終わってみればフランケル圧勝!

ロイヤル・ウエディングから一夜明けたニューマーケット競馬場に、前日に劣らぬ大歓声が響き渡りました。そう、大本命フランケル Frankel が2000ギニーで独壇場を演じたのです。

今年のクラシック戦線の火蓋を切るニューマーケット、先ず2000ギニー 2000 Guineas S (GⅠ、3歳、1マイル)から行きましょう。good to firm の馬場に終結したのは13頭。去年からフランケルの評価が高く、トライアルも圧勝していたことから敢えて対決を避けた馬も多かったのでしょう。
そのフランケルのオッズは1対2。日本流に言えば単勝1.5倍ということですが、クラシックでこれだけ人気が被るのは1970年のニジンスキー Nijinsky 以来のことです。

1番枠を引いたフランケル、スタートするや直ちに先頭に立ち、そのまま快調に飛ばします。大外13番枠から出た同じオーナー(カーリッド・アブダッラー殿下)のペースメーカー、リルーテッド Rerouted が役目を務めようとしますが、スピードに付いていけない感じ。
騎乗したトム・クィーリーによれば、“スタートが良ければそのまま行く。馬を気持ちよく走らせればスタミナには心配していない” との作戦。クォーター・マイル地点では他馬を10馬身以上(興奮したレース実況は15馬身と絶叫していました)引き離す独壇場。

最後は後方から追い上げてきた馬もいましたが、影も踏ませず2着デュバウィ・ゴールド Dubawi Gold に6馬身差を付ける圧勝でした。更に半馬身差3着がネイティヴ・カーン Native Khan 。3着と4着スリム・シェイディー Slim Shadey との差は何と11馬身ですから、フランケルの強さが判るでしょう。
2着との着差6馬身は、1947年のチューダー・ミンストレル Tudor Minstrel 以来のこと。
並んで2番人気(8対1)に支持されていたパスフォーク Pathfork とロデリック・オコンナー Roderic O’Connor は夫々7・11着と完敗。デットーリーが密かに期待していたカサメント Casamento も10着に沈んでいます。

フランケルを管理するヘンリー・セシル師にとって、これはクラシック・レース25勝目。2000ギニーは1975年のボルコンスキ Bolkinski 、翌年のウォロウ Wollow 以来実に35年ぶりの戴冠となります。
師の25勝の内訳は、2000ギニー3勝、1000ギニー6勝、ダービー4勝、オークス8勝、セントレジャー4勝。イギリス国民の誰からも愛されるマエストロ・セシルの復活に、ファンは大歓声で応えました。

これがクラシック初制覇となるクィーリー騎手。去年の1000ギニー(ジャクリーン・クエスト Jacqueline Quest で1着入線も進路妨害で2着降着)で悔しい思いをしただけに、今回の喜びは一入だったでしょう。

さてこうなると、フランケルはダービーに勝てるかに、話題は移ります。そもそもスタミナ牝系に父はガリレオ Galileo 、血統だけで判断すれば1マイル半は全く問題になりません。
しかしセシル師も懸念しているように、問題は血統ではなくフランケルの気性。この日もスピードに任せて逃げ切りましたが、ダービーでこれが通用するか。
セシル師は慎重で、次はダンテ・ステークスを使い、その結果でダービーに向かうか否かをオーナーと相談して決める由。マイル戦線に留まって、ロイヤル・アスコットのセント・ジェームス・パレス・ステークスを目指す芽も残されています。現時点でダービーは白紙、というのが陣営の正直な気持ちでしょう。

期待されたスーパー・スターが、期待を上回るパフォーマンスを見せ付けたクラシック。“あめいじんぐ”“ぶりりあんと”“あんびりーばぼー”“まぐにふぃしぇんと”等々、あらゆる褒め言葉が飛び交うニューマーケットでした。

さてクラシック初日、他にも2鞍のパターン・レースが行われています。

2000ギニーの一つ前に行われたジョッキー・クラブ・ステークス Jockey Club S (GⅡ、4歳上、1マイル4ハロン)は6頭立て。
ここも7対4の1番人気に支持されたダンディーノ Dandino が期待に応えています。しかしレースは大接戦で、ゴール前1ハロンでは5頭がほぼ横一線。そこから抜け出したダンディーノとネイティヴ・ルーラー Native Ruler が最後はハナ面を揃えてゴール。写真判定の結果、ダンディーノがハナ差でネイティヴ・ルーラーを交わしていました。
4馬身差3着にインディアン・デイズ Indian Days の順。

ダンディーノと言えば去年のジャパン・カップに参戦(11着)したことで日本にも馴染の馬。意外にもこれがパターン・レース初勝利となる4歳馬です。同馬を手掛けるジェームス・ギヴン師は、3着のインディアン・デイズも管理する調教師。鞍上はジャパン・カップと同じポール・マルレナンでした。
このあとダンディーノはコロネーション・カップに向かい、秋は去年同様海外のGⅠ戦線に挑戦する意向の様です。

