復刻版・読響聴きどころ(8)

2007年4月の名曲シリーズです。聴きどころの中にも他からの引用があって読み難い状態です。適当に判断して解読して下さいな。

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チョッと早いような気がしますが、いろいろありますので、トピックだけでも先に立てておきます。
今回の曲目は前半がオネゲルの第2交響曲とメシアンの「われら死者の復活を待ち望む」、後半がブラームスの第2交響曲。これは名曲シリーズと東京芸術劇場の名曲シリーズの2回、同じプログラムで行われます。会場はどちらも池袋ですから、これまでのような別の会場での比較はできません。
私は29日は札幌でウロウロしている予定ですから、27日に聴くべくチケットを取りました。

さてこれは素晴らしいプログラムです。45周年シリーズの中でも屈指の内容、定期演奏会にこそ相応しいと思えるほどにメッセージ性の強い組み合わせですね。

前半は、戦争と深い繋がりのある作品が並びます。そして後半は戦争とは一番遠い所、平和とは言いませんが、緊張や不安とは無縁の田園的な交響曲で構成されています。ここに明確な「対称性」を感ずるのは当然だと思いますね。

更に前半2曲も強い「対称」によって成り立っています。即ちオネゲルが弦楽器のみ(最後にトランペットが1本だけ加わりますが)の作品であるのに対し、メシアンは弦楽器を除いた編成になっているのですから。メシアンでは後で触れますが、木管楽器、金管楽器と金属性の打楽器が使われます。

ということで、プログラムを一瞥しただけで鳥肌が立ってしまうほど好奇心をそそられると思いませんか? スクロヴァチェフスキのスクロヴァチェフスキたる所以、これを聴かずに何を聴く、という意気込みで臨みましょう。

さてオネゲルです。聴きどころも豊富ですが、例によって我流でいくつか指摘したいと思います。
これはパウル・ザッハーに委嘱されて書いたものですね。確かバーゼル室内管弦楽団の創立10年?を記念したもの。ところが作曲は遅れに遅れ、1941年に完成しています。作曲の経緯などは当日のプログラムを読んで下さい。

全体は3楽章、最初に書いたように弦楽合奏曲ですが、第3楽章の最後の最後でトランペットが登場します。これはアド・リビトゥム、即ち使っても使わなくても良いのですが、使った方が効果的です。今回も田島首席が吹くことが予告されていますね。

これは第2次世界大戦中、ナチス占領下のパリで作曲され、バーゼルで初演された直後、ミュンシュによって何度もパリで演奏されました。最後のトランペットがあたかも重苦しい圧政の中に一筋の光明を見出すように響いたため、聴衆から圧倒的に指示されたのです。ですから聴きどころは最後のトランペット、という人も多いようです。
でも、それだけじゃないんですよね。

オネゲルは作曲に苦労し、最初に完成したのは第2楽章でした。私はこの楽章こそが中心的存在だと思います。当時のパリの重苦しい雰囲気をそのまま映し出しているからです。
この楽章はアダージョ・メスト、つまり哀しみが支配しています。全体はパッサカリアだと、私は思います。8小節を単位にし、短2度という狭い音程を揺れ動く動機がパッサカリアのテーマです。
チェロ、ヴァイオリンと新しい主題が提示されていきますが、バスの基本的動きは変わりません。次第に熱を帯びてクライマックスに達し、コントラバスがアジタートで苦悩する所が頂点。この辺までくると、パッサカリアという着物は脱ぎ捨てられています。
楽章の最後に、ヴィオラのソロが「ため息」のように3度下降のフレーズを一言だけ奏でますが、ここも胸を打ちます。

第1楽章は、普通、序奏とアレグロの主部と解説されますが、私は違うと思います。
最初のモルト・モデラート(通常は序奏と言われる)ではヴィオラが呟くような動機を執拗に繰り返します。シド-・シドドドシ・ドドドド・シーラシド、というテーマ。これを覚えてください。いや、覚えなくとも何度も繰り返されますから、耳についてしまいます。居眠りしないように!

