ロイヤル・アスコット2012・3日目
ロイヤル・アスコットの3日目は雨、馬場は good to soft に渋り、重馬場と表現して良いような状態で行われました。3日目のフォト・アルバムでも傘の花が開いているのが写っていますね。
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この日もパターン・レースは4鞍、GⅠはゴールド・カップ一鞍です。
最初はノーフォーク・ステークス Norfolk S (GⅡ、2歳、5ハロン)。1頭取り消して11頭立て。全馬が9ストーン1ポンドの負担重量。
11対4の1番人気はシャノン厩舎のキー・ヴェルデ Cay Verde 。2戦目となるアスコットの未勝利戦とカラーのリステッド戦(共に5ハロン)に連勝してきた馬、出走メンバー中に2勝馬は2頭しかいません。
しかし勝ったのは4対1の2番人気だったレックレス・アバンダン Reckless Abandon 、2着ゲール・フォース・テン Gale Force Ten に4分の3差を付けての優勝です。3着も4分の3差でイアンズ・ドリーム Ian’s Dream 、キー・ヴェルデは6着に終わりました。
レックレス・アバンダンはクライヴ・コックス厩舎、アダム・カービー騎乗、コックス師にとってはロイヤル・アスコット3勝目、カービー騎手はロイヤル・アスコット初勝利となります。同馬はドンカスターの新馬戦(5ハロン)に勝ったばかり、これで2戦2勝。
馬場の中央を通って残り2ハロンで抜け出しましたが、急激に左に寄れる若さを露呈。カービー騎手の懸命のムチで進路妨害にはなりませんでしたが、カービーはムチのルール違反に問われ、騎乗停止処分を受けることになります。実はカービー騎手、ルール違反はここ半年で5度目。騎乗停止の他にキツイお咎めを食らうことになるでしょう。
2着のゲール・フォース・テンはエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗。オブライエン師がノーフォーク・ステークスに馬を出走させるのは珍しいことで、前走カラーの6ハロン戦で初勝利を飾った馬、ここまでの3戦はいずれもジョセフが騎乗してきました。
続いてオークスと同じ距離で行われるリブルスデール・ステークス Ribblesdale S (GⅡ、3歳牝、1マイル4ハロン)。14頭が出走してきましたが、オークスは不利があって3着のザ・フューグ The Fugue が5対2の1番人気、同2着のシロッコ・スター Shirocco Star は4番人気(7対1)でした。
レースはオークス4着馬で2番人気(11対2)のヴォウ Vow の逃げで始まります。残り3ハロンでシロッコ・スターがスパートし、勝ちはこの馬と思われましたが、後方に待機していた17対2(5番人気)のプリンセス・ハイウェイ Princess Highway が他馬とは違う末脚で一気に伸び、2着に追い上げた本命ザ・フューグに6馬身の大差を付ける圧勝。短頭差でシロッコ・スターが3着。
プリンセス・ハイウェイを管理するデルモット・ウェルド、騎乗したパット・スマーレン騎手のコンビは、2002年に同馬の母イレシスティブル・ジェウェル Irresistible Jewel でリブルスデール・ステークスを制しており、母子制覇となりました。ウェルド師にとってはロイヤル・アスコット15勝目。
同馬は晩熟のタイプで、今期は無傷の3連勝。前走ナース競馬場のブルー・ウインド・ステークス(GⅢ)ではオークス馬ウォズ Was を3着に破っていましたが、オークスは未だ馬が若いと判断してここまで待った経緯があります。今回も重馬場に不安があったそうですが、全く問題にしない走り、次走は愛オークス(7月22日)で頂点を目指します。
続いて、かつては開催のメインだったゴールド・カップ Gold Cup (GⅠ、4歳上、2マイル4ハロン)。アン女王がアスコットに競馬場を拓いて今年は301年目に当たりますが、アスコットで行われてきたレースで現在まで続いている最も古いレースが1807年に創設されたゴールド・カップです。
1971年に英国にパターン・レースのシステムが導入された時、ロイヤル・アスコットではゴールド・カップが唯一のグループⅠ競走でした。(パターン・レース・システムそのものは1970年に導入され、3つのグループに格付けされたのは1971年が最初。ヨーロッパでは「G」はグループの意味で、アメリカのグレードとは異なります)
今やロイヤル・アスコットのGⅠ戦は7鞍、新しいファンにはゴールド・カップの歴史や意義は理解し難いかも知れませんね。
ということで今年のゴールド・カップ、9頭が出走し、去年の覇者フェイム・アンド・グローリー Fame And Glory が4対5の断然1番人気に支持されていました。鞍上はジョセフではなく、大一番(去年のこのレースも)で同馬とコンビを組んで来たジェイミー・スペンサーが騎乗します。2番人気(9対2)は、去年のドンカスター・カップ勝馬のサドラーズ・ロック Sadler’s Rock 。
