今日の1枚(107)

今日も「ロシア管弦楽名曲集」と題された1枚です。ユニヴァーサル・クラシックから復刻された日本盤で、イーゴル・マルケヴィッチ Igor Markevitch がパリ・ラムルー管弦楽団 Orchestre Lamoureux, Paris と1950年代後半に録音したもの。

ユニヴァーサルは、傘下のデッカ、フィリップス、ドイツ・グラモフォンなどの名盤を駆使して廉価盤による名指揮者シリーズを企画していましたが、これもその1枚です。マルケヴィッチがドイツ・グラモフォンやフィリップスに録音したステレオ盤を中心にまとめたシリーズで、これはドイツ・グラモフォン原盤のロシア音楽集。
2006年8月発売のもので、品番は UCCG-4211 。

①グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
②ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」
③リャードフ/交響的絵画「ヨハネ黙示録から」
④リムスキー=コルサコフ/序曲「ロシアの復活祭」
⑤リムスキー=コルサコフ/歌劇「五月の夜」序曲
⑥リムスキー=コルサコフ/組曲「金鶏」<4つの音楽的絵画>

当CDに記載されたデータは、
①②③は、1959年12月9日と15日 パリ、共済組合ホール
④が、1957年11月12日 パリ、シャンゼリゼ劇場で、これだけがモノラル録音。
⑤は1958年6月11日、⑥が1958年6月8日から10日のテイクで、共にパリ、プレイエルホール
とクレジットされています。プロデューサーやエンジニアの名前は記載されていません。

④⑤⑥が共通している別の組み合わせによる海外盤CDによると、録音日時は合っているものの、④の録音場所もプレイエルホールとされています。どちらが正しいかは判りません。

またこの海外盤には録音チームの名前も掲載されていて、いずれもエクゼキュティヴ・プロデューサーは Prof. Elsa Schiller 、レコーデング・プロデューサーは④が Heinz Reinicke 、⑤⑥は Karl-Heinz Schneider 。バランス・エンジニアは、④が Heinrich Keilholz 、⑤⑥は Werner Wolf となっています。

モノラルからステレオ初期にかけてドイツ・グラモフォンはエルザ・シラー女史が取り仕切っていましたから、これらは全てシラー女史のプロデュースになる録音。個々のレコーディング・プロデューサーやエンジニアも、当時のグラモフォンを代表する技術者たちですね。

オリジナルのLPがどんな組み合わせだったか判りませんが、唯一のモノラル録音である④はこのアルバムのためにカップリングされたものでしょう。
ブックレットがオリジナルのLP盤デザインを使用している(多分)ので、④以外は初出の選曲と思われます。

録音はいずれも硬めの音質で、あまりヴォリュームを上げると耳障り。モノラル録音も混在するため、ヴォリュームの摘みを小まめに調整する必要があります。
(上記海外盤の④⑤⑥は日本盤に比べると円やか。マスタリングの違いでしょう)

オーケストラは通常のアメリカ配置。ホルンの位置から判断して、①②と③は別の日のテイクと思われます。(①②ではホルンは中央右より、③では中央左よりに聴こえる)
⑥の第2曲で活躍するチェレスタは左端から。

演奏はどれもマルケヴィッチの筋肉質なスタイルが特徴的。しかし聴きどころは当時のパリのオケ独特の音色にあります。
日本語解説(満津岡信育)でも触れられている通り、特に②や⑤で聴かれるホルンの音色は現在ではほとんど聴くことが出来無くなったフランス色が濃厚なもの。それは⑤に登場するトロンボーン・ソロにも言えること。

特に②はマルケヴィッチの採用するテンポが独特で、このアルバム随一の聴きもの。二つのテーマのうち、第2主題(最初にイングリッシュホルンが提示するもの、練習記号Aから)のテンポをぐっと落として情感豊かに歌わせる解釈は、恐らくこの曲のベストでしょう。このような通俗作品が天下の名曲に聴こえます。

他では、
①でサヴァリッシュは一箇所ティンパニを加筆していましたが、マルケヴィッチは楽譜通り。

③の最後はティンパニのソロが締めくくりますが、こちらは右端から明瞭に聴こえます。f から pp までの振幅が聴きもの。

④をカップリングとして追加したのは、④冒頭のロシア聖歌が③でも共通して使われているからでしょう。③は先日もアレクサンドル・ラザレフが日本フィルの定期で演奏しましたが、もっと聴かれて良い佳曲です。マルケヴィッチで聴ける当盤は貴重かも。

⑤ 練習番号3の6小節前、ホルンに高いE音が要求されるためリムスキー=コルサコフはこのホルンをアド・リブ(吹かなくても可。フルート+クラリネットのアンサンブル)としていますが、マルケヴィッチ/ラムルーはキチンと吹いています(ホルン+フルート+クラリネット)。

⑥は作曲者自信が組曲として編纂する意向がありながら死去によって実現しなかったもの。解説では娘婿のシテインベルクとグラズノフが共同してまとめあげたもの、とありますが、実際にはシテインベルクが一人で完成させた由。
作曲者は単一楽章とする考えでしたが、出来上がったものは4楽章のスコア。その意味でカットを施したり、彼方此方を繋ぎ合わせて録音するケースもありますが、マルケヴィッチはシテインベルクが完成させた形で完全収録しています。安心してスコアを見ながら聴くことが出来る録音。

参照楽譜
①オイレンブルク No.639
②オイレンブルク No.833
③カーマス A6107(指揮者用大型スコア)
④オイレンブルク No.692
⑤カーマス A1923(指揮者用大型スコア)
⑥オイレンブルク No.1377
 

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