プリークネス・ステークス詳報に加えて

速報でプリークネス・ステークスの結果をアップしましたが、昨日は他にも盛り沢山にGレースが行われました。
先ずは三冠の舞台ピムリコの5レースを取り上げ、続いて他の3場の結果を、最後にプリークネス・ステークスをやや詳しく紹介していくことにしましょう。

さて、クラシック・デイを盛り上げるピムリコのG戦祭り、先ずは第4レースのアレール・デュポン・ディスタッフ・ステークス Allaire duPont Distaff S (GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。2006年に現在の名前に改名されたレースで、アレール・デュポンは名馬ケルソ Kelso を所有していたメリーランド州のオーナーの名。1992年創設、徐々に格を挙げ、2007年からGⅡに昇格していましたが、今年はGⅢに格下げされたようです。
今年の勝馬はスーパー・エスプレッソ Super Espresso 。6頭立て。1番人気はトッド・プレッチャー厩舎のライフ・アット・テン Life At Ten でしたが、勝ったのは皮肉にも同じプレッチャー厩舎のスーパー・エスプレッソ。主戦騎手のジョン・ヴェラスケスが本命馬を選択したため、勝馬にはラモン・ドミンゲスが騎乗していました。
スーパー・エスプレッソはG戦初勝利。前走は芝コースでしたが、ダートの方が適しているようです。今年のコースは追い込み馬に有利なようで、スーパー・エスプレッソは後方から外を回っての差し切り勝ち。2着ペイトン・ドーロ Payton d’Oro に4分の3馬身差を付けていました。本命ライフ・アット・テンは3着。1・2着共にメダリア・ドーロ Medaglia d’Oro の産駒というところが面白いですね。

今日二つ目のG戦は、第8レースに組まれているメリーランド・スプリント・ハンデキャップ Maryland Sprint H (GⅢ、3歳上、6ハロン)。1987年創設の新しいレースで、第1回はローレル競馬場で行われましたが、2回目以降はプリークネス・ステークスを彩る一戦に変わりました。名前が度々変更されて紛らわしいレースですが、GⅢに格付けされたのは1994年から。
今年の勝馬はヴェンターナ Ventana 。9頭立て。最後は2頭のマッチレースのような形になりましたが、2着インモータル・アイズ Immortal Eyes を首差交わして優勝、去年4月以来の久々の勝利をあげました。2着の騎手からの異議申し立てがありましたが、審議の結果着順通りで確定。
調教師はボブ・バファート、騎手はマーチン・ガルシア。

第3弾は第9レースのギャロレット・ハンデキャップ Gallorette H (芝GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。1952年創設と比較的歴史あるレースで、グレード・システムが導入された1973年からGに格付けされてきました。メリーランド州のレースには同州出身の名馬の名を冠したものが多くありますが、これもその一つ。ギャロレットは、終戦直後に走って古馬牝馬チャンピオンに輝いた馬。昨日行われたブラック=アイド・スーザン・ステークスの勝馬でもあります。
今年の勝馬はノー・エクスプレイニング No Explaining 。8頭立て。3番手から伸びて快勝。1馬身差2着は追い込んだデザート・セイジ Desert Sage と粘ったダイナ・ワルツ Dyna Waltz が同着でした。ブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフの覇者シェアド・アカウント Shared Account は1番人気も久々で4着。勝ったノー・エクスプレイニングはアイルランド産、2着両馬は共にイギリス産で、アメリカの芝レースの特徴がよく出ていました。勝馬はG戦初勝利。
調教師はロジャー・アトフィールド、騎手はジョン・ヴェラスケス。

