今日の1枚(118)

歴代の首席指揮者によるライヴ録音を集めたバイエルン放送交響楽団 Symphonienorchester des Bayerrischen Rundfunks の創立60周年記念セット。その3枚目は、ロシアの名指揮者キリル・コンドラシン Kyrill Kondraschin が指揮したアルバムです。

①リムスキー=コルサコフ/序曲「ロシアの復活祭」
②フランク/交響曲ニ短調

第2代首席指揮者クーべリックが退任したあと後任を探していたバイエルン放響に、当時西側に亡命した直後のコンドラシンが客演します。1980年2月のこと。
この時の客演は聴衆、批評家ばかりでなく楽団自身をも熱狂させ、次の首席指揮者に就任すべく交渉もまとまりました。しかし残念ながら、コンドラシンは心臓麻痺のため1981年3月には不帰の客となってしまいました。
この辺りの事情はブックレットの解説(Annika Tauschel)にも詳しく触れられています。

つまり、コンドラシンは幻の首席指揮者だったわけ。

当盤は、BR Klassik レーベル、品番は 900704 で、これまで同様ミュンヘンのヘラクレスザール Herkulessaal, Munchen でのライヴ。両曲とも記念すべき1980年2月7・8日に行われたコンサートのアナログ方式によるステレオ録音です。
プロデューサーは Wilhelm Meister 、エンジニアは Gerhard von Knobelsdorff とクレジットされています。

クーべリックとは録音スタッフが入れ替わっていますが、録音コンセプトはクーべリック時代と全く同じ。オーケストラの配置もクーべリック時代を踏襲してか、対抗配置が取られています。

会場ノイズも無く、演奏終了後の拍手が入っていないのもこれまでと同じ。ミュンヘンのお客さんはよほど大人しいのでしょうか。

①は冒頭の木管の柔らかい音色、続いて4小節目から登場するヴァイオリンの丁寧で細やかな表情が他に類をみないほど美しい演奏で、コンドラシンの作品への愛着が強く感じられます。

②の第3楽章。第299小節の最後の金管(特にトランペット)に加筆して前楽章の主題と整合させる変更を行う演奏が多く聴かれますが、コンドラシンは全くスコア通りに演奏しています。

昔、日本フィルのマエストロ・サロンでジャン・フルネ氏が、“ドビュッシーやラヴェルは演奏上のニュアンスをスコアに全て書き込んでいるので手を加える必要はないが、フランクは楽譜にほとんど指示を書いていないので、スコアに細かく手を入れて演奏しなければならない” と語っていました。

コンドラシンのフランクを聴くと、例えば第1楽章を例にとれば、序奏の第9小節では音量を pp に落としたり、第446小節で楽譜にない大きなクレッシェンドを加えたりの工夫が聴き取れます。
最後のレントに突入する前にも、スコアに無いリタルダンドをかけて演奏しているのもその一つ。
注意して聴くと、コンドラシンは、フルネが指摘したようにフランクがスコアに書き込まなかった細かい演奏上のニュアンスを加えて演奏していることが良く判ります。

参照楽譜
①オイレンブルク No.692
②ペータース Nr.629

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