ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(13)

現地時間の昨日8日、ウィーン国立歌劇場の公式ホームページが更新され、今シーズン、即ち6月一杯全ての公演キャンセルが発表されました。14日以降アーカイヴ配信が行われるか否かは、現時点で明らかにされていません。
当面予定されているアーカイヴ配信は13日(現地)のクライバー指揮「ばらの騎士」までですが、その後に付いてはウィーンからの情報を待つしかないようです。

そんな中、今日はオッタヴァ・テレビを通じてヘンデルの「アリオダンテ」が放映されています。視聴ボタンをクリックして直ぐに分かるように、この番組は字幕がありません。というよりイタリア語歌唱ですからドイツ語字幕は出るのですが、独語も伊語も不得手な人にとっては却って字幕が邪魔になるほど。この字幕をオフにする機能もありません。
「アリオダンテ」は去年11月15日の公演がライブストリーミングされ、日本語字幕が付いていました。その時の字幕も再利用できなかったということは、恐らく現スタッフに対応する余裕も条件も整っていなかったということを意味すると思われ、現場の混乱が想像できます。
これなら、ウィーン国立歌劇場のホームページからアーカイヴ無料放送の画面に飛び、メールアドレスとパスワードを入力すれば視聴できる内容と同じでしょう。

今回視聴できる映像は、今年11月の公演の前、2018年3月4日に行われた舞台だそうで、指揮者も多くのキャストも入れ替わっています。ウィーン国立歌劇場でヘンデルのオペラが上演されるのは珍しいことで、マクヴィカー演出による「アリオダンテ」はバロック・オペラの真髄を伝える貴重な映像と言えそうです。
何と言ってもウイリアム・クリスティーの指揮が堪能できるのが貴重で(去年はクリストフ・ルセの指揮でした)、キャストは以下の通りです。

アリオダンテ/セーラ・コナリー Sarah Connolly
ジネヴラ/チェン・レイス Chen Reiss
ダリンダ/ヒラ・ファヒマ Hila Fahima
ポリネッソ/クリストフ・デュモー Christophe Dumaux
ルルカニオ/ライナー・トロースト Rainer Trost
スコットランド王/ウィルヘルム・シュヴィングハマー Wilhelm Schwinghammer
オドアルド/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
指揮/ウイリアム・クリスティー William Christie
管弦楽/レ・タラン・リリク Les Talens Lyriques
合唱/グスタフ・マーラー合唱団 Gustav Mahler Chor
演出/デヴィッド・マクヴィカー David McVicar
舞台&衣装/ヴィッキ・モーティマー Vicki Mortimer
照明/パウレ・コンスタブル Paule Constable
振付/コルム・シーリー Colm Seery

ジネヴラ役のチェン・レイス、ダリンダを歌うヒラ・ファヒマ、それに脇役のオドアルドを歌うベネディクト・コーベルだけが去年秋の再演と同じで、他のキャストは異なっています。
ピットに入るのがいつものウィーン国立歌劇場管弦楽団ではなく、古楽のレ・タラン・リリクが客演していること、舞台上ではなくピットか舞台横で歌われる合唱団にも態々グスタフ・マーラー合唱団が呼ばれているのも2019年11月と同様です。

字幕が無く、殆どのファンが全曲は初体験と思われる「アリオダンテ」なので、先ずウイキペディアなどで荒筋を掴んでおくことをお勧めします。また「オペラ対訳プロジェクト」というサイトに日本語訳が掲載されていますから、これをご覧になるのも良いでしょう。スコアはペトルッチ楽譜ライブラリーからダウンロードできますし、何なら前回私が書いた感想を参照されてもよろしいかと・・・。

「アリオダンテ」は事前の知識がなくとも楽しめるオペラ。ウィーン国立歌劇場アーカイヴの素晴らしい音質と画質、名歌手たちが次々と繰り出す見事な歌唱、各幕の最後に踊られる奇抜なバレエ、刺激的且つ斬新なマクヴィカー演出、何よりクリスティーが引き出すヘンデルのパワフルな音楽を聴いているだけで3時間半はあっという間に過ぎてしまいます。
今回の配信は、各幕の間に挟まれている休憩を全てカットし、間に流れるプロモーション映像もありません。適当なところで休憩を入れながら楽しみましょう。

主役アリオダンテを歌うのは、日本ではサラ・コノリーと表記されることが多いセーラ・コナリー。BBCプロムスにも数多く出演している英国のソプラノで、私はBBCの発音に従ってこのように表記してきました。
コナリーと言えば、同じマクヴィカーが演出したグラインドボーン音楽祭の「ジュリオ・チェーザレ」で主役を歌った名歌手。どうしてもジュリオ・チェーザレとイメージが重なってしまいますが、特に第2幕で歌うアリア「Scherza infida」には圧倒されました。この第2幕は6人の主役たちが次々とアリアを歌う圧巻の連続で(オリジナルとは異なる割り振りになっているのはマクヴィカーの考えによるものでしょう)、全曲の白眉と言えるでしょう。悪役ポリネッソを歌い演じるカウンター・テナーのクリストフ・デュモーが、また素晴らしい。

さてウィーン国立歌劇場のアーカイヴ・シリーズ、このあとは2種類のパルジファル、カルロス・クライバーが振った伝説のばらの騎士と続きますが、当欄では様子を見ながら紹介していこうと考えています。

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