第10レースのウイリアム・ドナルド・シェーファー・ステークス William Donald Schaefer S (GⅢ、3歳上、8.5ハロン)。これもスプリント・ハンデ同様1987年創設。これも以前のネヴァー・ベンド・ハンデキャップという名前から変更された由。
今年の勝馬はアパート Apart 。6頭立て。最後はコリゼオ Colizeo との叩き合いを首差制して1番人気に応えました。レース中はポップ・スターのブルーノ・マース(?)が熱唱中だったそうな。ポップスはまるで判りません、ハイ。アパートは去年のスーパー・ダービーの勝馬、今年の初勝利となりました。これで12戦5勝。
調教師はアルバート・ストール・ジュニア、騎手はギャレット・ゴメス。

メイン・イヴェントの一つ前、ディクシー・ステークス Dixie S (芝GⅡ、3歳上、9ハロン)。1870年創設というアメリカ競馬史でも最も長い歴史を持つ伝統の一戦。もちろんメリーランド州では最古の歴史があります。現在はGⅡですが、格付け以上に格式のあるレースで、このレースの第1回に勝ったプリークネス Preakness がそのまま当競馬上のクラシック・レースの名前に使用されているほど。過去の勝馬にはビッグネームが目白押しです。
今年の勝馬はパディー・オプラード Paddy O’Prado 。7頭立て。1番人気を背負い、最後方からのレース。直線入り口でも後ろから二つ目でしたが、大外から鋭く伸びて逃げるバリシュニコフ Baryshnikov を1馬身半捉えての貫録勝ちでした。後出しジャンケンみたいな話ですが、勝利調教師のデール・ロマンスはメインのプリークネスを制することになり、この日のビッグ・ダブルを達成することになります。勝たれてみれば去年のブリーダーズ・カップ・クラシックに挑戦(5着)したほどの馬。今日はそれ以来のレースで、既に3歳時にGⅠ(セクレタリアト・ステークス)勝馬となった実力は本物でしょう。去年のプリークネスは6着、その後は芝に戻ってターフでは9戦5勝2着2回3着2回とほぼパーフェクト。今シーズンの活躍も約束された感があります。
調教師は、騎手はケント・デザーモ。

次がメインですが、その前に他の競馬場を回りましょう。

先ずはアーリントン・パーク競馬場。このコースは確か当日記初登場ですね。イリノイ州の競馬場で、1927年開設。シカゴに近いこともあって最新設備や斬新なシステムを逸早く導入することでも知られるコース。オッズ電子掲示板、レースの実況中継、カメラによる写真判定、ゲート式の発馬機など全てアーリントン発祥とされています。
1981年に第1回が行われたアーリントン・ミリオンは、世界初100万ドルの国際レースとして多くの海外馬が参戦してきました。一度は1985年の火災でスタンドを失いましたが、現在は復興してイリノイ州の重要な観光施設の一翼を担っています。

そのアーリントン・パーク競馬場で行われるハンシン・カップ Hanshin Cup (GⅢ、3歳上、8ハロン)は正に「阪神カップ」のことで、我が阪神競馬場のアーリントン・カップとは姉妹レース。しかし最初からそうだった訳ではなく、創設されたのは1941年のエキポワーズ・マイルとして。現在の名前は2000年からです。旧名エキポワーズ Equipoise (アメリカ流にエクイポイズと呼ぶ場合もあるようです)は、「チョコレート・ソルジャー」と愛称された1957年競馬殿堂入りの名馬。
今年の勝馬はワーキン・フォー・ホップス Workin for Hops 。9頭立て。見事1番人気に応え、2着パシフィック・オーシャン Pacific Ocean (無敗馬で2番人気)に3馬身差を付ける圧勝です。去年の夏はここアーリントンで芝コースのアメリカン・ダービーに勝った馬で、ダートでも行けることを証明しました。いや、アーリントン競馬場が好きなのかもしれませんね。
調教師はマイケル・スティッドハム、騎手はジェームス・グレアム。

