不在中の欧州競馬(3)

今回は、8月14日(日)と15日(月)にフランスのドーヴィル競馬場で行われた2鞍づつのパターン・レースをレポートして行きましょう。レースの行われた順に取り上げます。

14日の2鞍はいずれも heavy の馬場状態、ドーヴィル地方は雨が続いて残念なヴァカンスになったようですね。
先ずはポモヌ賞 Prix de Pomone (GⅡ、3歳上牝、2500メートル)から。ドーヴィルの夏競馬ではGⅡが意外に少なく、確かこれを含めて4鞍しかなかったと思います。
重馬場、というより不良馬場を嫌って1頭が取り消し、10頭立てで行われました。

6対4の1番人気にはアガ・カーンのシャマノヴァ Shamanova が支持されていましたが、最初の1マイルはまるで調教のような超スローペース。フランスではあり勝ちなことですが、レースは直線だけのスプリントと化し、先行馬の直後に付けた10対1のセーラ・リンクス Sarah Lynx の作戦勝ち。
2着には1馬身半差で未だキャリア5戦目の3歳馬ミス・クリッシー Miss Crissy が入り、本命シャマノヴァは後方から追い込んだものの4分の3馬身及ばず3着。やはり位置取りが後ろ過ぎた(クリストフ・ルメール)のが敗因でしょう。

セーラ・リンクスはジョン・ハモンド厩舎、クリストフ・スミオン騎乗。このレースに勝った馬はヴェルメイユ賞に向かうのが自然な流れですが、ハモンド師は、今年のヴェルメイユは強豪が揃いそうなのでニューヨーク遠征(フラワー・ボウル・ステークス)も考慮中とのことでした。

日曜日の二つ目はゴントー=ビロン賞 prix Gontaut-Biron (GⅢ、4歳上、2000メートル)。7頭立てです。

英国からは3頭がドーヴァー海峡を渡りましたが、イーヴンの断然1番人気に支持されたシリュス・デ・ゼーグル Cirrus Des Aigles が格の違いを見せ付け、2着ランスロット Lancelot に8馬身の大差を付けてブッチギリの優勝です。3着は短頭差でスキンズ・ゲーム Skins Game 、英国勢では逃げ粘ったポエト Poet の4着が最高でした。

勝馬を管理するコリーヌ・バランド・バルブ夫人によれば、この日はパドックに入った時から気合十分で、既にこの時点で勝を確信したそうです。鞍上はいつものフランク・ブロンデル。
これでパターン・レースは6勝目となるシリュス・デ・ゼーグル、ヨークのインターナショナルにも登録がありましたが、これによって英国遠征は無くなりました。これまで6勝のG戦、ドーヴィル競馬場では初Gとなりましたが、開催最後のドーヴィル大賞典も狙って出走してくる公算が強くなったようです。

そして15日の2鞍。この日は月曜日でしたが、ゴールディコヴァが15勝目のGⅠ制覇を狙うジャック・ル・マロワ賞が注目を集めていました。
私も結果が気になり、翌朝一番に旅亭近くにあるグリーン・パーク駅の新聞スタンドでレーシング・ポストを購入(1ポンド80ペンスで、一般紙よりは少し高目)、グリーン・パークのベンチに陣取って舐めるように紙面に見入っていました。

その前にギョーム・ドルナーノ賞 Prix Guillaume d’Ornano (GⅡ、3歳、2000メートル)から。この日の馬場は少し回復しましたが、それでも good to soft 。重の苦手な馬には厳しい馬場でした。

8頭立てでしたが好メンバーが揃い、仏2冠牝馬で無敗のゴールデン・ライラック Golden Lilac が5対4の1番人気。無敗記録の更新に期待が掛かっていました。

レースはただ1頭イギリスから挑戦したゴスデン厩舎のコロンビアン Colombian が逃げ、残り3ハロンで一気にペースを上げます。マキシム・グィヨン騎乗の本命ゴールデン・ライラックもスパートしますが、やはり馬場に脚を取られてかいつもの伸びが見られません。
そんな中、最後方近くに付けていた2番人気(9対4)のガリコヴァ Galikova が目の覚めるような差し足で抜け出し、早目先頭に立ったスロー・ペース Slow Pace を2馬身差し切っての快勝です。ゴールデン・ライラックは更に1馬身半差離された3着まで。
ドイツ・ダービーの覇者ヴァルトパーク Waldpark にも期待が掛けられていましたが、ペースが上がったところで付いて行けず、結局は6着と失望に終わりました。

ガリコヴァはこれまでも紹介してきたように、この日の話題を一身に集めている女傑ゴールディコヴァの半妹。姉と同じフレディー・ヘッド師の管理馬で、ヘッド厩舎は2着スロー・ペース共々ワン・ツー・フィニッシュの快挙達成です。
更に騎乗したオリヴィエ・ペリエは、この日のドーヴィルで第1レースから最初のパターン・レースまでパーフェクトの4連勝。次のGⅠ戦に大きな弾みを付けました。

ヘッド師の解説では、ガリコヴァは姉に似て時間をかけて成長し、秋に本領を発揮するタイプの由。仏オークスではゴールデン・ライラックに後れを取っていましたが、秋が近付いたドーヴィルで見事に雪辱を果たした形です。
この後は当然ヴェルメイユ賞になりますが、期待は更にその先の凱旋門賞。姉と違って長距離タイプでもあり、凱旋門には10対1のオッズが出されました。

そして愈々注目のジャック・ル・マロワ賞 Prix Jacques le Marois (GⅠ、3歳上、1600メートル)。

マイル路線の強豪12頭が揃い、当然のようにゴールディコヴァ Goldikova が11対10の1番人気。しかし結果は既に報じられているように、15勝目のGⅠ勝利は成らず、2着敗退に終わりました。
女傑を破ったのは、これまた3才牝馬のインモータル・ヴァース Immortal Verse 。ロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークスを制した堂々たるGⅠ馬で、ロベール・コレ調教師、ジェラール・モッセ騎手共々密かな期待を込めていた1頭。ただ、ゴールディコヴァを並ぶ間も無く交わし(モッセによれば、たったの4歩で)、余裕のある1馬身差で切って捨てるとまでは考えていなかったようです。
ハナ差3着に大健闘したのは、日本にもお馴染みのサプレーザ Sahpresa 。これまた牝馬で、何と牝馬のワン・ツー・スリー・フィニッシュという結果になりました。

牡馬だって優秀な馬たち、プランテール Planteur (5着)、仏2000ギニーのティン・ホース Tin Horse (6着)、ハノン厩舎のディック・ターピン Dick Turpin (7着)、シティスケープ Cityscape (8着)、ミューチュアル・トラスト Mutual Trust (10着)と、いずれも凡馬ではありません。それだけに牝馬のレヴェルの高さが余計に目立つことになったマロワでしたね。
インモータル・ヴァースのコレ陣営は、マイルの頂上決戦(クイーン・エリザベスⅡ世ステークス)でのフランケルとの対戦を舌なめずりして待っている様子。

負けたゴールディコヴァ陣営、敢えて敗因は挙げませんでしたが、ヘッド師は“彼女も6歳だからね” と言い、この日5連勝を逃したペリエ騎手は“前走(ロッシルド賞)との間隔が15日だったのが響いたかも” とのこと。渋った馬場、外の11番枠も決して有利には作用しなかったでしょう。

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