次のアレグロは、チェロとコントラバスのアクセントで始まります。最初とは対照的な音楽。
第1楽章全体は、この二つの音楽が交互に出てきます。3回づつですかね。最後はアレグロの行進が弱々しく曲を閉じます。

この楽章を標題風に読むと、こういうストーリー。モルト・モデラートは苦悩するフランス軍とパリ市民。対するアレグロはナチス・ドイツ軍の暴力的な行進。アレグロではこれに対抗するような3連音譜の反撃も聴かれますし、耳に付いたテーマの叫びも聴かれましょう。
この交響曲は決して標題音楽ではありませんが、私はどうしてもこのようなストーリーを浮かべてしまいます。

それは第3楽章も同じ。ここは面白いです。
先ず冒頭、第1ヴァイオリンのパートにだけ♯が6ッつ付けられています。しかも他のパートが8分の6拍子なのに対し、第1ヴァイオリンだけが4分の2拍子。このパートだけが別世界なのですよ。
第1ヴァイオリンはピチカートですが、ドミレソ・ラソミソ・ミレミソ・ドミレー、ドレミソ・ラソラソ、ミレソミ・ドレドー。チョッと声に出して歌ってみてください。まるで民謡じゃありませんか。
これが22小節続くのですが、ほとんど聴き取れません。他のパートの激しい音楽にかき消されてしまうからです。

これも第1楽章の例に倣えば、第1ヴァイオリンは民衆の歌。他は戦争の騒音。そう解釈できないこともない。
そして音楽が最高潮に達した所でトランペットがコラールを吹く。勝利の凱歌? このコラール、皮肉にもドイツのコラールだそうです。

オネゲルは書いていますね。トランペットはあくまでも第1ヴァイオリンのメロディーを他のパートに覆われてしまわないように補佐するためのもの。だからアド・リブだと。

音楽的に言えば、このトランペットはハッキリと響かせるのではなく、ヴァイオリンの下支えとして使っているのですから、指揮者としてはバランスに注意すべきなのでしょう。
スクロヴァチェフスキはトランペットをどのように響かせるか。中々に興味深い見物・聴き物になると思います。

次は項を変えてメシアンに行きます。

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どうも日本初演という情報を忘れてしまいます。無理に紹介する必要もありませんし、正しいという確証もありませんが、まぁ意地みたいなものです。

オネゲル第2の日本のオケ定期初登場は、1969年6月24日、東京文化会館での日本フィルハーモニー交響楽団第183回定期演奏会、ルイ・フレモー指揮のものです。これ以前に演奏された可能性ももちろんあるでしょう。

メシアンの「われら死者の復活を待ち望む」は、1978年2月18日、京都会館。京都市交響楽団第202回定期演奏会で、外山雄三指揮、ストラスブール・パーカッション・グループとの共演でした。多分これは日本初演でしょう。

ということでメシアン行きます。難しいんですけどね・・・。

作品のタイトルにある「死者」というのは第1次・2次の両大戦での死者達のことで、1964年にフランス文化相アンドレ・マルローからの委嘱により、幾百万の御霊を追悼するために作曲されたました。従ってこの作品も戦争が切っ掛けとなる作品なのです。これも詳しいことは当日のプログラムでどうぞ。

これは私にとって馴染みある作品ではないので、この聴きどころは自分自身の予習のために調べて書くものです。
参考にしたのは、アルフォンス・ルデュック社のスコア、オランダ・ウインド・アンサンブルによるCD(シャンドス盤)と音楽の友社刊「名曲解説全集」の永井雪子氏の解説を日比谷図書館でコピーした資料です。
しかし永井氏の解説は私には少し難しいので、これとは違う観点で解きほぐして見ようと思います。

ということで、この曲は木管、金管、金属製打楽器のために書かれています。全部で40人の演奏者が必要です。更にスコアには楽器配置が示してありますので、それを使って紹介しましょう。
全部で6列に並びます。向って左から順に、

第1列 ピッコロ2、フルート3、Sクラリネット、クラリネット3、バスクラリネット
第2列 コールアングレ、オーボエ3、ファゴット3、コントラファゴット
第3列 ホルン6(1番奏者が1番右)
第4列 トランペット3、小トランペット、トロンボーン3、バス・トロンボーン、チューバ、サクソフォン
第5列 センセロス3台(1番奏者が1番左)
第6列 ゴング6、鐘、タムタム3

以上ですが、ゴングとタムタムは奏者1人づつ、合計で40人になりますかな。

当日、このように配置されるかどうか確認して見ましょう。

さてこれは全部で5楽章からなっています。非常に斬新な音がしますが、構成はそれほど複雑ではありません。でもいろいろと象徴的な要素を含んでいるのですね。

世界初演はパリのサント・シャペル教会で、セルジュ・ボドが指揮しました。メシアンは演奏場所として教会の他、カテドラル(聖堂)、野外、高山なども挙げています。今回はコンサートホールですが・・・。

夫々の楽章に聖書からの引用が書かれています。それはさすがにプログラムに載るでしょうから、ここでは割愛。
各楽章とも三つか四つのパターンを組み合わせながら進む構成になっています。最も重要なのは第4楽章だと思いますが、それは個々に。

第1曲は2部構成です。前半は「深き淵」のテーマがトロンボーンを中心に出てきます。後半はたった8小節ですが、1小節ごとの和声で出来ていて、「深き淵からの叫び」という趣です。この第1曲は第4曲で再現してきますが、無理に覚えることもないでしょう。いかにも「深き淵」という重々しい金管の響きを味わいましょうか。

