今日の1枚(106)

漸く気候も落ち着き、レコードでも聴いてみようかという気持ちになって来ました。これまで続けてきたシリーズも一区切りしたことですし、音盤カテゴリーを復活させましょう。

1枚の音盤を細部に拘り、出来る限り楽譜を参照しながら聴いて行きます。何を選ぶか、どんなペースで進むかは気分次第、全て気の向くまま。

復活第1回はこれにしました。別に理由はありません。手の届くところに置いてあったCDだから。

珍しくヴォルフガング・サヴァリッシュがバイエルン国立管弦楽団 Bayerisches Staatsorchester と録音したロシア音楽アルバム。EMIクラシックスの CDD 7 63893 2 という品番で、オランダ製とクレジットされています。
録音は1987年ながら、発売は1991年。再発盤なのか否かは不明です。

①カバレフスキー/組曲「道化師」
②リムスキー=コルサコフ/スペイン狂詩曲
③グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
④ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」
⑤ムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」
⑥プロコフィエフ/「3つのオレンジへの恋」~行進曲とスケルツォ

②でのヴァイオリン・ソロはルイス・マイケル Luis Michael 、同オケのコンサートマスターでしょうか。

1987年11月、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのディジタル録音で、プロデューサーは Wilhelm Meister と、日本人の Kiyoshi Satomi 。バランス・エンジニアは Hand Schmid 。

バイエルン放送協会との共同製作と銘打ってあるので、放送局の技術者による録音かも知れません。

いかにも放送録音チームの仕事らしく、オーケストラは通常のコンサート・バランスに近いもの。弦楽器の配置は通常のアメリカ配置で、打楽器も中央から聴こえてきます。
金管楽器はトランペットを中央に、左にホルン、右にトロンボーンで、極端に左右に分かれたりしません。いかにもホールの後方で聴くバランスに仕上がっています。

サヴァリッシュの指揮も優等生的で、真面目そのもの。サプライズはほとんどありません。

いくつか例を挙げると、①カバレフスキー作品は10曲の小品から成りますが、スコアでは第3曲(マーチ)と第4曲(ワルツ)の間にだけ「アタッカ」の指示があります。
ディスクでは、サヴァリッシュがここを楽譜通りアタッカで続けているのが明瞭に聴いて取れますね。

また⑤ムソルグスキーが始まって直ぐの大太鼓に注目。第12小節から p で開始し、第20小節で mf に変わるところをスコア通りに演奏しています。これが繰り返される第55小節も同じ。

その他、
①の有名な第2曲(ギャロップ)。2度登場する大太鼓、カーマス版に印刷されている二度目の位置は練習番号21の1小節前に書かれていますが、サヴァリッシュは一度目と整合させて21(1小節後ろにずらし)に訂正して演奏しています。ここは明らかに楽譜の印刷ミスでしょう。

③グリンカの序曲。冒頭主題が再現する前、第213小節にスコアに無いティンパニのリズム動機「レ・レソレ」を追加しています。前後の繋がりから判断して追加が妥当という判断でしょう。
如何にも理論派サヴァリッシュならではの措置と言えるかも。

⑤は、もちろんリムスキー=コルサコフがオーケストレーションした版による演奏。

⑥のスケルツォは、オペラ全曲や6曲で構成される組曲とは別の版で演奏されています。即ち、プロコフィエフが演奏会用の「マーチとスケルツォ」のために特別に編んだスケルツォ。練習番号11から17はこのピースだけのために引き伸ばしたアレンジ。
意外に知られていないようなので、敢えて指摘しておきます。

ブックレットの解説は Ivan March 。英独仏の3カ国語。曲目解説の順番がCD収録順と異なっているのが不思議です。
解説の中でカバレフスキー以外は19世紀の作品と書かれていますが、これは明らかに誤りで、プロコフィエフも20世紀の作品。アイヴァン・マーチとしたことがどうしたんでしょうか。それとも他からの転用によるミスか。

参照楽譜
①カーマス No.377
②オイレンブルク No.842
③オイレンブルク No.639
④オイレンブルク No.833
⑤オイレンブルク No.841
⑥ブージー・アンド・ホークス No.24
 

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