ロイヤル・アスコット2012・4日目
4日目を迎えたロイヤル・アスコット、風雨は増々強く、出走を取り消す馬も多く出てきました。馬にとっては強い向かい風になるので、先行馬には厳しい展開だったようです。
終日馬場状態は soft 、日本なら重から不良に近いコースと言えるでしょう。
この日もG戦は4レース、最初はアルバニー・ステークス Albany S (GⅢ、2歳牝、6ハロン)。当初19頭の登録から4頭が取り消し、更にセンドマイラヴトゥーローズ Sendmylovetorose がゲートインをぐずり、スタートが大幅遅れ。結局は発走除外となって14頭立ての競馬になりました。
ニューマーケットのデビュー戦を4馬身差で圧勝したジョン・ゴスデン厩舎のニューファングルド Newfangled が7対4の1番人気に支持され、期待に応えて圧勝しています。騎乗したウイリアム・ビュイックは風が強いので先行馬の後ろで競馬する予定でしたが、持ち前のスピードが違うこともあってスタートして間もなく先頭、そのまま2着エージェント・アリソン Agent Allison (6対1の2番人気)に2馬身半差の楽勝、短頭差3着はプレミエ・ステップス Premier Steps 。
ビュイック騎手は自分の役割を“ボクは単なる乗客に過ぎなかった” とまで。出走は14頭もいましたが、実際は1頭のレースでした。来年の1000ギニーには早くも10対1のオッズが出されています。オーナーはヨルダンのハヤ王女、ニュー・アプローチ New Approach の初産駒の1頭。
続いて、かつてはアスコット・ダービーの異名を取ったキング・エドワード7世ステークス King Edward Ⅶ S (GⅡ、3歳、1マイル4ハロン)。こちらも当初登録の7頭から2頭が取り消し、5頭立て。6月初めのダービーからは2頭が参戦してきました。3着のアストロロジー Astrology が8対11の1番人気、エイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。
レースは強風にも拘わらずそのアストロロジーが逃げましたが、ダービー4着のソート・ワージー Thought Worthy (8対1、4番人気)に並び掛けらると一杯。ソート・ワージーとサー・ヘンリー・セシル厩舎の期待馬ノーブル・ミッション Noble Mission (4対1、2番人気)が競り合って接触する中、更に外から同じセシル厩舎の伏兵(9対2、3番人気)トーマス・チッペンデール Thomas Chippendale が2頭を交わして抜け出し、半馬身差で逆転。2着ノーブル・ミッションと3着ソート・ワージーとの着差は首。バテた4着アストロロジーは更に9馬身離されていました。
ワン・ツー・フィニッシュで制したセシル師は、このレース8勝目、ロイヤル・アスコットは通算で75勝目となります。陣営ではより期待していたフランケル Frankel の全弟に当たるノーブル・ミッションにトム・クィーリーが騎乗しましたが、勝馬にはジョニー・ムルタが依頼されていました。余り見られない組み合わせですね。
勝ったトーマス・チッペンデールは、前走ニューマーケットのハンデ戦(10ハロン)でハンデ・クラスを卒業したばかり、未だ馬が若く成長途上。セシルの見解ではセントレジャー・タイプの馬だということです。最後のクラシックを目標にしてくるでしょう。
一方人気で負けたアストロロジー、ムーア騎手は重馬場を敗因上げましたが、オブライエン師はダービーの疲れを指摘。クラシックから2週間のローテーションが問題だったとの見解でした。
この日3つ目のG戦が、この日のメインとなるはずのコロネーション・ステークス Coronation S (GⅠ、3歳牝、1マイル)。1000ギニー再戦に2頭が取り消し、10頭が出走してきました。英1000ギニーを制したホームカミング・クィーン Homecoming Queen が9対4の1番人気、愛1000ギニー馬サミター Samitar は9対2で3番人気です。2番人気(7対2)は、サミターと同厩(ミック・シャノン厩舎)のラフ・アウト・ラウド Laugh Out Loud 、ヨークのリステッド戦とシャンティーのサンドリンガム賞(GⅢ)に連勝してきた上がり馬ですね。
レースは又してもオブライエン厩舎の本命ホームカミング・クィーン(ジョセフ・オブライエン騎乗)が逃げ、シャノン厩舎の2頭が追走する展開。人気上位3頭がレースを引っ張ります。
