トライアルのウィーク・エンド

日曜日のロンシャン、3週間後に迫った凱旋門賞フェスティヴァルに向けたトライアル・レースが一斉に行われました。昨日は他にアイルランドのカラー競馬場でもパターン・レースが行われましたので、全部まとめて取り上げましょう。

ロンシャンのプログラムは全部で9レース、うち5レースがパターン・レースです。今日は日本にも関係の深いレースから取り上げましょうか。

既にヤフー・ニュースでも速報されていますが、いつもは日本時間の翌日午後にならないと発表されない結果の早かったこと。恐らく報道陣が大挙してロンシャンに押しかけ、瞬時にレポートを入れたんでしょうね。日本馬が参加すると、こうも態度が違っていくるのか・・・。

パターン・レースとしては4番目に行われたフォア賞(GⅡ、4歳上牡牝、2400メートル)から。英国ではフォイ賞と発音しますけどね。

6頭立て。既に枠順を紹介したように、ナカヤマフェスタの参戦が注目です。古馬(4歳以上)による凱旋門賞トライアルですが、今年はやや手薄なメンバー。中でイーヴンの圧倒的な人気に押されたのは、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスに勝ち、ジャドモント・インターナショナルで3着に入ったバイワード Byword でした。ファーブル厩舎、グィヨン騎乗の地元馬です。

レースは1ハロン地点からダンカン Duncan が先頭に立ち、一旦は2番手に付けたドイツのティモス Timos に交わされましたが、ゴール前100ヤードで再び先頭を奪い返し、追い込むナカヤマフェスタ Nakayama Festa を4分の3馬身抑えての粘り勝ち。
1馬身差3着にティモスが続き、終始4番手の本命バイワードは末脚を欠き4着。出走馬中唯一の牝馬ダルヤカナ Daryakana も5着と生彩を欠きました。

凡走したバイワード、初体験の2400メートルが堪えたのでしょうか、距離適性に疑問符の付く一戦でした。

ナカヤマフェスタ(最終的には6対1の3番人気)は3番手に付け、先頭に並びかける場面もありましたが、最後の50ヤードで伸び脚が止まってしまいましたね。
2着という着順は評価できても出走馬のレヴェルは左程高くありませんし、勝ったのがダンカンですからね、本番は厳しいと思います。

勝ったダンカンは128対10の最低人気、1・2番人気の凡走で大穴が開きました。
イギリスのジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビューイック騎乗と言えば、前日にアークティック・コスモス Arctic Cosmos でセントレジャーを制したチーム。同じコンビで、その前日にドンカスター・カップに勝ったサミュエル Samuel は、ダンカンの半兄でもあります。

ロイヤル・アスコットのハードウィック・ステークス2着という実績はあるものの、これがパターン・レース初勝利となりました。

次はニエル賞(GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)。パターン・レースとしては3番目のレースです。凱旋門賞に向けたトライアルとしては最も実績のある一戦で、今年も好メンバーが揃いました。

7頭が出走してきましたが、前評判はパリ大賞典1・2着馬の一騎打ち。勝ったベーカバッド Behkabad と2着のプランテール Planteur が共に9対5で1番人気を分けあいました。
日本から遠征したヴィクトワールピサ Victoire Pisa は5対1で3番人気。日本人馬券がオッズを上げたのかも知れません。

結果は順当そのもの。プランテールのペースメーカーを務めるヴィーヴル・リーブル Vivre Libre が飛ばします。これを2番手でマークしたプランテールが直線入口で交わし先頭、そのままゴールに突き進みましたが、3番手で先行馬をマークしていたベーカバッドが鋭く追い上げ、最後はプランテールとのマッチレースを頭差制しての快勝です。
4馬身離された3着にキッドナッピング Kidnapping 、武騎乗のヴィクトワールピサは更に4馬身離された4着敗退です。

凱旋門賞の有力候補2頭との差が8馬身あったヴィクトワールピサ、陣営では手応えありと強気の発言をしたようですが、この差を本番で逆転するのは余程のことが無い限り無理でしょう。

