不在中の欧州競馬(5)

今回はヨーク競馬場のイボア・フェスティヴァルから、2日目と3日目を纏めてレポートしましょう。

私は2日目(8月18日、木曜日)もロンドン滞在中でしたが、この日はバス・ツアーに参加、コッツウォルズ地方の観光に出掛けていました。家内がどうしても行きたい場所なんだそうで、お互いの興味を尊重して譲るべきは譲るのが夫婦円満の条件でしょう。

ということで、この日はライヴ放送は見れず。翌朝は5時起きでロンドンを離れましたから、結果はヒースロー空港でレーシング・ポストを買い、飛行機の中で読みました。レースの映像は帰国してからネット観戦、それに基づく報告です。

2日目のパターン・レースは2鞍、最初は2歳牝馬のラウザー・ステークス Lowther S (GⅡ、2歳牝、6ハロン)。馬場は初日と同じ good to soft 、所により good という良いコンディションです。
11頭立て、7対2の1番人気に支持されていたのは2戦無敗、前走プリンセス・マーガレット・ステークス(GⅢ、キングジョージ当日)に勝ったヒルズ厩舎のエンジェルズ・ウィル・フォール Angels Will Fall 。

しかしレースはスタート・ダッシュ良く飛び出した6番人気(11対1)のベスト・タームズ Best Terms の逃げ切り勝ち。残り2ハロンで2番人気(4対1)のファイア・リリー Fire Lily が並び掛けましたが、二の足を使って突き放し、ファイア・リリーに2馬身差。更に3馬身4分の1差で3着には伏兵のヘロー・グローリー Hello Glory が飛び込んでいます。
本命エンジェルス・ウィル・フォールは名前の通り?失速して7着、チェリー・ヒントン・ステークス(GⅡ)の覇者ガミラーティ Gamilati は何故か11着しんがり負けでした。

ベスト・タームズはリチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗。ロイヤル・アスコットでクィーン・メアリー・ステークス(GⅡ)に勝って3戦無敗だった馬。ロイヤル・アスコットで勝ったハノン厩舎の馬が11対1と人気が無かったのは意外なことで、馬券を勝った人は所謂「美味しい馬券」だったでしょうね。
同馬はロベール・パパンに挑戦、また今開催のナンソープ・ステークスで古馬に挑むという噂がありましたが、結局は敷居が高い(共にGⅠ)と判断してこちらに回ってきた経緯があります。そのことと、GⅡを制したペナルティー(3ポンド)を背負っていたことが人気を落としていた原因かもしれません。しかし終わって見れば強かった!

これにより来年の1000ギニーのオッズは12対1に上がりましたが、調教助手を務めるハノン・ジュニアは、あくまでも同馬はスプリンターと考えている由。この後はニューマーケットの同じ6ハロン、チーヴリー・パーク・ステークスに向かう意向。
また2着に入ったファイア・リリーを管理するデヴィッド・ワッチマン師もチーヴリー・パーク挑戦を明言、ベスト・タームズとの再戦で決着を付ける構えです。

この日のメインは、GⅠのヨークシャー・オークス Yorkshire Oaks (GⅠ、3歳上牝、1マイル4ハロン)。かつては3歳馬だけに出走資格がありましたが、現在は古馬にも開放されています。

今年は豪華メンバー9頭が登録していましたが、早々とスノー・フェアリー Snow Fairy が取り消して8頭立て。50対1以上の2頭を除く6頭全てに勝つ可能があったと言えるでしょう。
そんな中で11対14の1番人気に支持されたのは、二つのクラシックを制したブルー・バンティング Blue Bunting 。1000ギニーに勝った時は意外な感がありましたが、愛オークス優勝で紛れもないトップクラスの地位を確立していました。
続いては古馬の代表格クリスタル・カペラ Crystal Capella が3対1で2番人気、ランカシャー・オークスは不利があって惜敗した4歳馬ヴィータ・ノーヴァ Vita Nova は9対2の3番人気、以下アイルランドのタフな牝馬バニンパー Banimpire 、同じくクラシック世代のラーフィング・ラッシズ Laughing Lashes 、オークス2着のワンダー・オブ・ワンダース Wonder of Wonders もそれほど差の無い人気で続いていました。

