サー・コーリン・デーヴィスに捧ぐ

昨日のプロムスはロンドン交響楽団のコンサート、今年4月に亡くなった同団と関係が深かったサー・コーリン・デーヴィスに捧げる演奏会でした。
英国音楽の王道プログラム。

≪Prom 51≫
ティペット/マスク・オブ・タイム~ファンファーレ
ティペット/弦楽合奏のための二重協奏曲
ブリテン/レ・ジリュミナシオン
     ~休憩~
エルガー/交響曲第2番
 ロンドン交響楽団
 指揮/ダニエル・ハーディング
 イアン・ボストリッジ(テノール)

私の記憶ではデーヴィスの初来日は確か1964年秋のロンドン響とのツアーで、前年春の同響の来日がモントゥーやショルティの指揮だったためか、当時の名だたる批評家たちは随分と酷評していたのを思い出します。
その後気が付いたのは、日本には優れた評論家が存在せず、その後も現在に至るまで育っていないということ。日本のクラシック音楽界で最も遅れているのが評論の分野でしょう。デーヴィスを悪く言った人たちの罪は大きいと思います。

今回は首席客席指揮者を務めるハーディングの指揮。彼のモーツァルトは栄養失調の音楽で辟易ですが、お国物の英国作品では人が変わったように素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
もちろんデーヴィス追悼という特別なコンサートが影響しているのかも知れませんが、エルガー第2はこれまでのエルガー指揮者以上に思い入れが豊か。第1楽章の再現部直前、第2楽章、全体のコーダなどはやり過ぎと思えるほどテンポをスローに落としていました。
あのモーツァルトと英国作品のどちらが本当のハーディングかと疑ってしまいますが、やはりこちらが彼の本音なのでしょうね。

冒頭のティペット「マスク・オブ・タイム」はデーヴィスが世界初演した作品。14人の金管楽器と2人の打楽器によって演奏されます。
続く二重協奏曲は、弦楽合奏を二群に分けた3楽章作品で、ティペットの最も知られた曲。イギリスには弦楽合奏による多声部作品の伝統があり、エルガー「序奏とアレグロ」、ヴォーン=ウィリアムス「タリスの主題による幻想曲」、ブリテン「フランク・ブリッジ変奏曲」などと並ぶ名作。全体の最後にポリ・リズムとなって民謡が高らかに奏される個所は真に感動的。

これに続いて同じく弦楽合奏とテノール・ソロによるレ・ジリュミナシオン。個人的にはブリテンの作品では最も早い頃に知った作品で、何処かの音楽祭の実況をテープに録音して繰り返し聴いたものでした。手元のスコアには1967年1月に購入したというメモがあります。
それにしてもボストリッジは凄い。次元の違う音楽家でしょう。優れた技術、強い集中力、加えて高度な精神性を持ってこの歌曲集を歌える人はボストリッジ以外には考えられません。

仮に日本でこのプログラムを組んでもチケットは売れないでしょうが、ロンドンなら完売必至。私ももし聴きに出掛けるとすれば、この回を中心にスケジュールを組みますね、絶対に。

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