日本フィル・特別演奏会Ⅲ
6月下旬になって漸く観客を入れた演奏会が可能になり、定期会員である日本フィルから早々にチラシが送られてきたのが三つの特別演奏会。1時間ぐらいの休憩のない演奏会、日本フィル再始動~サントリーホールで会いましょう! という文言に誘われて真っ先に予約したのが8月1日の回でした。ホールの定員50%、先着900人限定という太字にも心を動かされましたっけ。
この3回は全て有料ライブ配信されるとのこと。Member’s TVU CHANNEL が本格的にコンサート全体を有料配信する事業のスタート・キャンペーン価格としてワン・コンサート千円という手軽さもあり、こちらも直ぐに契約を済ませました。
井上道義が指揮する2回、7月13日と7月30日は配信で鑑賞し、13日の模様は当ブログでも紹介済み。昨日は日本フィル7月定期以来のナマ演奏会を堪能してきました。以下のプログラムです。
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベートーヴェン/交響曲第5番
指揮/広上淳一
コントマスター/田野倉雅秋
ソロ・チェロ/菊地知也
長かった今年の梅雨。8月1日は早朝からかなり強い雨が降っていましたが(東京の城南地区)、それも上がって午前中には梅雨明け宣言。拙宅のある近所でもクマゼミがワシワシと鳴き出して遅い夏の到来を告げています。
すっかり出不精になってしまった体にムチ打ち、閑散とした風情の赤坂サントリーホールに出掛けました。
アフターコロナの演奏会は二度目。足踏み式消毒薬で手指を清め、サーモグラフィーカメラを無事に通過してホールへ。もちろんマスクは欠かせません。チケット半券は自分でもぎり、プログラムも自ら取る。
こうした流れは宣伝が行き届いていることもあって、何年も経験しているように流れるように進みます。周りが空席、王様気分で自席に陣取りますが、やはり満席でないのは寂しいですね。クラシックの音楽会は客席で声を出すわけでは無し、些か過剰反応ではないかとさえ思えてきます。ま、御上の言うことには従わなくては・・・。
配信があるということで、カメラの位置を確認。出来れば映りたくないのでジッとしている堅苦しさよ。
お馴染みのチャイムとホールアナウンスがあって楽員登場。登場時から拍手が起きるのはコロナ後コンサートの習慣になりつつあるようです。田野倉コンマスが登場すると拍手も一際大きく。この辺りはアーカイヴ配信で確認できるでしょう。
一呼吸あってマエストロ入場。おやおや、大きなマスクで表情はほとんど見えません。エア握手に続いて指揮台に上がり、マスクはそのままで序曲が始まりました。
やはりナマ音は良い。配信と違ってホールの残響が広々と体感でき、決定的なのは音量のダイナミクスでしょう。これだけは幾ら配信技術が進化しても現場でなければ味わえないもの。これからの演奏会は配信スタイルが増え、あるいはそれが主流になったとしても、時々はコンサートホールに足を運ばなければいけませんね。この感覚を忘れてしまうと、音楽の本質を見失うことになりそう。
あっという間にエグモントが終わり、若干の楽員の入れ替え、追加があって第5交響曲へ。序曲では息苦しかったのか、広上氏もマスクを外して再登場。やはり指揮者は表情が見えないとね。指揮の要素に「顔」があるのは当然で、特に広上のように豊かな表情を創り出すマエストロにとっては欠かすことのできない「楽器」であるとも言えそうです。
第5交響曲は、終楽章でピッコロ、コントラファゴット、トロンボーン3本が加わるダイナミクスの世界。録音では埋もれがちなコントラファゴットがビンビンと震わす空気振動が伝わってくるのは、ナマならではでしょう。嬉しくも終楽章提示部を繰り返し、展開部のクライマックスでは世界の終焉を描くが如き壮絶さに思わず仰け反ります。
やや物足りなく感ずるのは、通常より若干減らしている弦楽器の厚み。これは現時点では致し方ない所でしょうが、そこはアクションの大きさでカバーするあたり、プロの仕事と言うべきか。
この日は現況に配慮してか指揮者からのメッセージは無く、ジェスチャーでアンコールを告げ、グリーグの「ホルベアの時代より」からサラバンド。これは先のサマーミューザでN響でも演奏していましたから、二つの配信で聴き比べるのも一興でしょう。
大いなる高揚感を味わった後の癒し。拍手は楽員全員が退場するまで続き、後処理が必要な楽器諸氏も慌てて舞台裏に向かう姿も。例によって時間差退席に従ってホールを出ました。これで当欄の8月唯一のナマ演奏会は終了、次回は9月のいつ頃になるのかな、未だ決まっていません。
そうそう、現在アーカイヴ配信されている井上道義の新世界、とてもロマンティックで素晴らしい演奏ですよ。マエストロのこの作品への熱い思いがオケに伝わり、懐かしさに溢れるドヴォルザークを聴かせてくれました。
サマーミューザでの川瀬/神奈フィルと違って、新知見による試みは無い昔ながらの新世界。第2楽章のイングリッシュ・ホルンも伝統的に2番オーボエ奏者が吹いています。持ち替え直前で第2オーボエの音が聞こえないぞ、などという野暮を言う人はいないでしょう?
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