読売日響・第144回芸術劇場名曲シリーズ

昨日(11月29日)、池袋の芸術劇場でのコンサート。本来なら今日、サントリーホールで聴くはずだったのですが、今日は広上/神奈川フィルの定期とバッティング、同じプログラムの池袋に振替えて聴いてきました。
ということで、席は1階G列25番。25番というのは右側ブロックの中央よりの左端。微妙なところで中央ブロックから外れているんですね。
最近、聴衆の入りが気になります。今日も1階はまぁまぁの入りでしたが、2階以上は随分空席がありました。全体としては7割位の入りでしょうか。
私の横、中央ブロックにもいくつか空きがありましたが、恐らく会員券を買っていながらパスした人が結構いるんでしょう。「名曲」と言いながら「定期」並みの曲目が並ぶ読響、アホでは人が入らないのかなぁ。
ということで曲目は、

《ヴァンスカ・ベートーヴェン交響曲シリーズ?》
カレヴィ・アホ/フルート協奏曲
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第3番
指揮/オスモ・ヴァンスカ
独奏/シャロン・べザリー
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/小森谷巧

メインのベートーヴェン、定期の1番・2番に続く第2弾です。前回同様の対抗配置。さすがに16型で、第2ヴァイオリンは14。
前回ほどバランスが気にならなかったのは聴いた席の関係でしょう。第2ヴァイオリンが目の前でしたから。

“さてヴァンスカの指揮、アレッ、こんなに激しい指揮振りだっけ、と吃驚するほど、大きなアクションでオーケストラをドライヴします。
もちろんピリオド系の演奏スタイルとは無縁ですが、往年の巨匠風のドッシリしたベートーヴェンとも縁を切っています。颯爽としたテンポの中にも、激しいアクセントを強調し(特にsf)、アグレッシヴと表現したくなるほどの勢いで突き進むのです。前進また前進。”

これは定期の感想の一部をコピーしたものですが、第3交響曲にもそのまま使えます。
かつてドイツにはフルトヴェングラーという巨匠がいて、ドッシリとしたエロイカを聴かせていたものです。そこにカラヤンが登場、颯爽としたテンポで「前進また前進」のエロイカを披露しました。3拍子の1小節を三つに振るのでなく、1小節を一つに振って我々を愕然とさせました。だから有名なへミオラの個所など、カラヤンの振り下ろす棒とは、ずれながらテュッティが鳴る。
ここをテレビで見ていて、腰を抜かしました。
あれからほぼ半世紀、そのカラヤンですらドッシリとしたエロイカに聴こえるほど時代が進み、ヴァンスカのエロイカは「前進また前進」。
それが感想の全て。出だしからして往復ビンタを食らったような衝撃があり、緊迫感が治まらないまま終楽章のコーダまで。

あぁ、疲れた。老人には堪える。
後先になりますけど、前半のアホ。コミュニティの予習でかなり聴き込みましたが、やはり百聞は一見に如かず。音楽は缶詰で味わうもんじゃないですね。
まずティンパニ、ちゃんと使われています。ゲールマン社の情報が間違いであることを確認。
打楽器が各種使われていますが、「雷起こし鉄板器」があったのに納得。CDではやや音が濁るような個所があるのですが、録音の問題じゃなく、この楽器の所為なんですね。こういうこともナマに接しないと判りません。録音だけで聴く場合には、楽譜を見なければダメ。改めて実感した次第です。

べザリー、素晴らしい音楽家です。技巧の超絶ぶりも然ることながら、実に音楽的なフルートを吹きます。自分がソロを吹かない個所でも、あたかも共に演奏しているが如く、オーケストラに没入している。これも視覚という情報があればこそ。どんな優れた録音でも、ここまでは捉えられないのです。
空気が乾燥している所為でしょう。時々譜面台に置いた携帯水分補給機で唇を湿らせていました。

記録のために細かい作品ノート。
第1楽章 ミステリオーソ、アダージョ。約15分。
ハープとフルート・ソロの対話で始まる。弦合奏が加わって、カンタービレでリリックな音楽。グリッサンドや尺八風の「揺り」が使われ、いかにも俳句の世界。
3分の1ほどからオーケストラが動き始め、ソロも技巧的になり、打楽器も登場。
丁度中間点、再びリリックな音楽が回帰し、ソロはアルト・フルートに持ち替える。
最後の3分の1で再び音量が上がり、金管楽器とソロ(通常のフルートに戻る)の対決。タンギングを激しく使い、ティンパニが轟いて頂点に。
しかしこれも直ぐに静まり、弦のリリックな音楽が戻り、冒頭部分の再現。ヴァイオリン・ソロも加わって、静かに悲しみを紡ぐ。低弦が消えていくところで第1楽章が閉じられる。

第2楽章 プレスト、レッジェーロ。約10分
弦のアルペジォ風の動きに乗って、ソロが軽やかに、リズミックに動き回る。踊りの音楽も登場。3分の1辺りからオーケストラが高揚し、激しいリズムが打ち付けられる。この間、ソロは休止。
中間点にカデンツァが挿入される。カデンツァの前半で弦のピチカートが2度、ハープが1度アクセントを添える。
残り3分の1で再びオーケストラが活動開始。リズミックな動きが再現し、「鳴子」が頻りに鳴らされる。
この作品の音量的なピークに入り、金管の重い和音と、ティンパニの連打。もちろんバリトン・ホルンも活躍。べザリーは楽器を椅子に置き、手ぶらでオケの全奏に身を委ねる。
これも次第に沈静化し、そのまま第3楽章にアタッカ。

第3楽章 エピローグ。約6分
前の楽章から受け継いだ弦の啜り泣き。この楽章でソロは終始アルト・フルートを吹く。音階を上がるように、静かなソロの入り。暫く弦とソロによるリリックな音楽が続く。
2分半辺りから、静かな中にも動きが芽生え、微かな打楽器、特に大太鼓のトレモロが不安感を呼び覚ます。
4分辺りからは、第1楽章冒頭のグリッサンドと揺りが戻ってくる。再びソロとハープの対話。
最後はオーケストラが沈黙。ただ一人残ったソロが音を長く伸ばし、生命が終焉する如く、空間に消えていく。

アンコールが2曲。アルヴェーンの組曲からと、バッハのサラバンド。どちらも無伴奏フルート・ソロ。べザリーの技巧的な面と、溢れ出るような歌心を代表する選曲です。次はこのような大ホールではなく、出来ればサロンのような空間でジックリと聴いてみたいフルートでした。

アンコールがあり、エロイカの第1楽章提示部の繰り返しも行ったにも拘わらず、いつもなら間に合わない9時9分の新宿湘南ラインに乗れました。いかにヴァンスカのエロイカが猛スピードで突き進んだかの、動かぬ証拠。

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