逆に勝ったベーカバッドはレース前から凱旋門賞の有力候補でしたが、この結果で期待は更に高まりました。ブックメーカーにより多少の違いはありますが、本番に直行するフェイム・アンド・グローリー Fame And Glory と並んで、あるいは抜いて1番人気(7対2)に躍り出ました。

ベーカバッドを管理するジャン=クロード・ルジェ師は、全て計画通りと満足げ。鞍上クリストフ・ルメールも本番への自信を深めた様子です。
馬主のアガ・カーンは、ニエル賞→凱旋門賞ダブルを既にシンダー Sinndar (2000年)、ダラカニ Dalakhani (2003年)で達成していますから、ベーカバッドでハットトリックを目指します。可能性はかなり高いと見ました。

トライアルの結果を受けて、ヴィクトワールピサもナカヤマフェスタも本番へのオッズは共に25対1が相場。14~15番人気といった所でしょう。

さて、一般的に見てこの日の最大の注目レースはヴェルメイユ賞(GⅠ、3歳上牝、2400メートル)。2004年から古馬にも開放され、今年は5頭の4歳馬に対し7頭の3歳馬が挑む12頭立て。

1番人気(6対4)は、今年の仏オークスを含め3戦無敗のサラフィナ Sarafina 。4歳のミッドディ Midday が14対5の2番人気、続いて去年のオークス馬サリスカ Sariska が48対10で続きます。

しかしスタートで又しても珍事。前走ヨークシャー・オークスでゲートから出なかったサリスカが、ここでもレースを拒否。陣営では即座に同馬の引退を宣言しました。理由は不明ですが、彼女の気性は完全に壊れてしまったのかも知れません。

レースはサラフィナのペースメーカーであるアシーラ Ashiyla が引っ張り、プルーマニア Plumania とミッドディが追走する展開。本命サラフィナは中団待機策です。

ゴール前300メートルでプルーマニアが抜け出した所にミッドディの末脚が爆発。ゴールではミッドディがプルーマニアに4分の3馬身差を付ける快勝です。
サラフィナも終盤良く追い上げましたが、半馬身届かず3着で無敗記録が途絶えました。以下、逃げたアシーラが4着。武豊が騎乗したパスカル・ベイリー厩舎のダリオール Dariole (57対1、後ろから4番目の人気)の6着は健闘の部類でしょう。

上述のように、ヴェルメイユ賞は2004年から古馬に開放されましたが、古馬が勝ったのはその2004年だけ、以後は全て3歳馬が制してきました。(去年は1着入線の古馬ダー・レ・ミ Dar re Mi が失格になりましたが)
今年は4歳馬の1・2着。これをどう評価すべきでしょうか。

これがGⅠ5勝目となるミッドディは、もちろん英国のヘンリー・セシル厩舎、トム・クィーリー騎乗。セシル師にとってヴェルメイユ賞は初制覇となり、英国馬の勝利も1998年のレガーラ Leggara 以来の快挙となります。

セシル師の談話では、ミッドディはアメリカのブリーダーズ・カップ連覇を目指す由。凱旋門賞への出走は無いでしょう。

ロンシャンの結果を続けると、アベイ・ド・ロンシャンのトライアルとなるプティ・クーヴェール賞(GⅢ、3歳上、1000メートル)は14頭立て。
ドーヴィルでモトリー賞(GⅢ)を含め2連勝した英国のスイス・ディーヴァ Swiss Diva が13対10の1番人気に支持されていました。

フランスのスプリント戦は英国勢の強さが目立つ分野、今年も唯一の英国調教馬スイス・ディーヴァが期待に応えて圧勝です。
2馬身差2着にブラスター Bluster 、頭差3着はマー・アデントロ Mar Adentro 。
7歳の古豪ウォー・アーティスト War Artist は4着、マルシャン・ドール Marchand D’Or も9着敗退です。