次はベルモント・パーク競馬場のシュヴィー・ハンデキャップ Shuvee H (GⅡ、3歳上牝、8ハロン)。これも名牝シュヴィーの名を冠したレースで、有名な一戦ながら1976年創設と比較的歴史の浅いGⅡ戦。ブリーダーズ・カップ・ディスタッフに続いていく古馬牝馬戦線の火蓋を切る重要なステップレースでもあります。
今年の勝馬はオウサム・マリア Awesome Maria 。5頭立て。2番手に付けた1番人気のオウサム・マリアが、逃げるアブサン・マインデッド Absinthe Minded をゴール前で頭差捉えての優勝。所謂「行った行った」の決着でした。アメリカの競馬場としては直線の長いベルモントならでは。勝ったオウサム・マリアは当日記でも既にお馴染み、今年はG戦3勝目に当たります。
調教師はトッド・プレッチャー、騎手はハヴィエル・カステラノ。

ここで一気に西海岸に飛んで、ハリウッド・パーク競馬場のミレディー・ハンデキャップ Milady H (GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)。ミレディー(「貴婦人」の意味)を冠しているだけに、同じ日にベルモントで行われる前記シュヴィー・ハンデ同様古馬牝馬戦線のローテーションに選ばれる重要な一戦。創設は1952年です。
今年の勝馬はウルトラ・ブレンド Ultra Blend 。7頭立て。これは審議により着順が入れ替わりました。1着で入線したのは1番人気のセント・トリニアンズ St Trinians でしたが、1馬身4分の1差2着で入線したウルトラ・ブレンドの進路を妨害した廉で降着になっています。ハリウッド競馬場のG戦での降着は、2001年のハリウッド・ゴールド・カップ(GⅠ、1着で入線したフューチュラル Futural が3着に降着、アプティテュード Aptitude が繰上り優勝)以来の由。勝を拾ったウルトラ・ブレンドはG戦初勝利。先頭でゴールしたセント・トリニアンズは4着に降着されました。5頭の外を回ったセント・トリニアンズは、ジョー・タラモ騎手のドライヴにバランスを崩し、勝馬だけでなく2・3着馬にも影響を与えたとのことで長い審議。結局勝馬の他にアメリカン・ストーリー American Story とシーズ・チーキー She’s Cheeky が繰り上がりました。
繰り上がって勝馬となったウルトラ・ブレンドの調教師はアート・シャーマン、騎手はデヴィッド・ロメロ・フローレス。フローレスによれば、タラモ騎手が並んで競り掛けた時に内の2頭に気付かなかったのだろうとのこと。勝負になった時には止むを得ないこともあるでしょうね。これも競馬。

もう一つハリウッドから、レイルバード・ステークス Railbird S (GⅢ、3歳牝、7ハロン)。1963年創設のときは牡牝混合戦でしたが、翌年から牝馬限定のレースに変更され、ハリウッド開催の締めに行われるハリウッド・オークスの前哨戦と位置付けられています。レース名の「Railbird」は馬名のことかと思っていましたが、然に非ず。早朝に行われる調教を見るために競馬場のラチに並ぶファンのニックネームなのだそうです。日本のトラックマンたち、「競馬スズメ」のことですかね。
今年の勝馬はメイ・デイ・ローズ May Day Rose 。6頭立て。3番手追走から鮮やかに抜け出し、2着ビッグ・ティズ Big Tiz に3馬身4分の1差を付ける圧勝。前のレースで降着となったタラモ騎乗の1番人気ペダルオンザメダル Pedalonthemedal は運が無く3着敗退です。勝馬は出走馬中唯一のG優勝馬。やはり実績が物を言ったようです。
調教師はボブ・バファート、騎乗したジョエル・ロザリオは同馬に初騎乗、この日4勝の荒稼ぎでした。

