アル・カジーム、GⅠ4連勝成らず

昨日の水曜日から土曜日までの4日間、イングランド北部のヨーク競馬場で伝統のイボア開催が行われます。最終日に組まれている名物のイボア・ハンデに名を取った開催ですが、昨今ではハンデ戦は話題に乏しく、イボア開催という呼称もガラ系になりつつあるようです。
初日のG戦は3鞍、いきなり開催最大の呼び物でもあるインターナショナル・ステークスが行われています。その前に・・・。

初日の馬場は good to firm と固いコース、アコーム・ステークス Acomb S (GⅢ、2歳、7ハロン)は6頭が出走し、デビュー勝ちしたばかりの2頭が人気になっていました。5対4の1番人気は、先月同じヨークで6ハロン戦にデビュー勝ちしたザ・グレート・ギャッツビー The Great Gatsby 。ニューバリーのデビュー戦を3馬身差で勝ったゴドルフィンのファースト・フライト First Flight が3対1の2番人気で続きます。
しかし結果は人気2頭の決着とはならず、ブービー人気(11対1)でしかなかった伏兵トリーティー・オブ・パリス Treaty Of Paris の逃げ切り勝ち。最後で追い込んだザ・グレート・ギャッツビーを首差抑え込んでいました。1馬身差でイル・パパラッチ Il Paparazzu が3着、ファースト・フライトはドン尻6着と期待を裏切っています。

ヘンリー・キャンディー厩舎、ジェームス・ドイル騎乗のトリーティー・オブ・パリスは、3戦目にポンテフラクトで初勝利を挙げ、前走はニューマーケットの条件戦での2着。Gクラスで通用するとは考え難いこれまでの内容でした。ドイル騎手は去年、チャールトン厩舎のダンドネル Dundonnell でこのレースに勝っており、2連覇となります。キャンディー師は初勝利。

続いてセントレジャーの最も重要なトライアルとなるグレート・ヴォルティジュール・ステークス Great Voltigeur S (GⅡ、3歳、1マイル4ハロン)。私もヨーク競馬場に行ったことがありますが、ロンドンから特急に乗り、手前の駅がクラシックの舞台となるドンカスターでした。ですからヨークのトライアルからセントレジャーへの路が、19世紀からのメイン・ストリートだったことを体感したものです。
今年は7頭立て。一つ前のトライアルとなるグッドウッドのゴードン・ステークス(GⅢ)に勝ったキャップ・オラッシズ Cap O’rushes は8対1と並んだ4番人気でしかなく、この時点でも最後のクラシックは混沌としていることが見て取れましょう。結局5対4の1番人気に支持されたのは、シーズン当初の評判が崩れかけてきていたスタウト厩舎のテレスコープ Telescope 。陣営の期待を背負った最後のチャンスという趣です。

そしてその期待は漸く満たされたようです。ニコルス・キャノン Nichols Canyon の逃げをキャップ・オラッシズが2番手で追走し、これを3番手でマークした本命テレスコープが力強く抜け出すと、アイルランドからオブライエン厩舎が送りこんだ2番人気(5対1)のファウンドリー Foundry に1馬身4分の1差を付けてG戦初勝利。更に半馬身差でゴードン5着馬シークレット・ナンバー Secret Number が3着。
サー・マイケル・スタウトのダービー候補として名が挙がっていたテレスコープは、調整が遅れてダービーには間に合わず、前走ローズ・オブ・ランカスター・ステークス(GⅢ)で大本命として古馬に挑んだものの2着敗退。まさかのGⅢ敗退でメッキが剥げかけていた同馬ですが、騎乗した主戦ライアン・ムーアによれば未だこれが5戦目。3勝2着2回と、日本流に言えば連帯率100%。セントレジャーには登録が無いため出走には追加登録が必要ですが、期待は凱旋門賞にまで膨らんできたようです。
セントレジャーのオッズは5対1に上がり、凱旋門賞には25対1が出されました。
一方2着のファウンドリーは、2歳時に新馬戦を7馬身差で圧勝したのが唯一の戦績で、今回が3歳デビューで未だ2戦目という若い馬。何故仕上がりが遅れたのかは不明ですが、セントレジャーには登録があり、オブライエン師はセントレジャー出走を明言しました。こちらはレジャーに10対1のオッズが出されました。