レースはガルフ・オブ・ネイプルズ Gulf of Naples がスローペースに落としての逃げ。何頭かは行きたがってジョッキーが抑えるのに苦労する流れになります。残り1マイルでガルフ・オブ・ネイプルズがテンポを上げて逃げ込みを図りますが、本命フェイム・アンド・グローリーは後方3番手で余裕があるように見えました。
しかしスペンサーの追い出しにも拘わらず本命馬の反応は鈍く、抜け出したゴドルフィンの2頭、ランフランコ・デットーリ騎乗の4番人気(6対1)カラー・ヴィジョン Colour Vision とミケール・バルザロナ騎乗の3番人気(5対1)オピニオン・ポール Opinion Poll の激しい叩き合いに。両馬は2度に亘って接触する場面がありましたが、最後はカラー・ヴィジョンがオピニオン・ポールを半馬身抑えて優勝。3着は首差でサドラーズ・ロックが入りました。逃げたガルフ・オブ・ネイプルズが4着、アスカー・タウ Askar Tau 5着。本命フェイム・アンド・グローリーは7着と期待を裏切りました。レース直後に審議を知らせるサイレンが鳴りましたが、着順通りで確定。オピニオン・ポールは2年連続2着という結果です。
ゴドルフィンのワン・ツー・フィニッシュ、勝馬はサイード・ビン・スロール厩舎、2着はその弟子マームド・アル・ザローニ厩舎の管理馬。実はデットーリがより人気の無いカラー・ヴィジョンを選んだ時、競馬サークルには“エッ、何で?”という驚きが走ったものです。デットーリも選択にはかなり悩んだそうですが、結果的には名手の判断が正しかったことが証明されました。
勝馬の調教師スロール師は、これが5度目のゴールド・カップ制覇、1996年のクラシック・クリシェ Classic Cliche 、1998年と2000年は隔年でカイフ・タラ Kayf Tara 、そして2004年のパピノー Papineau に続くもの。今年のロイヤル・アスコットでは最もチャンスがあると考えていたというデットーリにとっても5勝目、1992年と翌年のドラム・タップス Drum Taps による連覇、それに1998年と2004年はスロールの馬で制しています。ただ、ゴールド・カップにはレスター・ピゴットの11回制覇という前人未到の記録があるだけに、最多勝利騎手のタイトルは遠い先のことではありますが・・・。
カラー・ヴィジョンは、前走ケンプトン競馬場のサガロ・ステークス(GⅢ)に勝っていた芦毛の4歳せん馬。去年のロング・ディスタンス・カップ(GⅢ、アスコット)ではフェイム・アンド・グローリー、オピニオン・ポールに続く3着でした。
一方敗れたフェイム・アンド・グローリー、レース後も負傷などはなく、無事。オブライエン師も敗因は特に無いとのことで、“面白いレースだったね”と顔色一つ変えていません。
この日最後はターセンテナリー・ステークス Tercentenary S (GⅢ、3歳、1マイル2ハロン)。「三百年祭ステークス」という意味ですが、アスコット開設300年を記念して去年からGⅢに格上げされたレース、一昨年まではハンプトン・コート・ステークスとして知られていた一戦です。アスコット最古のゴールド・カップと同じ日に組むことで、英王室が拓いた競馬場の歴史と伝統について改めて偲んでもらおう、という企画でしょうか。
1頭取り消して10頭立て。ハーリッド・アブダッラー殿下の持馬で、前走エプサムのハンデ戦に勝ったローサム・ヒース Wrotham Heath が4対1の1番人気に支持されていました。
レースはクリウス Crius がコーナーで大外の馬場の良い場所を目がけて馬群から大きく逸れる不思議な展開。結局リチャード・ヒューズ騎乗のクリウスは他馬から大きく離された大差負けを喫してしまいます。
優勝は後方から外を回って追い込んだ6番人気(15対2)のエナージャイザー Energizer 。ドイツ馬ですからエネルギーザーと読むべきかも知れません。2馬身半差2着にはアブダッラー殿下の人気の無い方(11対1)のスティピュレイト Stipulate が入り、更に2馬身半差でリワーディッド Rewarded の順。本命ローサム・ヒースは逃げて9着惨敗、ゴールド・カップに続いての波乱となりました。
イエンス・ヒルシュベルガー師が管理する馬で、ドイツ調教馬がロイヤル・アスコットで勝ったのはこれが初という快挙。騎乗した42歳のエイドリー・ド・ヴリース騎手は、アスコット競馬場は2度目の経験で英国での初勝利という、これまた快挙です。
エナージャイザーはいきなりデビュー戦でリステッド(デュッセルドルフの8ハロン)に勝ちましたが、その後は4連敗。ただし、ドイツ2000ギニー(メール=ミュールハイム・レンネン、GⅡ、8ハロン)ではカスパー・ネッチャー Caspar Netscher の4着。ヒルシュベルガー師は、ギニー敗戦で同馬の距離適性を判断し、距離が延びるこのレースに照準を合わせた由。装着したブリンカー共々環境の変化が奏功したようです。次走はミュンヘンのGⅠ戦(グロッサー・ダルマイヤー・プライス)とか。
まとめtyaiました【ロイヤル・アスコット2012・3日目】
ロイヤル・アスコットの3日目は雨、馬場は good to soft に渋り、重馬場と表現して良いような状態で行われました。3日目のフォト・アルバムでも傘の花が開いているのが写っていますね