レースはルーム Rumh の逃げで始まり、ランフランコ・デットーリ騎乗の本命ブルー・バンティングは後方グループで待機。残り2ハロン、スタンドから遠い外を通ったブルー・バンティングが次々と前の馬を交わし先頭。最後は馬体を寄せながら追い込むヴィータ・ノーヴァに4分の3馬身差を付けて3つ目のGⅠを獲得しました。一旦は先頭に立ちながら2頭に交わされたワンダー・オブ・ワンダースの3馬身4分の3差3着は好走と言えるでしょう。
以下、クリスタル・カペラは4着とやや期待を裏切り、5着にバニンパーの順。

二つ目のオークスを獲ったブルー・バンティングは、度々紹介しているようにゴドルフィンの馬。マームド・アル・ザローニ厩舎、デットーリ騎乗のお馴染みブルーの勝負服。
デットーリがレース後に明らかにしたところでは、同馬はフケ(発情)でレースに集中していなかった由。その意味でデットーリはかなり苦労したようですが、それでも他馬を捻じ伏せてしまうのが凄い所。元々先頭に立つと気を抜く癖のある馬で、2着馬に詰め寄られましたが結局は抜かせません。どこまで行っても4分の3馬身は縮まらなかったでしょう。

例によってフライング・ディスマウントで喜びを表現したデットーリ、セントレジャーへの意欲を表明。最終的にはマームド皇子が決めることですが、陣営は彼女を「真のステイヤー」と評し、最後のクラシック制覇の可能性を否定していません。各ブックメーカーも6対1のオッズでこれに応えています。
(デットーリのフライング・ディスマウント、キングジョージの落馬休養で感が鈍ったのか着地で少しズッコケてました。レーシング・ポストはその様子を連続写真で紹介、流石の英雄も歳を取ったかな、という印象。オッと、デットーリには失礼でしたかな)

続いて3日目に飛びましょう。何しろ書くことが山ほどあって、時間がいくらあっても足りません。

3日目(8月19日)が行われていたのは帰りのフライトの最中。結果は帰宅してから、いつものように電子競馬新聞でチェックしました。本来なら一昨日アップ出来た記事ですが、事の順序を考えて今日になった次第。

さて前日と同じ馬場状態で行われた3日目のパターン・レースは3鞍。これもレース順に行きましょう。先ずはジムクラック・ステークス Gimcrack S (GⅡ、2歳、6ハロン)。毎年このレースに勝ったオーナーは、その年の暮れに行われるジムクラック・パーティーでスピーチをする伝統がありますね。
今年そのスピーチに挑むのは9人、じゃなくて出走馬は9頭。10対3の1番人気には、アイルランドに遠征してレイルウェイ・ステークス(GⅡ)に勝ち、次の遠征ではフェニックス・ステークス(GⅠ)で4着したハノン厩舎のリルボーン・ラッド Lilbourne Lad 、GⅡ勝のペナルティー3ポンドを背負っても本命に支持されていました。

そのリルボーン・ラッド、最後は馬群を縫うように追い込んできましたが、勝馬には2馬身4分の1及ばず2着。優勝は4頭並んだ2番人気(5対1)の1頭、カスパー・ネッチャー Caspar Netscher でした。頭差3着は終始先行グループにいたバーワーズ Burwaaz 。

勝馬を管理するのは、ニューアークで開業5年目を迎えるアラン・マッケーブ。鞍上はロバート・ウィンストン騎手。
前半は最後方で待機、スタンドから一番遠い外から先頭に立ちましたが、右に大きく斜行してゴールインした時は一番スタンドに近いコース。幸い後続馬との間隔が広く開いていたため、問題にはなりませんでした。
ビヴァリー競馬場の新馬戦でデビュー勝ちしたあと5連敗していましたが、前走はリッチモンド・ステークス(GⅡ)で3着。7戦目で初のパターン・レース制覇となります。

次走はドンカスターのシャンペン・ステークスが有力。距離は7ハロンに伸びますが、陣営は心配していない由。

ところで、ジムクラック・ディナーでスピーチをすることになったのはチャールズ・ウェントワース氏。カスパー・ネッチャーは奥様からの誕生日プレゼントだったそうで、正にドリーム・カム・トゥルー。スピーチのテーマもこの辺りでしょうかね。

