強者弱者(150)

驟雨

 秋海棠の花咲く。さみしき色其名にふさへり。
 驟雨しばしば到る。本郷に雨ふらずして芝に下水のあふるゝことあり。麻布に落雷して深川に事なき日あり。晴れては降り、降りては晴るゝ日あり。下婢の洗濯ものを取入るゝひまなきもをかし。夏の雨は比較的量多く突如として堤防を毀ち電線を絶ち、避暑地の客をして徒に都門のたよりに憧れしむること多し。別荘を持てる人こそよけれ、鎌倉、逗子、大磯あたりに漁家の座敷など借りうけて、上流並みの栄華を学べる人の此雨に降り込められて、暮し侘びたるは小気味よきことの限りなり。

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「秋海棠」(しゅうかいどう)は園芸植物で、ベゴニアと呼んだ方が通りが良いかも知れません。ベゴニアはそもそも熱帯の植物で、自然状態では日本の冬は越せませんが、秋海棠として知られる種類は比較的寒さに強く、一部で野生化しているものもあるそうです。
中国やマレー半島が原産、日本には寛永年間に渡来した由。

「下婢」はシリーズ(135)で取り上げたように、女中のこと。

「都門」(ともん)は都の人間のこと。転じて都会そのもので、ここでは東京市を指すのでしょう。

昨今は地球温暖化の影響とかで所謂ゲリラ豪雨が話題になりますが、夏の驟雨は今に限ったことではなかったようですね。

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