不在中の欧州競馬(4)

夏休みで更新をサボっていた競馬ブログ、やっとヨーク競馬場のイボア開催に辿り着きました。
8月17日の水曜日から4日間に亘って行われるイングランド北部の競馬の祭典、私は丁度イギリスに滞在中でしたが、今回は競馬とは無縁の旅、テレビと新聞が頼りのレポートです。

この日はロンドン滞在の6日目、三日連続プロムス鑑賞の後ということもあって、個人的にはオフにしました。そこで家内は買い物、私はテレビでヨークからの中継で一日を過ごすことに・・・。
ホテルに設置されている無料テレビは、チャンネル数が36もあります。スポーツ放送はサッカーが主で、次いでラグビー、クリケット、ゴルフなどが番組の主流。それでも流石にヨーク開催はチャンネル4で生中継されていました。レースのレポートに入る前に、テレビ中継で気が付いたことをいくつか。

チャンネル4はいわゆる民放ですから、コマーシャルが入ります。放送は第1レースが始まる午後2時から最終レースが終わる午後5時までぶっ通し。
レースの合間には調教師、騎手、馬主など競馬関係者へのインタヴューを編集したドキュメントなどが流れ、パドック解説や馬券指南などはほとんどありません。チャンネル4では唯一、井崎脩五郎のイギリス版のような髭の怪人が登場し、コース内で「狙い目」などを駄洒落を交えて喋っていましたっけ。
日本の競馬中継と違うのは、レース直前に出走する騎手や調教師への生インタヴューがあること。“自信はありますか?” “うまく行けば勝てると思うよ” なんてのが流れてます。

更にレースが終わった直後、勝った騎手がウイナーズ・サークルに戻る途中でも馬上インタヴューがあります。長いマイクを伸ばすのですが、日本ではあり得ないシーンですね。
またメインのインターナショナルでは、偶々騎乗馬の無いデットーリ騎手が放送席に呼ばれ、レースの解説もしていました。全体に競馬サークルと一般社会との垣根が低く、馬と人とのコミュニケーションが遥かに親密な感じがします。

ということで初日に行われた3鞍のパターン・レースを順次レポートしていきましょう。ロンドンもそうでしたが、ヨークも天候は晴れ、但し馬場状態はこのところの雨で good to soft 、所により good という、馬にとっては走り易いコンディションだと思います。

先ずは第2レースに行われたエイコム・ステークス Acomb S (GⅢ、2歳、7ハロン)。13頭立ての1番人気には、前走ニューマーケットの新馬戦を快勝したばかりのエンティファーダ Entifaadha が選ばれていました。実際、レース直前(スタート10分前)には管理するウイリアム・ハッガス師へのインタヴューがありました。
3頭出しで臨んだオブライエン勢のエース格、ファーナーズ・グリーン Furner’s Green が5対1で2番人気。同馬に乗るジョセフ・オブライエンはインターナショナルの本命馬にも騎乗するとあって、開催リーディングの1番人気にも挙げられていたほど。

レースは最後のハロンで抜け出した3頭の叩き合いになり、スタンドから遠いコースを通った本命エンティファーダがフォート・バスティオン Fort Bastion に1馬身4分の1差を付けて優勝。更に4分の3馬身差でズンビ Zumbi が3着。オブライエン勢は良い処なく、ファーナーズ・グリーンが3着、残る2頭も11着と13着の大敗に終わりました。

先にも書きましたが、エンティファーダはウイリアム・ハッガス厩舎、リチャード・ヒルズ騎乗。オーナーはハムダン・アル・マクトゥームで、同馬に36万ギニーも支払った良血。新馬戦ではジョニー・ムルタが騎乗しましたが、その時もムルタはGクラスの馬であることを保証したほどの逸材。
この後はシャンペン、デューハースト、レーシング・ポスト・トロフィーにも登録があり、師はフランスのグラン・クリテリウムに挑戦したい意向。この勝利で、来年の2000ギニーに最高で20対1のオッズが出されました。

続いては、セントレジャーの重要なトライアルとなるグレート・ヴォルティジュール・ステークス Great Voltigeur S (GⅡ、3歳、1マイル4ハロン)。8頭立ての1番人気(5対6)は、オブライエン厩舎のセヴィル Seville 。愛ダービーとパリ大賞典の2着馬で、どちらの勝馬も出ていないここでは消去法的本命に推されていました。こちらのジョッキーはヘファーナン、ペースメーカーとしてリージェント・ストリート Regent Street が出走しています。

