強者弱者(158)

暑中劇場

 此月、大暑とありて各劇場とも大抵休業。但し二流以下の俳優相互して涼み芝居といふものを催す。脚本には雨中の決闘などすべて小気味よきものを選ぶを常とす。而も場内は依然として焦熱地獄なり。唯、歓楽の前の苦痛を忍ぶ人の力、寧ろ驚くに堪へたり。活動写真も此月より午後三時開場、但し、暑さを厭ふものは観客に非ずして寧ろ興行者の側に在るべし。東京市民たるもの、活動写真のためには死も尚ほ且つ辞する所にあらざるべし。

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100年前の風俗として大変興味ある一文です。現在と違って劇場には冷房もなく、テレビの娯楽なども皆無の時代。芝居や映画は大衆にとって第一の娯楽だったでしょう。

真夏の密閉された空間での娯楽。その暑さも厭わず劇場に通った市民の芝居好きは現代以上だったことが偲ばれます。死をも覚悟で活動写真に通う情熱は、現代では失われてしまったものかも知れません。

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