強者弱者(172)(最終回)

ほぼ1年前、「強者弱者」シリーズをスタートさせました。爾来1年、全172編の随筆を紹介してきましたが、今回で無事に最終回を迎えます。

 
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木槿咲く頃

 二十一日、彼岸の入り。二十四日、秋季皇霊祭、彼岸の中日にて六阿弥陀に詣づるものあり。残暑漸くにして去り、郊外の散策また悪しからず、目黒の不動、中野の薬師など相応の人出あり。何れも門前に栗飯を売る。中野の栗飯は近年のことなり。但し、野の趣は目黒に非ずして寧ろ中野に在り。
 蟋蟀の声漸く軒に近し。
 初栗市に上る。梨、葡萄など朝露にうるほひて、味一しほなり。柿は未だし。草花に、秋海棠、芙蓉、萩、朝がほなど盛り、鳳仙花は末、花菱草咲き初む。
 野には路傍の籬に沿ひ、小川の流れにのぞみて、木槿の花咲けり。

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六阿弥陀については連載の初期、1年前の彼岸の頃にも取り上げました(シリーズ4)。また春の彼岸の折にも登場しています(シリーズ80)から、そちらも。序と言っては不謹慎ですが、(80)では春季皇霊祭も話題になっています。

また中野の薬師と栗飯についてもシリーズ(7)で扱いました。その時には紹介しませんでしたが、こんなブログも見付けました。↓

http://www2u.biglobe.ne.jp/~itou/meiji.htm

秋の花がいろいろ挙がっていますが、秋海棠(しゅうかいどう)は寛永年間に渡来した園芸植物。所謂ベゴニアの一種で、耐寒性に富んでいるため、日本でも野生化しているものも見受けられます。

鳳仙花(ほうせんか)も秋を代表する園芸植物で、こちらの日本への渡来は元禄以前なのだそうです。
園芸にも流行り廃りがあるようで、最近はあまり見かけなくなりました。秀湖の好みだったのか、拙宅の子供の頃は庭に鳳仙花が多く植わっていて、その種が弾ける様が面白くて良く遊んだことを思い出します。

花菱草(はなびしそう)はやや疑問ある植物。広辞苑や各種図鑑に掲載されている花菱草はケシの仲間で、花期は5月から6月。ここでは“咲き初む”とありますので、秀湖が他の植物と混同したのではないでしょうか。
恐らく花弁が菱形の花を「花菱草」と思い込んでいたと思われますが、想像ではニチニチソウかオシロイバナあたりか。

「木槿」は「もくげ」。「むくげ」と読むのが普通かもしれません。夏の終りから秋の初めにかけて、東京の街中はムクゲが真っ盛りとなります。色も白、桃色、赤紫など様々で、私はいつも同じ仲間の「芙蓉」(ふよう)と混同してしまうのです。

ムクゲもフヨウもアオイ科フヨウ属の木本で、属名はヒビスクス Hibiscus 。英語風に発音すればハイビスカスのことで、現在ハイビスカスと呼ばれているものは、フヨウ属のいろいろな種類を配合して園芸植物として創り出したものですね。

正式な学名では、ムクゲは Hibiscus syriacus 、フヨウは Hibiscus mutabilis 。いずれにしても中国辺りが原産で、日本古来の植物ではありません。

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