソ」をスコアを参照しながら鑑賞し、ペンデレツキを偲びたいと思います。
御存知のようにこの作品はNHK交響楽団が委嘱したもので、2001年6月22日のN響定期でボリス・ペルガメンシコフ、トルルス・モルク、ハン=ナ・チャンの3人のチェロとデュトワの指揮で初演されました。献呈はシャルル・デュトワ。
音源はNMLから選びましょう。2種類の演奏が配信されていますが、今日はペンデレツキ自身の指揮、アルト・ノラス、バルトシュ・コジャク、ラファウ・クヴィアトコウスキのチェロ、ポーランド・シンフォニア・ユヴェントゥス管弦楽団が演奏するDUX盤で聴きましょう。この合奏協奏曲は、広島とは違って普通にオタマジャクシで書かれている作品。聴いていて何処を演奏しているか分からなくなる、などということはありませんよ。

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