第2曲。非常に速い木管のパッセージとメロディーになりそうでならない持続音で出来ているのがA、オーボエ、クラリネット、フルートなどの木管が単独で吹くソロがB、センセロスの独特なリズムに乗ってトランペットを中心に出てくる旋律線がC。以上が、A-B-C-B-C-A-Bの順に出ます。
センセロスに出る独特なリズムは、Simhavikrama (シムハヴィクラマって読むんですかね?)と言って、インドのリズム。死に対する勝利を象徴しているのだそうです。言葉の意味は「ライオンの強さ」。ということで、この楽章は死の克服でしょうか。

第3曲 木管合奏で出るウイラプルーという鳥の歌がA、鐘の音がB、管楽器のクレッシェンドとそれに続くタムタムとゴングのクレッシェンドがC。以上が、A-B-C-A-B-Cの順に出ます。
Uirapuru という鳥はアマゾンに棲むもののようで、この歌声は人が死ぬときに聞こえるのだそうです。皆さんもそのときのためにシッカリ記憶しておきましょうね。

ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスも「ウイラプルー」という題名のバレエ曲を作曲していますから、あちらでは有名な鳥なのでしょうか。ヴィラ=ロボス作品は魔法の鳥とも訳されています。

ということで、この楽章は復活がテーマでしょうか。

第4曲 これが一番複雑です。3種のタムタムの弱い音がA、センセロスと鐘による復活祭の入祭文と、それに続くトランペットによる復活祭のアレルヤ(喜びの歌)がB、木管による鳥の歌がC。以上が、A-B-A-C-A-B-A-C-A-B-Aの順に出ます。
最後のBでは第2曲のリズム Simhavikrama がゴングに、第1曲の「深き淵」がホルンとトロンボーンに出て重なります。
更に曲の終わりに第1曲の「深き淵の叫び」である8小節が繰り返されてこの楽章を閉じます。

ここで歌う鳥は Alouette Calandre というギリシャとスペインに棲息する鳥で、喜びと敏活を象徴している由。学名は、メシアンのスコアによれば melanocorypha calandra というそうです。ヨーロッパの鳥のサイトなどを小まめに捜してみると、鳴き声を聞けるサイトも出てきます。鳥に興味ある方はそちらをどうぞ。
この鳥はヒバリの一種のようで、無理に日本名を付ければ「カランドラ・ヒバリ」ということになりましょうか。

最後の第5曲 これは全体を通して6つのゴングがオスティナート・リズムを叩き続けます。奏者は1人ですが、6種のゴングを同じリズムで叩き続ける壮観さを見物しましょう。
このリズムが我慢の限界に達し、音量がホールを圧するまでの極みに達した所が全曲の終結です。
終わってもしばらく拍手しない方がいいと思いますね。

全体は30分ほどでしょうが、各楽章間に1分間の休みを置くよう、メシアンは指示しています。ミスターSはどうするでしょうねぇ。

それもそうですが、この曲では休符というか、何も音のしない空白も重要な意味を持っているそうです。どこが終わりなのか判らないという・・・。

全体を通して咳一つ立てないこと。これが達成出来た方は、死後の復活が約束されています。もちろん嘘です。

あ~、疲れた。

最後にセンセロスという楽器について。3人の奏者が叩きますから、よく観察してください。
この楽器については、日本フィルでキラルという作曲家の「クシェサニ」という作品が演奏されたときに、いろいろ調べて某掲示板に書いたものがあります。
私が非公開で管理している「音楽過去帳」というコミュニティからコピーして貼り付けました。どうぞ・・・。

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もうお終いと思っていましたが、また出てきました。cencerros の正体が判明したのです。
無理に続けることもないのですが、折角ここまできたのですから補足しておきます。

cencerros とは鍵盤を備えた打楽器で、スペイン語。丸いカウ=ベルを順番に並べたもので、オリヴィエ・メシアンが付けた名前だそうです。音域は3オクターヴ半におよぶ由。
以上、ラルース音楽辞典に記載されておりました。カウ=ベルと鍵盤が結びつかないのでイメージすることが難しいのですが、上記辞典ではそうなっておりました。

実際にメシアンが使用した作品は、私が確認したものでは「我ら死者の復活を待ち望む」があります。この作品の第2曲に3台の cencerros が指定されています。ここはインドの Simhavikrama というリズムを奏でる箇所で、これに関してはスコアの序文にフランス語で解説がなされています。フランス語は自信がありませんが、どうもこのリズムは死に対する勝利を象徴しているもののようです。

