強者弱者(164)

桔梗とかる萱

 桔梗は西郊より南郊にかけて野生のもの多し。八月の半より咲き出づ。かる萱も西南の高原に多し。東京の植木屋盆栽を作る都合より、糸すゝきを呼びてかる萱といひならはせり。かる萱は丈尾花にひとしく矮生として作ること困難なればなり。今日、市民の糸すゝきを以てかる萱と思惟するもの多きは全く植木屋先生の教へによるものと知る可し。

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「かる萱」を秋の七草に入れるかどうかは、人によって意見が分かれるところでしょう。

カルカヤはイネ科の植物で、現在の正式和名は「メガルカヤ」。古来「刈萱」は、屋根を葺くために刈り採る草の総称だったもので、メガルカヤはこれに最も適した種類でした。これを集めて作ったタワシを「カルカヤだわし」と言うほど。

明治時代にも混乱があったようで、この一文によれば、植木屋が盆栽に作る時に糸ススキを刈萱と称したことが判ります。
「糸ススキ」が何であるかについても異論がありましょうが、これは盆栽に使うススキの一変種だと考えればよいと思います。ススキとメガルカヤでは見た目も違いますし、学問的にもススキはイネ科ススキ属(ミスカンツス Miscanthus)、メガルカヤはイネ科メガルカヤ属(テメダ Themeda)ということになっています。

「矮生」(わいせい)は、本来の形より小さく生じたり、意識的に小さく作ることをいいます。特に観賞用植物では多く用いられる技術で、盆栽はその代表的なものでしょう。

「思惟」(しゆい)は、気持ちを集中して考え巡らすこと。

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