2009クラシック馬のプロフィール(3)

もっと早く書こうと思っていたのですが、何かと忙しくて先延ばしにして来ました。今年のクラシック馬の血統から見たプロフィール、イギリスのギニー馬に続いてフランスのギニー勝馬編です。今週末にはアイルランドのギニーも行われますので待った無し。
まずプール・デッセ・デ・プーラーン、即ち仏2000ギニーを制したシルヴァー・フロスト Silver Frost のプロフィールです。
できるだけ日本との繋がりを探しながら血統を見ていこうと思います。
シルヴァー・フロストはアイルランド産の芦毛馬。父はファーグラー Verglas 、母はヒドン・シルヴァー Hidden Silver 、母の父はアナバー Anabaa です。
私の持論である母方重視の立場から、まず牝系。
シルヴァー・フロストは、母ヒドン・シルヴァーの初仔。従って兄弟姉妹の競走成績はまだ存在しません。ヒドン・シルヴァー自身はフランスで走り、1900メートルの距離で勝鞍を残しています。
2代母はヒント・オブ・シルヴァー Hint of Silver 、この馬もフランスで競走、5戦1勝という記録。
その繁殖成績を見ると、まず1998年生まれのホームランド Homeland (父 Highest Honor )。この馬はフランスの地方競馬に相当するボルドー競馬場でGⅢの勝馬になっています。
続いて2001年産のハイ・フラッシュ High Flash (父 Selkirk )、やはりフランスで8戦2勝、GⅢで3着の実績があります。
しかし何と言っても注目すべきは2005年生まれのハイ・ロック High Rock (父 Rock of Gibraltar )。シルヴァー・フロストにとっては一つ上の叔父に当たりますが、2歳時にコンデ賞(GⅢ、1800メートル)、3歳時(去年)にはラ・フォース賞(GⅢ、2000メートル)にも勝ってフランス・ダービーに挑戦。結果はヴィジョン・デタの4着、勝馬からは3馬身ほどの差でした。
ハイ・ロックはその後競馬場には登場していません。引退したのか今年4歳を迎えて調整中なのか。
3代母ホット・シルヴァー Hot Silver もフランスで9戦1勝。飛んで5代母シルヴァー・ブライト Silver Bright はアメリカの名門牝系。シルヴァー・ブライトの産駒にはサバーバン・ハンデやメトロポリタン・ハンデに勝ったステート・ディナー State Dinner 、ホープフル・ステークスの覇者バンケット・テーブル Banquet Table というGⅠ兄弟が出ています。
以上シルヴァー・フロストはアメリカの名門牝系。イギリスのジェネラル・スタッド・ブックには遡れないものの、ボビンスキーの分類ではA1号族に分類されます。
俗に言うアメリカン・ファミリー。
次にシルヴァー・フロストの父系にも触れましょう。
父ファーグラーは、その父ハイエスト・オナー Highest Honor からゼダーン Zeddaan を経てナスルーラー Nasrullah に到るサイヤー・ラインに属しています。
ファーグラーは1994年生まれ。現役時代はアイルランドのプレンダーギャスト師が調教、2歳時にロイヤル・アスコットのコヴェントリー・ステークスに優勝。
3歳時はアイルランド2000ギニーに挑戦、デザート・キング Desert King の2着に好走。続くアイルランド・ダービーでは同じくデザート・キングの6着。敗因はスタミナ不足と発表されました。
ファーグラーはこの後アメリカに転厩。ウィッティンガム厩舎に所属しましたが、アイルランド時代の実力を発揮できぬまま引退、フランスで種牡馬。フランスでの3年を経て、現在ではアイルランド・ナショナル・スタッドで供用。2006年生まれのシルヴァー・フロストはアイルランドでの初産駒の1頭です。
フランス時代の産駒では、ジャン=プラ賞(GⅠ)に勝ったストーミー・リヴァー Stormy River が目立つ程度。種牡馬としての評価はこれからでしょう。
因みに Verglas (ファーグラスと読みたいところですが、ファーグラーが正しいようです)とは、登山用語で「岩の表面を薄く覆った氷」のこと。日本語では“ベルグラ”と呼ぶのだそうです。
ファーグラー産駒のシルヴァー・フロスト、正に「白銀の霜」はベルグラからの連想でしょう。
ファーグラーの種牡馬としてのキャリアが短いので、その父ハイエスト・オナーについても紹介が必要でしょう。
ハイエスト・オナーは競走馬時代2100メートルまでしか経験がありません。3歳時の勝鞍はメゾン=ラフィットのリステッド戦だけですが、仏2000ギニーとジャン=プラ賞で2着の実績があります。
4歳で充実したハイエスト・オナー、エドモン=ブラン賞とイスパハン賞(GⅠ)を制し、トップクラスの競走馬に成長します。調教したのはパスカル・ベイリー師。
種牡馬となったハイエスト・オナー、1989年産馬を初産駒とし、これまで15年の実績を残してきました。
自身は2000メートルまでの実績しかありませんが、その子供達はもっと長い距離でも活躍した馬を数多く輩出しています。
例えば1998年生まれのサガシティー Sagacity は、2001年の凱旋門賞で武豊を鞍上に3着に食い込んでいます。
その前、1997年生まれの牝馬レーヴ・ドスカー Reve d’Oscar はフランスの牝馬クラシック路線で2着を続け、ジャパン・カップにも参戦したのを記憶されている方もおられるでしょう。
これを機に日本人所有となったレーヴ・ドスカー、繁殖牝馬として去年の美作特別(2000メートル)や比叡ステークス(2400メートル)に勝ったナイアガラを出しました。
更に今年、レーヴ・ドスカーの仔アプレザンレーヴが青葉賞(GⅡ、2400メートル)を制してクラシック路線に乗りました。
以上シルヴァー・フロストの父系は必ずしも長距離向きとは言えませんが、配合に拠ってはクラシック距離(2400メートル)を克服する馬を出す可能性もあります。
フランス・ダービーは距離2100メートル。母の父がスプリンターのアナバーという不安はあるものの、距離面でシルヴァー・フロストがダービー距離を克服できる可能性はかなり高い、と見ています。
最後に馬名について一言。ハイエスト・オナーの産駒に挙げたレーヴ・ドスカーは「オスカーの夢」。オスカーとは正に映画のアカデミー賞受賞者に与えられる賞のこと。今年遂に日本も「おくりびと」が受賞したのは記憶に新しいところですね。
そのレーヴ・ドスカーの産駒アプレザンレーヴ Apres en Reve とは「夢のあとに」の意。「夢のあとに」と言えば、ビュッシーヌの歌詞にフォーレが作曲した歌曲のタイトル。
オスカー受賞の夢の後に見るものはダービー制覇の夢か・・・。どうしてもこういう名前の馬を応援したくなってしまいますね。

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