しかし直線、ホームカミング・クィーンの逃げ足は不発、1000ギニーの再現は夢と消えます。追走した2頭も末脚は残っておらず、後方2番手に待機していた6番人気(12対1)のフォールン・フォー・ユー Fallen For You が大外から一気の末脚を爆発させ、同じく後方から伸びた4番人気(11対1)のスタースコープ Starscope に3馬身4分の1差を付ける逆転劇でした。3着は更に2馬身4分の1差でアイリッシュ・ヒストリー Irish History 。サミターは4着、ラフ・アウト・ラウド6着、ホームカミング・クィーン8着と、人気馬は総崩れのコロネーションです。
穴を開けた1・2着はいずれもジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗。このコンビはこの後ウルファートン・ハンデをゲートウッド Gatewood でも制し、この日ハットトリック達成、2日目のウインザー・フォレスト・ステークス(ジョヴィアリティー Joviality)と合わせて4勝となり、開催リーディング両部門トップに王手を掛けた形。
重馬場と強風にしてはペースが速く、差し馬には有利でしたが、ゴスデン師もビュイック騎手も決してフロックではないことを強調。勝ったフォールン・フォー・ユーは2歳デビュー戦に勝ったあとメイ・ヒル・ステークス(GⅡ、2着)、フィリーズ・マイル(GⅠ、5着)とトップ・クラスの競馬を使った馬。今シーズンはケンプトンの条件戦に勝ち、前走リングフィールドのポリトラック・コースで行われたGⅢ(チャートウェル・フィリーズ・ステークス)で古馬に挑戦し6着。この経験が馬に多くを学ばせたのだそうです。
いずれにしても先日のセント・ジェームス・パレス・ステークスと併せ、今年の3歳、特にマイル路線は抜けた馬が見当たりません。日替わりで勝馬が変わる結果になっていますから、クラシック世代のレヴェルについては、これからの古馬との混合戦での結果を注意深く見ていく必要があるでしょう。
この日の最後、若きステイヤーを探す一戦となるクィーンズ・ヴァース Queen’s Vase (GⅢ、3歳、2マイル)が、結果的には4日目のハイライトになりました。ここも取り消しは2頭、10頭立てです。
長距離戦ということもあって牝馬の挑戦は稀なレースですが、今年は唯1頭出走してきたその牝馬が3対1の1番人気に支持され、しかも圧勝で期待に応えるというドラマティックな結末が待っていました。
その人気馬とは、前走ソールズベリー競馬場の未勝利戦(10ハロン)に勝ったばかりのエスティメイト Estimate 。普通の馬なら6番人気辺りが妥当の存在ですが、オーナーがエリザベス女王とあって人気は過熱。調教するサー・マイケル・スタウト師に掛かるプレッシャーも相当なものだったようです。
プレッシャーも跳ね返し、並み居る牡馬たちを蹴散らしてライアン・ムーアが見事勝利に導いたエスティメイト、2着アザンス Athens (11対2、2番人気、オブライエン厩舎、ジョセフ騎乗)に付けた着差は5馬身! 更に1馬身半差3着にはエド・デ・ガス Ed De Gas という馬が入りました。
残り2ハロンで先頭に立った時、全ての国民が歓声を挙げた瞬間が訪れます。女王陛下にとってロイヤル・アスコットでの勝利は2008年以来のこと。女王はシルヴァー・ジュビリーの年(1977年)にダンファームリン Dunfermline (やはり牝馬)でセントレジャーに勝っており、この圧勝でその再現も現実味を帯びてきました。今年最後のクラシック、キャメロット Camelot 三冠の興味に更に新たな見所が生まれてくる気配を感じませんか。
2着に来たオブライエン師も、“女王陛下の2着は大変な名誉” と手放しの賞賛です。
ロイヤル・アスコットの優勝チームにはエリザベス女王自らがトロフィーを贈るのが習慣ですが、この時ばかりは夫君エジンバラ公が愛妻にトロフィー授与。その微笑ましいショットは以下のフォト・アルバム、最後の写真でご覧ください。↓
http://gallery.sportinglife.com/Gallery_Detail/0,17732,13262_7835142,00.html
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