続いてはストレンソール・ステークス Strensall S (GⅢ、3歳上、1マイル208ヤード)。やや中途半端な距離、「センハチ」の競馬ですね。

10頭立て。人気も割れて、11対4で2頭が1番人気を分け合っていました。ウイリアム・ハッガス厩舎、ムラな成績のグリーン・デスティニー Green Destiny と、サー・マイケル・スタウト厩舎のダックス・スカラー Dux Scholar 。

しかし結果は比較的順当で、スタートで出遅れて後方から進んだグリーン・デスティニーがキーレン・ファロンの好騎乗に応えて鮮やかな差し切り勝ち。逃げ粘ったタザハム Tazahum が1馬身4分の1差で2着、もう1頭の1番人気ダックス・スカラーが追い込んで2馬身4分の1差3着に入りました。

グリーン・デスティニーは、2走前に同じヨークのジョン・スミス・カップ(ハンデ戦)に勝ったものの、前走グッドウッドの同じようなハンデ戦では大敗していた馬。ここでパターン・レース馬となり、次は凱旋門賞当日のドラー賞に向かう予定だそうです。本来は10ハロンが適している、というのがハッガス師の見解でした。

3日目最後は短距離の頂上決戦、ナンソープ・ステークス Nunthorpe S (GⅠ、2歳上、5ハロン)。2歳馬にも出走資格があるところがミソ、日本ではあり得ない出走条件ですね。

今年は2頭取り消して15頭立て、2歳馬も1頭出走してきました。11対4の1番人気に支持されたフーフ・イット Hoof It は4歳の芦毛馬で、ハンデ戦ながらグッドウッドのスチュワーズ・カップを含めて2連勝中。ここ5戦でずっとコンビを組んでいるキーレン・ファロンが騎乗します。

その本命フーフ・イットはスタートでいきなりの出遅れ、日本では「安目を売る」などと表現しますが、タイミングが合わず一歩遅れます。短距離戦では致命的で、ファロンも後半懸命に追い上げましたが、結局は6着に終わりました。
レースは直ぐにスタンドに近いグループと遠いグループの二手に分かれます。枠順の関係で、内枠の馬がスタンドから遠いコースに、外枠は近いコースに向かうのは自然な流れ。
優勝は、そのスタンドに近い側を走った6頭の中から抜け出したマーゴ・ディド Margot Did でした。4分の3馬身差2着もこのグループを走ったヘイミッシュ・マゴーナガル Hamish McGonagall 。遠いコースを選んだ9頭で最先着したプロヒビット Prohibit が半馬身差の3着。2007年に2歳馬としてナンソープを制したキングスゲート・ネイティヴ Kingsgate Native が4着。
勝馬は20対1という伏兵、2・3着も夫々28対1、12対1という人気薄。以下人気があった馬では、2番人気(5対1)の2歳馬リクエント Requient は13着、同じく2番人気のベイテッド・ブレス Bated Breath 9着、3番人気(8対1)マサーマー Masamah 8着といったところ。

人気馬総崩れで場は白けたかと言うと、そうではありません。勝馬に騎乗したのは、先にニューマーケットのジュライ・カップでドリーム・アヘッド Dream Ahead を御して女性騎手として初めてGⅠ制覇を成し遂げたヘイリー・ターナーだったから。先月に続く二つ目のGⅠ奪取という快挙を観衆は盛大な拍手で迎えました。
前回はシムコック厩舎の馬に乗り替わっての騎乗でしたが、今回は彼女の育ての親ともいうべきマイケル・ベル調教師の管理馬での勝利。実際、マーゴ・ディドのこれまでの13戦は、全て彼女が手綱を取ってきました。
ターナー騎手を紹介するプロフィールは、これまで「英国の最も優れた女性騎手」と言うものでしたが、最早これは陳腐。これからは「英国を代表する騎手の一人」と評すべきでしょう。

勝ったマーゴ・ディドは、3歳牝馬。2歳時にパターン・レースで3回連続2着(ヨークのラウザー・ステークスも含め)という実績もありましたが、勝鞍はリステッド戦が最高。初パターン・レース制覇をいきなりGⅠ戦で成し遂げたことになります。
次走は未定ですが、2着のヘイミッシュ・マゴーナガル共々渡仏して、アベイ・ド・ロンシャン賞を目指すのが自然な流れではないでしょうか。

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