強者弱者(36)

灰色の雲

 灰色の雲低く地に垂れたる日、風寒く日昏し。神田はみぞれ、本郷は雪、芝は雨、果せるかな駒込を吹く風、最もつめたし。
 三十日、一年志願兵除隊。市内の壮丁にして横須賀の要塞砲兵に徴さるゝもの、皆新橋を発す。

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「昏し」は「くらし」と読みます。一般的に「くらい」は「暗」を使いますが、暗は明に対応する暗さ。電気が明るい、暗いと言うような場合に使います。
対して昏は、夕方に日が暮れたときに使う「昏さ」。黄昏の本来の読みは「こうこん」でしょうが、たそがれて昏いので「昏」を使うのですね。
他に「くらい」では「眛」「瞑」「冥」「晦」などがあります。眛は夜明けのくらさ、瞑と冥は捕まえ所のないくらさ、晦は真っ暗闇を意味します。晦は「つもごり」と読みますからね。

「壮丁」(そうてい)は、成年に達した男子のこと。100年前、壮丁には兵役義務が発生しました。

「徴さる」は「めさる」と読んで、隠れた所で良い行いをしている人が目立ってきて上から呼び出されることを表します。決してネガティヴな意味ではありません。
一説に、「徴」は「微」と「壬」の組み合わせから出来たと言い、「微」はかすかで隠れて見えないことを、「壬」は真っ直ぐに立つ様から善行を意味するのだとか。

 

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