今日の1枚(112)

今日もBISのチョン・ミョンフン Myung-Whun Chung 指揮イェーテボリ交響楽団 Gothenburg Symphony Orchestra による演奏でニールセン・アルバムを聴きます。交響曲の番号順に聴くことにして。

①ニールセン/交響曲第2番「四つの気質」
②ニールセン/組曲「アラジン」

当盤がミョンフン/ニールセン全集の第1弾として録音されたアルバムで、品番は BIS-CD 247 。録音データは、
①1983年3月4~5日
②1983年8月11~12日
これもスウェーデンのイェーテボリ・コンサート・ホールでの収録で、プロデューサーは Lennart Dehn 、エンジニアは Mickael Bergek 。

前回取り上げた交響曲第1番より6年前の録音ですが、水準は全く同じと言って良いでしょう。むしろ音圧はこちらの方が強い位で、ミョンフンの気魄に満ちた指揮振りを堪能できます。
もちろんディジタル録音。CD初期のアルバムのためか、ブックレットにはコンパクト・ディスクに関する使用注意が書かれていました。

当盤に記載されている使用楽譜は、①が Wilhelm Hansen 、②は Skandinavisk Musikforlag 。

録音に使用した機材の名称やブックレットの写真家の名前なども掲載されていますが、それは省略。ただ、アルバム・デザインを社長ロベルト・フォン・バール自身が行っているのが面白いところ。如何にも手作りのレーベルという感じがして微笑ましいものですね。

①はタイトル故に有名な作品ですが、ナマではあまり演奏されません。4つの楽章の夫々に人間の気質が発想記号として使われているのが特徴。
当盤の解説は Knud Ketting で、ニールセンが作曲のヒントを得た経緯が紹介されています。

スコアを見ながら聴く場合には多少問題あり。
以前から手軽に入手できたハンセン版ポケット・スコアには指揮者への注意書きがあって、第4楽章の練習記号BからC(第1主題の提示部)、Мから141ページの3小節目まで(第1主題の再現部)のホルンのパートには変更があるため、第1・第2トロンボーンと同じパートを吹くようにとのアドバイスがなされてるのですね。
この「変更」が何を意味するのかは不明ですが、ミョンフンはスコアの指示通りホルンをトロンボーンのパートに重ねて吹かせています。

更にダニエルスの「Orchestral Music, A Handbook」によると、第1楽章では第1フルートがピッコロ持替となっているものの、他の楽章は第3フルートに持替え指示があると記載されています。しかし上記ハンセン版ではピッコロ持替は第1楽章のみで、他の楽章にはピッコロは登場しません。ダニエルスにはハンセンの他にカーマス版が挙がっていますから、あるいはカーマス版には第2楽章以降にもピッコロの指示があるものと思われます。
ミョンフン盤では第1楽章以外のピッコロは聴き取れませんし、ましてや第1楽章で1番奏者が吹いているか否かは確認できませんよ、ね。

ということでニールセンには楽譜上の問題が多々あるのですが、最近になってウィルヘルム・ハンセン社が新たに校訂した新作品全集を刊行しています。
しかしこれは1998年にスタートした事業なので、BISにミョンフンが録音した1983年には旧版しか存在しなかったワケ。逆に言えば、旧版に基づく演奏と言う意味で貴重な資料かも知れません。

②はエーレンシュレーガー Adam Oehlenschlaeger のアラビアン・ナイトに基づく同名の劇に付けた音楽で、「東洋的祝典行進曲」「アラジンの夢と朝霧の踊り」「ヒンズー舞曲」「中国の踊り」「イスパハンの市場」「囚人たちの踊り」「ニグロの踊り」の7つの小品から成ります。

この中で圧倒的に面白いのは、第5曲の「イスパハンの市場」。スコアを見ずに聴いていると何が起こったのかと思われるかも知れません。
ニールセンはここでオーケストラを四つに分け、第1オーケストラが演奏して暫くすると他の三つのオーケストラが順次加わり、夫々が独自のテンポで演奏を続ける仕掛け。
当然ながら縦線は全く合わず、音楽は混沌の極み。聴いている方も何を聴いて良いか判らない状態に・・・。

これは市場で彼方此方から音楽が聞こえてくる様子を描いたものでしょう。後の偶然性音楽を遙かに先取りしたもので、ニールセンはこの手法を第5交響曲にも取り入れていますね。

四つのオーケストラの構成は、第1オケがオーボエ、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トライアングル。第2オケは弦5部。第3オケがホルン2、トランペット、ティンパニに歌詞の無い合唱がアド・リブで加わります。(当盤では合唱は省略)
そして第4オケはピッコロ2とゴングという編成。

アラジン組曲は2007年3月に札幌交響楽団が定期で取り上げたことがあり、私も興味津々で札幌まで聴きに行きました。
このとき指揮したクリスチャン・ヤルヴィは、第5曲では第1オーケストラのテンポを基本に振り、他のオケが入る時には夫々のテンポで指示を出し、あとは各グループが自主的にテンポを守っていくというスタイルでした。副指揮者でも使うのかと思いましたが、そういうことはありませんでしたね。このときも合唱は省略して演奏していましたっけ。

なお、第2曲と第7曲に繰り返しがありますが、ミョンフンは全てスコア通り実行しています。
また第2曲の朝霧の踊りにはチェレスタが登場し、これは打楽器奏者が演奏することになっています。

②は最近になってヘフリッヒからもポケット・スコアが出版されました。ハンセンの大型スコアより遙かに廉価ですから、まだ持っていない人はこちらを探すのがよいでしょう。私は見ていませんが、恐らく解説も充実している筈です。ハンセン版には第5曲の演奏上の注意しか書いてありませんからね。

参照楽譜
①ウィルヘルム・ハンセン Nr.959 b
②ウィルヘルム・ハンセン(指揮者用大型スコア)

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