そしてお待たせ、愈々プリークネス・ステークス Preakness S (GⅠ、3歳、9.5ハロン)。言わずと知れたアメリカ競馬三冠レースの第二弾で、今年が第136回となります。ケンタッキー・ダービーより1回少ないのは創設が1年遅いからではなく、3年間開催が休止になったため。実際にはケンタッキー・ダービーより2年早い1873年開設です。
ディクシー・ステークスの項で紹介したように、レース名は第1回ディクシー・ステークス(当時は別の名前でしたが)に勝った馬の名前から。また前日のブラック=アイド・スーザン・ステークスの項で書いたように、勝馬にはブラック=アイド・スーザンのレイが掛けられます。距離がケンタッキー・ダービーより100メートル短い1900メートルというやや中途半端な距離で行われること、ダービーから2週間後の短期間で行われることなど、競走馬にとっても関係者にとってもダービーとのダブル達成が難しいことでも知られていますね。

さて今年は14頭立て。当然のように、ダービーを制したアニマル・キングダム Animal Kingdom が3対1で1番人気、9対2の2番人気にはフロリダ・ダービーに勝ち、ダービーは1番人気ながら8着に終わったダイアルド・イン Dialed In が選ばれていました。続いて3番人気がムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man 。

レースは予想通りケンタッキー・ダービーより速いペース。ところが中盤ではペースがスローに落ちます。この辺が勝敗の分かれ目になったのかも知れません。

ダービーで飛ばして4着に粘ったシャックルフォード Shackleford は、今回は逃げるフラッシュポイント Flashpoint の2番手に待機。早目に先頭を奪うと、馬群の中から抜け出してきたアニマル・キングダム Animal Kingdom の急追を半馬身抑えて逃げ切りました。13対1の逆転劇です。小回りコースと距離の短いプリークネスならではの結果だったと言えるでしょう。アニマル・キングダムは負けてなお強し。
シャックルフォードを管理するデール・ロマンス調教師は、トレーナーの免許を取ったのが18歳の時。この勝利がこれまでで最もエキサイティングと語っていましたが、それはそうでしょうね。
騎乗したヘスス・ロペス・キャスタノンにとって三冠レースは初制覇。ダービーの失敗を肝に銘じ、相手をアニマル・キングダム1頭に絞っていたようです。先頭でゴールを駆け抜けたキャスタノンが真っ先に思い浮かべたのは、去年の11月に亡くした父親のこと。“きっと親父が見ていてくれたのに違いない” と感情の高ぶりを隠せません。その後は声を詰まらせてしまいました。

馬名のシャックルフォードとは、ノース・カロライナ海岸の最南端に位置する島の名前だそうで、大昔には野生馬の生息地だった由。コマーシャル・ブリーダーで共同馬主のマイク・ロウファーとウイリアム・カベッジは、ここを度々訪れ、お気に入りの観光スポットにしているそうな。
オーナーにとってこれがクラシック初勝利ですが、一時は共同で所有していたレーチェル・アレキサンドラ Rachel Alexandra が2009年のプリークネスに勝っています。しかしその時は馬を手放していて後の祭り。コマーシャル・ブリーダーには有り勝ちなことかも知れません。

2着のアニマル・キングダムは、予定していた以上に後方に付けねばならず、ダービーよりも多くのダートを浴びた由。それでも直線で半馬身まで詰め寄った脚は流石でした。モーション調教師はレース後に馬に問題が無ければベルモント・ステークスに挑戦する意向であることを発表しています。ダービー/プリークネスとタフなレースが続きましたが、距離が延びるベルモントは同馬にとっては好材料でしょう。
2番人気のダイアルド・インは4着。初めのペースが速かったこと、中ほどでペースがスローに落ちたことも馬には向かなかったそうな。それでも4着は好走の部類でしょう。
以下5着はダンス・シティー Dance City 、ムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man 6着。

三冠最後の戦いは、中2週を開けてベルモント競馬場のその名もずばりベルモント・ステークス。今年は三冠馬誕生が無くなりましたが、ダービー馬、プリークネスの勝馬の参戦は如何に。アメリカのクラシック・シーズンはあっという間に過ぎ去ります。

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