今日の1枚(109)

アンセルメ Ernest Ansermet とスイス・ロマンド管弦楽団 L’Orchestre de la Suisse Romande のロシア音楽コンサート・2枚組CDの2枚目を聴きます。

①リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」
②リムスキー=コルサコフ/歌劇「サルタン皇帝の物語」~くまばちは飛ぶ
③リムスキー=コルサコフ/序曲「ロシアの復活祭」
④ボロディン/歌劇「イーゴリ公」~ダッタン人の踊りと合唱

①でのヴァイオリン・ソロはローラン・フニヴ Lorand Fenives 、④は合唱が入る版で、青年合唱団、ローザンヌ放送合唱団(合唱指揮/アンドレ・シャルレ Andre Charlet)となっています。これはあくまでも当CDの日本語表記。

また録音データは、①④が1960年11月、②は1957年4月、③が1956年10月と表記されています。もちろんアナログによるステレオ録音。③などはステレオ初期の極めて早い資料でしょう。

同年同月の録音データが示している通り、①④がオリジナル・カップリングでした。また②と③は記憶ながら、夫々個別のリムスキー=コルサコフ・アルバムに収められていたはずです。アンセルメには少なくとも3種類のリムスキー=コルサコフ盤があったと記憶します。

当盤にはこれ以外のデータは書かれていませんが、別資料によれば、①④のプロデューサーは James Walker 、エンジニアは Roy G. Wallace 。録音場所はジュネーヴのヴィクトリア・ホール Victoria Hall という記録になっています。

アンセルメの録音は様々なエンジニアが係わっていますから、②③については不詳ということにしておきます。ロケーションは全てヴィクトリア・ホールで間違いないでしょう。

②③は録音年代が古い分、かなりオンに録られていますが、①④は60年代ヴィンテージ。現代では年代を感じさせますが、両曲の名演・名録音として歴史に残る1枚です。私なども高校生の頃、毎日学校から帰ってはこのLPに針を落とし、それからでないと宿題が手に付かなかったものです。

今回聴き直しても、①はスタンダードな名演奏。中央左のヴァイオリン・ソロに、左奥にイメージされるハープが絡んで幻想的な雰囲気を醸し出します。

改めて気が付いたのは、第2楽章の練習記号Qの5小節前、ここのハープがやや不明瞭で、もしかするとカットしているのかも知れません。
もう一つは第4楽章のシンバル。Lの7小節前とМの11小節前の二度登場する吊シンバルの何とも生々しいこと。目を瞑れば、自宅に楽器が置かれているような錯覚に陥ります。デッカの独壇場か。

②は同歌劇から編んだ組曲には含まれていないピースです。アンセルメが使用したのはどの版か不明ですが、演奏時間は1分38秒。ダニエルズのハンドブックによると、このピースの演奏時間は3分。掲載されている出版社はブライトコプフ、カーマス、ラック、ロシア音楽出版所の4種類です。
ダニエルズには注記があって、声のパートをトランペットに置き換えたパートがあり、省略可能の由。

私は残念ながらどの版も見たことはありませんが、幸いに日本楽譜出版社から手頃なポケット・スコアが出ています。
アンセルメの演奏はこれと全く同じ。日本版にも声をトランペットに置き換えたパートが記載されていますが、アンセルメはトランペットを省略して演奏しています。

(②には様々な録音があって、例えばネーメ・ヤルヴィはもっと長い、多彩なオーケストレーションによる3分盤ですし、マリナーのものは日本版から冒頭のシンバルもトランペットも省略した弦と管だけによる演奏)

④は、当盤では「ダッタン人」の表記のままですが、現在ではポーロヴェッツ人とするのが常識です。言うまでもなく、ダッタン人とポーロヴェッツ人では民族が異なり、ボロディンに登場するのはポーロヴェッツ人。

アンセルメ盤では、歌劇の中から第8曲の「ポーロヴェッツの娘たちの踊り」と第17曲の「ポーロヴェッツ人の踊りと合唱」が続けて演奏されています。一般的な録音では後者だけが多いでしょう。
オイレンブルク版ポケット・スコア(No.886)も後者だけですし、合唱のパートも省略されています。

この曲のスコアでは、断然に全音楽譜出版社のものがお勧め。第8曲と第17曲が共に収録されていますし、第17曲の合唱パートも印刷されていますからね。
なお17曲にはコンチャク・カーンのパートもあり、全音版にも印刷されていますが、アンセルメ盤ではこのパートはカットされています。

④には「リムスキー=コルサコフ編」と表記されているものもあり、当盤もその例外ではありませんが、実際にはボロディン、リャードフ、リムスキー=コルサコフの3人による共同作業とすべきでしょうね。
その辺の事情も、上記全音版スコアで森田稔が素晴らしい解説を書かれています。

参照楽譜
①オイレンブルク No.493
②日本楽譜出版社
③オイレンブルク No.692
④全音楽譜出版社

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