復刻版・読響聴きどころ(14)
忙しい季節になってきましたので、このシリーズも早く終わらせたいと思います。2007年7月の読響聴きどころ。カリニャーニが振った名曲シリーズから。
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7月の読売日響は、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴスが3種類のプログラムで4公演を指揮する予定でした。45周年記念として、かつて常任指揮者だったマエストロですからね。
しかし病気療養のため来日できず、指揮者が交替することはご案内の通りです。聴きどころの対象、名曲と定期はパオロ・カリニャーニ氏が指揮されます。
この聴きどころシリーズも、私ばかり書いているようでマンネリ化してしまいそう。コミュニティですから出来るだけ多くの皆様に参加していただきたいと思っています。
7月のプログラムは、最近の読売日響には珍しくなってしまった“序曲+協奏曲+交響曲”というオーソドックスなもの。嘗てはこれが定番でした。
最初の序曲「オペロン」はウェーバーの最後の傑作です。オペラ全体が上演されることは稀ですが、序曲は昔からコンサートの冒頭で演奏されてきました。
特に聴きどころを列挙することもないと思いますが、序奏と主部に別れています。序奏ではホルンの魅惑的な呼びかけで瞬時にロマンティックな雰囲気がホールに満ちてしまうのが素敵です。
両ヴァイオリンは弱音器をつけていますが、最後にヴィオラが音を引っ張っている間に慌しくミュートを外します。そして強烈な和音。うっかりウトウトし始めた人達が目を覚ます仕掛けですね。
いろいろ美しいメロディーが出ますが、みなオペラの中で使われるものです。序奏の雰囲気は第1幕の序奏と同じ。クラリネットのメロディーは第1幕5番、ヒューオンのアリアそのものです。真ん中の短調で出てくるリズミックな音型は第2幕の嵐の場面に出るもの。この辺の繋ぎ方は実に巧いですね。
最後のコーダで、木管の下降フレーズにオリジナルにないホルンを重ねる習慣があります。昔の指揮者はほとんどこのパターンですが、カリニャーニはどうしますか? 個人的にはチョッと注意して聴きたい箇所です。
次のブルッフ。ブラームスとほぼ同時代の人ですし、個人的にも親しかった間柄です。その作品は、最近ではこの協奏曲とコル・二ドライなど若干が聴かれるだけです。
ナチスの時代にユダヤ人と勘違いされて演奏禁止になったのが未だに跡を曳いているのでしょうか。コル・二ドライという如何にもユダヤ風の作品がありますが、この人はドイツ人ですよね。
得意としたのは声楽曲ですから、ヴァイオリン協奏曲でもその豊かなメロディーが聴きどころ。特に短い序奏のあとに入ってくるヴァイオリン・ソロ。テンポのないアドリブですが、ヴァイオリニストの腕の見せ所でしょう。
全体は3楽章ですが、第1楽章は前奏曲 Vorspiel なんですね。そのまま第2楽章のアダージョに流れ込みます。
ブルッフの溢れ出るようなメロディーは、ヴァイオリン・ソロに止まらず、オーケストラだけの推移部にもふんだんに出てきます。管弦楽の厚みのある「歌」も楽しみな聴きどころ。読響の充実感が味わえるはずです。
この協奏曲は、よくメンデルスゾーンの協奏曲と組み合わせで録音されますが、両者の第3楽章が何となく似ている、と感ずるのは私だけでしょうか。
最後はムソルグスキーの「展覧会の絵」。今回もラヴェルのオーケストレーションで演奏されます。この曲の管弦楽版は様々なものがあるのですが、最もよく取り上げられるのがラヴェルです。何故かといえば、やはりこれが一番良く出来ているからでしょう。
他にどんなものがあるかは、こちらをご覧下さい。これは世界中のオーケストラのライブラリアンが参加している組織が作成したリストです。今回は特別に読響コミュニティの皆様に紹介しましょう。って、それほど大袈裟なものではありませんが、普通の検索では引っかからないページだと思います。
中で面白いのはレナード・スラットキンの試み。内容は皆さんで確認してください。
http://www.mola-inc.org/Mussorgsky.htm
聴きどころは、何と言ってもラヴェルの華麗なオーケストレーション。これはコミュニティの皆様夫々が「聴きどころ」をお持ちでしょうから、ここに紹介していただければ面白いと思います。
私は天邪鬼で、あえて第8曲のカタコンブとそれに続く Cum mortuis in lingua mortua と表記されているプロムナードの変容ですね。このラテン語は「死せる言葉による死者への語りかけ」という意味ですが、意味深長な何かを感じます。
プロムナードは繰り返し登場しますが、ここは特別。オリジナルのピアノ版で聴いても、ムソルグスキーの画家ハルトマンに寄せる想いが伝わってくるようです。
最後に日本初演。と言ってもムソルグスキー以外は適当な資料が見つかりません。
展覧会の絵は以下のものです。
1934年3月14日 日本青年館 近衛秀麿指揮・新交響楽団。ただしこれは近衛秀麿によるオーケストレーションです。ラヴェル版が本国ロシアでは不評だったことを知っていた近衛氏が自らロシア風にアレンジした版。
ラヴェル版による日本初演は、
1948年9月20日 日比谷公会堂 尾高尚忠指揮・日本交響楽団です。戦後なんですねぇ。新響も日響も現在のN響のこと。
あとの2曲は日本のオーケストラ定期初登場の記録です。
ウェーバーのオペロン序曲は、
1927年10月30日 日本青年館 近衛秀麿指揮・新交響楽団。このときもプログラム冒頭で取り上げられ、あとはモーツァルトの協奏交響曲、ベートーヴェン第5という、プログラムの定番でした。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は、
1933年12月8日 日比谷公会堂 ヴァイオリンは諏訪根自子、山田耕筰指揮・新交響楽団。
このときは最初がフランクの交響曲で、協奏曲を挟み、最後がグリエールの交響詩「ザポロージェのコサック」。こういう逆パターンも結構ありましたね。
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