強者弱者(31)
霜
初霜、初氷。カンナ、コスモスなど夏の末より今に咲き残れる草花一夜にして傷み、世は漸くにして枯淡蕭條の域に入る。
霜に傷むことの最も著しきものは桑の葉なり。大山々麓の高原、八王子附近、相模川上流の台地、十一月の初旬、初霜をまちて淡緑萬頃の桑田倐忽として鳶色と化す。亦奇観なり。
秋期機動演習に赴きたる第一師団の兵員続々として帰営し、満期兵は何れも除隊の準備にいそがはし。慰労休暇、代日、褒章休暇などにて外出したる兵卒、麻布、赤坂の街上に満ち、兵営對手の各小売商店皆景気よし。
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難しい熟語がたくさん出てきます。順次読み解くと、
「蕭條」(しょうじょう)は、ものさびしい様子。
「萬頃」(ばんけい)は、広いことを表現するそうです。
「倐忽」は、俄かには読めません。パソコンによっては環境依存文字として表示されないものもあるでしょう。読みは「しゅくこつ」。意味は“たちまちのうちに、速やかに”ということ。
「倐」という字は囲いの中が「火」ですが、本来は「犬」と書く字の俗字。文字自体は“犬の疾走する様”。この字すら本字の略字ということで、どうも漢字は奥が深すぎていけません。私にはお手上げ。
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