強者弱者(132)

半期の賞与

 三十日、大祓、半期決算、各官庁及銀行会社にては、此月末より、翌月の十日頃迄に賞与を分つを例とす。下級官吏、下級社員の中には半期々々の賞与をあてに借金するものあり。つづまやかなる女房を持ちたる人は、半期々々の賞与つもりて不時の貯蓄ともなりぬ可けれど、男も女もひたすら上流の栄華に憧るゝは近き頃のならはしなり。此月の収入を待ちわびて漸く買いもとめたる流行品の一年を待たずして廃れるも笑止なり。
 半期の賞与をまちわびて、流行おくれの品を買い求めたる下級官吏、下級社員の笑止さもさる事ながら、新聞記者、文士などいふ人々の、盆と正月毎に身の不遇を欺き、才の及ばざるに想ひ到らざるもをかし。
 日本銀行、郵船会社などに使はるゝ人の国庫の補助に夥しき賞与金をうけて得々たるはよけれど、曾て國恩の鴻大なるに想ひ到らず、社会に酬ゆるの志なきは陋なりとも陋なり。

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「大祓」(おおはらい)は12月の大晦日だけじゃありません。年に二回、6月30日も大祓です。

半期毎に賞与を支給する習慣は明治9年に三菱が支給したのが最初だそうですが、明治末年には官公庁や銀行では慣習化していたようですね。更には賞与を担保にして借金するという慣行も。

「つづまやか」は、漢字では「約やか」と書いて、①手軽 ②狭くて小さい の他に③慎ましやか の意味もあります。

賞与は新聞記者や文士には無縁の世界でしたが、自分の能力の無さを棚に上げて羨ましがる、という書き方が面白いですね。
秀湖も所謂文士でしたが、当時は「三文文士」乃至「物書き」と称して、無能の代名詞でもあり、金とは無縁な職業でもありました。

最後の一節は耳の痛い人も多いでしょう。

「鴻大」(こうだい)は「大いなる」ということ。広大と同じです。

「陋」(ろう)は「卑しい」ということ。税金をくすねて私服を肥やすような輩のことを言います。

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