スイス・ディーヴァはデヴィッド・エルスワース厩舎所属、エルスワース師はこのレース2勝目です。
騎乗したイオリッツ・メンディザバルは、同馬のフランスでの騎乗を任され、これで3連勝。パターン・レースも2連勝で、今回もムチを一切使わない楽勝でした。
当然ながら次はGⅠのアベイを同じコンビで狙うでしょう。もしプティ・クーヴェール/アベイ・ド・ロンシャンを連覇すれば、1965年のシルヴァー・シャーク Silver Shark 以来の快挙になるのだそうです。

なお、このレースには日本からピサノヴァロン Pisa No Varon も武騎乗で参戦していましたが、11着以下の惨敗に終わりました(成績書は10着までしか表記されず、ピサノヴァロンは11着以下の1頭として記載)。

ロンシャンの最後はグラディアトゥール賞(GⅢ、4歳上、3100メートル)。カドラン賞のトライアルですね。
8頭立ての1番人気(6対4)はバンナビー Bannaby でしたが、7着と凡走。2番人気のカスバー・ブリス Kasbah Bliss も5着と期待を裏切り、優勝は71対10の伏兵ジェントー Gentoo
2馬身差2着がワタール Watar 、4分の3馬身差3着にキンブル Kimble という波乱。

最後方から追い込んで勝ったジェントーは、A・リオン厩舎、ジェラール・モッセ騎乗。パターン・レース初挑戦で初勝利となる6歳せん馬です。

因みに日本から遠征している武豊騎手、この日は第3レースのハンデ戦にも騎乗(フランソワ・ドゥーメン厩舎のストック・エクスチェンジ Stock Exchange)しましたが、20頭立ての9着に終わりました。

大分長くなりましたが、もう一頑張り、アイルランドに飛んでカラー競馬場をレポートしましょう。出来るだけ簡潔に。

ソロナウェー・ステークス(GⅢ、3歳上、1マイル)は2頭が取り消して8頭立て。11対8の1番人気に支持されたスタインベック Steinbeck が期待に応えました。
4分の3馬身差2着がウェイド・ジル Wade Giles 、半馬身差3着にアクロス・ザ・ライン Across The Rhine の順。

エイダン・オブライエン厩舎、ジョニー・ムルタ騎乗の同馬は愛2000ギニーの4着馬で、意外にもこれがパターン・レース初制覇です。僚友リップ・ヴァン・ウィンクル Rip Van Winkle 、ベートーヴェン Beethoven と共にクィーン・エリザベスⅡ世ステークスに向かう予定。

続いてブランドフォード・ステークス(GⅡ、3歳上牝、1マイル2ハロン)。10頭立ての1番人気(3対1)は、英国から挑戦してきたエレアノラ・デュース Eleanora Duse 。ここはヨークシャー・オークス3着の実力を見せつけ、貫禄の勝利です。

ゴール前は接戦になりましたが、短頭差2着にシーズ・アワ・マーク She’s Our Mark が追い込み、更に頭差でチューズ・ミー Choose Me 。

これまた意外にもパターン・レース初制覇となるエレアノラ・デュースはサー・マイケル・スタウト厩舎、ライアン・ムーア騎乗の黄金コンビ。
スタウト師はこのレースに強く、これが4勝目(1999年、2005年、2006年)となります。
古馬として大成させる名伯楽スタウト師のこと、この馬も4歳になる来年の本格化が期待できそうです。

盛り沢山の日曜日、最後はルネサンス・ステークス(GⅢ、3歳上、6ハロン)。10頭が出走し、ここも順当に1番人気(3対1)に支持されたビウィッチド Bewitched が期待に応えました。
首差2着がクロワサルタン Croisultan 、4分の3馬身3着にスネーフェル Snaefell 。

ビウィッチドを管理するオブライエンは、エイダンではなくチャールズ・オブライエンの方。鞍上はジョニー・ムルタで、ムルタ騎手はソロナウェー・ステークスに続きパターン・レース・ダブル達成です。
この馬もパターン・レース初制覇。

ということで、アイルランドは全て本命馬がパターン・レース初制覇するという珍しい記録が生まれました。

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