むしろ注目すべきは2着のネイティヴ・ルーラーでしょう。これが2009年8月以来631日振りの実戦で、ここまで仕上げたヘンリー・セシル師の手腕は大いに讃えられます。騎乗したクィーリー共々、次に行われるクラシックで美酒に酔う運命が待っていたのですね。

クラシックの次に行われたパレス・ハウス・ステークス Palace House S (GⅢ、3歳上、5ハロン)。シーズン初めの短距離戦とあって15頭が揃いました。3歳馬も1頭出走しています。

11対4の1番人気に支持されたアストロフィジカル・ジェット Astrophysical Jet は見せ場無く13着惨敗。優勝は18対1の人気薄タンジェリン・トゥリーズ Tangerine Trees でした。鮮やかな逃げ切り勝ち。
半馬身差2着に最後方から追い込んだレイン・ディレイド Rain Delayed が食い込み、短頭差3着はソール・パワー Sole Power とジョニー・マッドボール Jonny Mudball が同着という大激戦。

勝ったタンジェリン・トゥリーズはブライアン・スマート厩舎、トム・イーヴス騎乗。去年急成長し、これが今シーズン初出走でしたが、更に成長してG戦の初勝利を飾りました。あまり使い詰めできないタイプだそうで、差し当たってはロイヤル・アスコットのスプリント戦を賑わす一頭になるでしょう。

さて昨日はフランスでもGⅠ戦が行われています。時間的にはこちらが今シーズンのヨーロッパ最初のGⅠとなります。
ロンシャン競馬場のガネー賞 Prix Ganay (GⅠ、4歳上、2100メートル)は7頭立て。この距離のスペシャリストで、前走ダルクール賞を快勝したプランテール Planteur がイーヴンの圧倒的人気。ケープ・ブランコ Cape Blanco の逃げを最後の1ハロンで捉え、出走馬中唯一の牝馬サラフィナ Sarafina (去年の仏オークス馬)を1馬身抑えて期待に応えました。
更に1馬身で、去年のジャパン・カップ9着だったシリュス・デ・ゼーグル Cirrus des Aigles の順。

プランテールはエリー・ルルーシュ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗。2000メートルを最も得意とする馬ということで、ロイヤル・アスコットのプリンス・オブ・ウェールズ・ステークスが絶好の目標になるでしょう。

この日のロンシャンもニューマーケット同様、パターン・レースは3鞍。
先に行われたバルべヴィユ賞 Prix de Barbeville (GⅢ、4歳上、3100メートル)はステイヤーの今年最初の運試し。最近の仏ステイヤー路線は手薄で、主役のジェントゥー Gentoo が国際親善で日本に出張中のため、主役不在の感があります。

9頭立て。それでもイーヴンの圧倒的支持を得たメルボルン・カップの覇者アメリケン Americain は、6着と思わぬ凡走。
優勝は113対10の伏兵デュナデン Dunaden でした。1馬身差2着はマシューア Mashoor 、更にハナ差で大ヴェテラン、9歳のカスバー・ブリス Kasbah Bliss の順。

勝ったデュナデンは最後方から一気に追い込みましたが、最後の50ヤードでやや内に刺さり、カスバー・ブリスにはやや不利がありました。長い審議となりましたが、最終的には着順通りで決着。
デュナデンを管理するのは、1年前のこの日にマクフィー Makfi でニューマーケットのファンを驚かせたマイケル・デルザングル師。鞍上はグレゴリー・ブノアでした。

同馬は、一か月前まではリチャード・ギブソン厩舎に所属していましたが、ギブソンがフランスを離れて香港で開業するためにデルザングル厩舎に移ったばかり。去年まではハンデキャップ・クラスで走っていた馬で、リヨンのリステッド戦に勝った程度の器でした。
今回はパターン・レース初挑戦での初勝利、デルザングル師にとってみれば、思わぬ拾いものをしたという感覚でしょうか。

最後はヴァントー賞 Prix Vanteaux (GⅢ、3歳牝、1850メートル)。チョッと中途半端な距離ですが、サンタラリ賞へのステップとなる一戦。8頭が出走してきました。
14対5の1番人気に支持されたのはカメリア・ローズ Camelia Rose 。馬自体より、このレースここ5年で3勝しているジャン=クロード・ルジェ厩舎人気だったかも知れません。

本命カメリア・ローズは逃げ切りを図りましたが4着に終わり、優勝は3対1のエピック・ラヴ Epic Love でした。頭差2着が終始2番手のラ・パーネル La Pernelle 、4分の3馬身差3着も終始3番手のスターフォーマー Starformer 。勝った馬は4番手からの差し切り勝ちです。
エピック・ラヴは2歳時には1戦して2着。今シーズンのデビュー戦(サン=クルー競馬場)で新馬勝ちしたばかり。G戦初優勝ですが、未だ将来性は判りません。パスカル・ベイリー厩舎、ステファン・パスキエ騎乗。

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