そして最後が大注目のジャドモント・インターナショナル・ステークス Jusmonte International S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン88ヤード)。出走頭数は6頭と小振りですが、GⅠ3連勝で凱旋門賞1番人気のアル・カジーム Al Kazeem が登場。対するは3歳のマイル王者に上り詰めたトルネード Toronade が10ハロンの距離に挑戦、加えてキング・ジョージこそノーヴェリスト Novellist に完敗(2着)したものの愛ダービーを制したトレーディング・レザー Trading Leather と役者が揃いました。
11対8の1番人気は、もちろんアル・カジーム、ローテーションがきつくなるためキング・ジョージは回避しましたが、短いリフレッシュを取って凱旋門賞への新たなスタートを切るはずです。ここまでマイル路線を歩んできたトルネードは、道中リラックスして走るタイプだけに距離延長も問題無しと見て9対4の2番人気。トレーディング・レザーは距離を10ハロンに短縮しての参戦、キング・ジョージ2着は伊達ではなかろうということで5対1の3番人気に支持されていました。ロイヤル・アスコットでGⅠに勝ちながら、その後3戦続けてトップクラスの競馬で負け続けたデクラレーション・オブ・ウォー Declaration Of War が7対1の4番人気でしかなかったことが出走馬のレヴェルが高かったことの証拠でもありましょう。

果敢に先手を取ったのはボルジャー厩舎マニング騎乗のトレーディング・レザー。アル・カジームは2番手から抜け出す機を窺っていましたが、ジェームス・ドイルの仕掛けにも反応は今一。替って鋭く追い込んだのが、3番手の内で待機していたデクラレーション・オブ・ウォー。粘るトレーディング・レザーを1馬身4分の1差し切って二つ目のGⅠ制覇です。更に1馬身半差でアル・カジームは3着と今期初黒星。5番手から末脚に掛けたトルネードは動けず、最後はヒューズ騎手が諦めて6着最下位に敗退、やはりこの馬は本質的にマイラーなのでしょう。
エイダン・オブライエン厩舎、息子のジョセフ・オブライエン騎乗で復権したデクラレーション・オブ・ウォーは、これがシーズン7戦目。3戦目でクィーン・アン・ステークス(GⅠ)に勝ってファンを驚かせたものの、その後はエクリプス2着、サセックス3着、ジャック・ル・マロワ4着と順位を落としてきて既に決着済みと思われていました。10日前にドーヴィルで走ったばかりでもあり、ここで好走するとは思えなかったというのが正直な見方でしょう。しかしオブライエン師によれば、疲労は全く無く、逆に毎日のように成長している由。前2走は共に1マイルで、やはり少し距離が伸びた方がこの馬には適しているのでしょう。10ハロンの前走はエクリプスでアル・カジームの2着。見放すのは未だ早かったようですね。
同馬は2歳時はフランス(ジャン=クロード・ルジェ)で調教されており、3歳からオブライエン師の元に。3歳時はGⅢに勝っただけでしたが、4歳になって才能を開花させたようです。しかしあくまでも適距離は2000メートルまで、この馬が凱旋門賞に向かう可能性は極めて低いと思われます。

その凱旋門賞、この結果でアル・カジームのオッズは6対1から10対1に下落。キング・ジョージに勝ったドイツ馬ノーヴェリストが4対1の単独1番人気に上がりました。
また2着に健闘したトレーディング・レザーも16対1と、ヨーク初日の結果で凱旋門賞のオッズも様変わりしてきています。

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