しかしレースは一方的でした。リチャード・ヒューズ騎手がガッチリ手綱を抑えて後方に待機した3番人気(11対2)のシー・ムーン Sea Moon が抜群の手応えで抜け出すと、後は一人旅。最後の100ヤードでは馬を抑える楽勝にも拘わらず、2着アル・カジーム Al Kazeem に付けた差は何と8馬身。本命セヴィルは更に2馬身4分の1離された3着、決定的な敗北となりました。
この圧勝劇で一躍クラシック候補に躍り出たシー・ムーンはフランケル Frankel を所有するカーリッド・アブダッラーの所有馬、管理するのはサー・マイケル・スタウトですからワークフォース Workforce と同じ陣営。忍耐強く馬を育てるスタウト師の管理馬に相応しく、これが未だ4戦目で、今シーズンも僅か1戦、6月に同じヨークでハンデ戦に勝っただけのキャリアの馬です。
これまでのセントレジャー本命セヴィルに替り、シー・ムーンに提示されたレジャーのオッズは6対4と圧倒的なもの。血統的にも2003年のレジャー馬ブライアン・ボルー Brian Boru の半弟という良血。既にレジャーの勝馬が決まったと言わんばかりのセンセーションでした。

但し今回騎乗したヒューズは、親類であるハノン厩舎のセンサス Census への騎乗が決まっています。スタウト厩舎の主戦ライアン・ムーアは落馬負傷で今シーズンは乗れず、師は新たな騎手を探さなければなりません。その点を問われてスタウト師、“誰か見つけるさ。本番まで3週間しかないが、今日は馬もほとんど競馬をしていないから、ローテーション的にも問題ないと思うよ” と楽観的。
(翌日の報道では、あまりの楽勝にセントレジャーをパスして凱旋門賞に向かうプランも急浮上。今後の陣営の判断に注目が集まるでしょう)

一方期待を裏切ったセヴィル、オブライエン師は“暫くは様子見” と、言葉少なでした。

最後は今日のメイン、いや開催のメインとも言えるジャドモント・インターナショナル・ステークス Juddmonte International S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン88ヤード)。20年以上(今年が22年目)に亘ってレースのスポンサーになっているジャドモントは、カーリッド・アブダッラー殿下が主催する大生産牧場。皮肉なことに、殿下の所有馬には未だこのレースの勝馬がありません。
ライヴ中継のテレビでは、殿下が出走する騎手の一人一人と握手を交わし、レースでの健闘を祈念していたのが印象的。

今年は6頭が登録、3頭を予定していたオブライエン・チームが1頭を取り消して5頭立てとなりました。殿下の勝負服、ヘンリー・セシル厩舎からは2頭が参戦し、事実上チーム・オブライエン対ジャドモント/セシル陣営の一騎打ちといった形です。
8対13の1番人気は、前走ロイヤル・アスコットのハードウィック・ステークス(GⅡ)を快勝したオブライエンのアウェイト・ザ・ドーン Await The Dawn 、師の子息ジョセフ・オブライエンの騎乗です。続いてはセシル厩舎の2頭が続き、GⅠ6勝のミッドデイ Midday が5対2で2番人気、チャンピオン・ステークス2連覇のトゥワイス・オーヴァー Twice Over が11対2の3番人気。厩舎の主戦トム・クィーリーはずっとコンビを組んできたミッドデイを選び、トゥワイス・オーヴァーにはイアン・モーガン騎手が呼ばれました。

レースが動いたのはゴール前2ハロン。オブライエンのペースメーカー、ウインザー・パレス Windsor Palace を有力馬が捉え、人気上位3頭が同時にスパート。コース中央を通った本命アウェイト・ザ・ドーンは両側からセシル軍団に並ばれるとズルズル後退、最後はスタンドから遠いコースのミッドデイと近い側のトゥワイス・オーヴァーの叩き合い。
先に先頭に立ったミッドデイを、トゥワイス・オーヴァーが4分の3馬身交わした所がゴール。アウェイト・ザ・ドーンは両馬から5馬身遅れの3着に敗退です。
当然ながらセシル厩舎、アブダッラー殿下のジャドモント牧場にとってもワン・ツー・フィニッシュ。実はアウェイト・ザ・ドーンもジャドモントの生産馬ですから、スポンサーのジャドモントにとってはこれ以上ないワン・ツー・スリー・フィニッシュ。スポンサーとして長年勝てなかったアブダッラー殿下は、ここで一気に溜飲を下げたことになります。
(レース後、オブライエン師がセシル師に駆け寄って祝福していたのも、単なる勝利者への敬意だけではなかったはず)

セシル師は、“今年は勝てなくても、来年はフランケルで挑戦しますからね” と先に期待を伸ばした発言をしていました。アブダッラー殿下は、“20年以上スポンサーだったが、今年勝てなければスポンサーを降りるよ”。まさかこれは冗談でしょうが、来年のフランケルで2連覇という期待が産まれてきました。
セシル師のインターナショナル制覇は、1999年のロイヤル・アンセム Royal Anthem 以来のこと。
騎乗したモーガンにとっては、待ちに待ったGⅠ初制覇。ゴールインの瞬間、2着のクィーリーと固い握手を交わしていたのがテレビでもハッキリ映し出されていました。

勝ったトゥワイス・オーヴァーは、当然ながらチャンピオン・ステークス3連覇を狙うでしょう。相手はミッドデイになる可能性も充分です。

初日の写真回顧はこちらから↓

http://gallery.sportinglife.com/Gallery_Detail/0,17732,13262_7107878,00.html

2日目以降は、また記事を改めて。

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