メシアンは極めて打楽器好きで、例の crotali(フランス語なら crotales) も「主イエス・キリストの変容」で使われているようです。但しこんな大曲の馬鹿高い楽譜は所有しておりませんので、確認はできません。

尚、ラルース辞典の crotali の項は古代ギリシャの打楽器で、カスタネットのように叩くという解説でした。

また、「世界の楽器百科図鑑」(マックス・ウェイド=マシューズ著・別宮貞徳監訳・東洋書林刊)という書物には、crotales を古代のシンバルとして紹介してあり、使用例にはベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」を挙げています。例のマブ女王のスケルツォですね。
これも私が所有しているペータース版のポケット・スコアでは crotales ではなくアンティーク・シンバルと表記されております。前稿で挙げたドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」と同じものと考えてよいと思います。

この図鑑には cencerros は紹介されていません。以上、蛇足でした。

     *****

最後のブラームス。特に「聴きどころ」を挙げる必要もないでしょうが、いくつか。

前半の2作品は戦争に関わる作品で、どうしても重く、暗く、聴き手に緊張を強いる作品でした。
これに対して後半はブラームスの良く知られた作品を置くのですが、ブラームスの中でも最も明るく、開放的な第2を選ぶ辺り、スクロヴァチェフスキの配慮には感服してしまいます。

ここでは難しいことを考えず、素晴らしいブラームス・ワールドに浸りたいですね。最後の盛り上がりなどは少し羽目を外す位であってもよいのじゃないでしょうか。客席も大いに盛り上がりましょう。

オーケストレーションも見事で、例えばホルン。4本使いますが、通常は裏方に徹する3番・4番が活躍するように書かれていますね。特に第4楽章。ここぞとばかりに吹き捲るところがあります。
ここなど指揮者が“そこはもう少し音量を上げて!”などと指示してくれれば、日頃の鬱憤を晴らすかのように高らかに歌い上げられます。3番4番ホルンにとっては真に「おいし~い」。

ブラームスの中でも飛び切りの開放感がありますね。

私はブラームスの4曲ある交響曲はどれも均等に好きで、今聴いている曲が1番好き、という感じですね。最初は専らレコードで聴いていましたが、最初はとっつき難い音楽、という印象を持っていました。因みに私が最初に手にいれたレコードはベーム=ベルリン・フィルの古いモノラル録音です。
(第1はクリップス=ウィーン・フィル、第3はべイヌム=コンセルトへボウ、第4はクレンペラー=フィルハーモ二アでした)

そのとっつき難い音楽の中で、最初に心惹かれたのは第2の第1楽章のしばらく行った所、遠雷の後でヴァイオリンが歌う美しいメロディーです。練習番号A、小節数で言うと第44小節ですね。
ところがこの旋律は再現部では出てきません。ブラームスはこんな美しいメロディーを何故1回だけで引っ込めてしまったのか、当時の私には不満でしたね。

ところで第1楽章提示部には反復記号があります。(全曲の中で反復記号があるのはここだけ)普通はこの繰り返しはやらないのですが、ピエール・モントゥーとイシュトヴァン・ケルテスは繰り返しをやってくれます。たった8小節ですが、繰り返しをやらなければ聴けないパッセージが出てきます。何かとても得をしたような気分になったものです。

スクロヴァチェフスキはどうするでしょう。確かマエストロにはハルレ管弦楽団とのブラームス交響曲全集があったと思いますが、買い損なってしまいました。ですから今回が、多分スクロヴァチェフスキのブラームス演奏の初体験になると思います。(遥か昔に読響で第3を聴きましたが、細かいことは忘れています)

そういう意味でも楽しみです。私の密かな「聴きどころ」。

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落穂拾いでいくつか。

ブラームスの第2交響曲の日本初演は以下です。

1927年12月17日 奏楽堂 C.ラウトルップ指揮・東京音楽学校

前半の予習にピッタリなレコードがかつて出ていたのですね。
正にオネゲルとメシアンのカップリング。LPレコードですが、どちらもパリ管弦楽団の演奏、指揮はオネゲルがミュンシュ、メシアンがボドですから、正に極め付けでしょう。

この組み合わせを考えた編集者は中々のもの。

神保町のクラシックスというマニア向け店舗のホームページで見つけました。品番は ASD 2467 英国盤でしょうか。
長いリストですが、真ん中よりやや後ろ、ジャケット写真が掲載されています。

http://www.classicus.jp/catalog/orchestra.html

カランドラ・ヒバリについて。
カナダのサイトで、フランス語。Chant というアイコンをクリックすると鳴き声が聞けます。メシアンの譜面と比べてください。似ていますか?

http://www.oiseaux.net/oiseaux/passeriformes/alouette.calandre.html

 

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