新たな伝説の始まり、か
昨日は英国パターン・レースの最終日でした。ドンカスター競馬場とニューバリー競馬場で計3鞍。平場シーズンそのものも残り少なくなってきましたが、長い冬場の話題は来年のクラシックのこと。
さて最終日、最後のGⅠ戦で冬場の話題を独占しそうな馬が登場しました。新たな伝説が生まれることに期待しましょう。
good の馬場で行われたドンカスター競馬場のレーシング・ポスト・トロフィー Racing Post Trophy (GⅠ、2歳、1マイル)、1マイルの直線コースに5頭が出走してきました。堅い馬場を嫌って1頭が取り消しています。
10対11と人気を被ったのは、これが未だ2戦目という未知の存在、キャメロット Camelot 。エイダン・オブライエン厩舎が送り込んできた2頭の中の1頭で、7月14日にレパーズタウン競馬場でデビュー勝ちしただけという成績です。
デビュー戦も高い評判で臨み、5頭立てを2馬身差で勝ちましたが、この時の2着以下の馬はその後1勝もしていません。厩舎の評価は「評判倒れ」に終わることも多いのですが、果たしてキャメロットは如何に・・・。
レースはチーム・オブライエンのもう1頭、コーム・オダナヒューが騎乗するラーン Learn の先行で始まります。本命キャメロットに騎乗するジョセフ・オブライエンは最後方でジッと機会を窺います。
同じくアイルランドから遠征してきたボルジャー厩舎のジップ・トップ Zip Top とウイリアム・ビュイック騎乗(ジョン・ゴスデン厩舎、9対4の2番人気)のフェンシング Fencing が動いてレースは勝負所に差し掛かります。
しかし後ろからスタンドに近い側の外に回したキャメロットがスパートすると、レースは一方的なものに変わってしまいました。オブライエン騎手はムチを全く使うことなく、懸命に叩き合いを演じる2頭を尻目に、馬なりのまま2着以下に2馬身4分の1差を付ける大楽勝で評判に応えました。2着争いは写真判定を待つまでもなく首差でジップ・トップに軍配が上がり、フェンシングが3着。
騎乗したジョセフ・オブライエンは、嬉しいイギリスのGⅠ戦での初勝利。父君エイダン・オブライエン師は、レーシング・ポスト・トロフィー6勝目を飾りました。1997年のサラトガ・スプリングス Saratoga Springs 、1999年アリストートル Aristotle 、2001年のハイ・シャパラル High Chaparral 、2002年ブライアン・ボルー Brian Boru 、そして一昨年のセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey と。
この中で本当のチャンピオンに成長したのは、ダービー、愛ダービー、ブリーダーズ・カップ・ターフ2連覇のハイ・シャパラルだけでしょう。セント・ニコラス・アビーも冬場のダービー本命と評価されましたが、結局は2000ギニーで負け、その後3歳シーズンを全休してしまいました。
果たしてキャメロットは?
この圧勝からダービーには3対1のオッズが出され、1番人気に上がりました。オブライエン師がギニーへの可能性も否定しなかったことから、2000ギニーには8対1のオッズも提示されています。
クールモアのエース、モンジュー Montjeu 産駒でもあり、陣営では“どんな競馬にも対応できる、新たなチャンピオン” として益々評価を高めているようですね。
「キャメロット」とは、アーサー王伝説に描かれた宮殿があった場所。新たな伝説の始まり、となるかどうか。
一方、ニューバリー競馬場はGⅢ戦が2鞍、これを以て今シーズンのパターン・レースは全て終了することになります。馬場はシーズン末期には珍しい good to firm 。
先ずホーリス・ヒル・ステークス Horris Hill S (GⅢ、2歳、7ハロン)は、1頭取り消して14頭立て。前走ミドル・パーク・ステークスは6着ながら、勝馬とは1馬身半しか差の無かったサイゴン Saigon が15対8の1番人気。
しかし優勝は7対1のテル・ダッド Tell Dad 、5番枠から飛び出し、終始先手を取っての快勝でした。サイゴンは後方を進みましたが、前が開かずに外(スタンドから遠い側)に大きく回す不利があり、鋭く追い込んだものの2馬身及ばず2着。頭差でハザーズ Hazaz の順。
テル・ダッドはリチャード・ハノン厩舎の馬で、ハノン師はこれが今シーズンの2歳戦117勝目。2歳戦に強いハノン厩舎の面目躍如たるところがあります。新ムチ・ルールで抗争、騎乗停止中のヒューズ騎手に替り、今回はエディー・エイハーンが騎乗。
セールス戦で2勝していたテル・ダッドは極めて気性の悪い馬で、シーズン半ばで去勢、せん馬となりました。本来の能力を発揮し始めたのはそれ以来のこと。当然ながらクラシックには出走できませんから、陣営ではもう一度競りに出す計画なのだそうです。
そして長いシーズンの最後は、セント・サイモン・ステークス St Simon S (GⅢ、3歳上、1マイル4ハロン5ヤード)。馬場が硬いことを嫌って2頭が取り消し、7頭立てで行われました。
ここも5対2の1番人気に支持されたアル・カジーム Al Kazeem が2着に敗れ、優勝は7対2のビートゥン・アップ Beaten Up 。アル・カジームは4馬身半離された2着に終わり、更に3馬身半差でバービカン Barbican が3着。
アル・カジームが外から伸びてきたときには「勝った」と思われましたが、最後方に待機したビートゥン・アップが更に外から桁違いの脚色で差し切っています。
ビートゥン・アップは、管理するウイリアム・ハッガス師の父君が生産した馬。これまた「せん馬」ながら、このレースが未だ3戦目で無傷の3連勝となった3歳馬。8月16日にライポンでデビュー勝ちしたあと、9月9日にドンカスターの一般戦でも勝利。いずれも10ハロン戦での勝ち名乗りでした。
初戦はライアン・ジョーンズ、2戦目にリチャード・ヒューズが騎乗し、今回はジョニー・ムルタが手綱を取っています。
3連勝で一気にパターン勝馬となった同馬は、このあと今シーズンは英国以外で競馬を続けることになるとか。
以上で英国は終戦ですが、パターン戦はこのあとアイルランドで一つ、フランスではもう少し平場シーズンが続くことになります。
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