ノー・ネイ・ネヴァー敗れる

3月最初の土曜日は、3つの競馬場でグレード・レースが行われました。ダービーまで2か月となり、愈々東海岸のニューヨークでもG路線が本格化してきます。

そのアケダクト競馬場、この日のG戦は何れも内のダート・コースで行われ、馬場は fast 。最初は短距離路線の第一弾となるトム・フール・ハンデキャップ Tom Fool H (GⅢ、3歳上、6ハロン)。7頭が揃い、去年泥んこ馬場で行われたフォアゴ・ステークス(GⅠ)の覇者ストラッピング・グルーム Strapping Groom がイーヴンの1番人気に支持されました。
先手を取ったのは3番人気(3対1)のダッズ・キャップス Dads Caps 、ストラッピング・グルームは伏兵(38対1)ジェイクン・エルウッド Jake N Elwood に2番手を任せて3番手に待機します。そのまま3番手で直線に入った本命馬、疲れたジェイクン・エルウッドを交わすと、徐々に逃げるダッズ・キャップスを追い詰め、ゴールでは1馬身差し切って期待に応えました。更に1馬身4分の3差で後方待機の4番人気(6対1)サタデイズ・チャーム Saturday’s Charm が3着。
デヴィッド・ジャコブソン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のストラッピング・グルームは、日本で供用中のヨハネスバーグ Johannesburg 産駒の7歳牡馬。前記フォアゴ・ステークスでG戦初勝利を飾ったあと、ヴォスバー・インヴィテーショナル(GⅠ)が3着、ボールド・ルーラー・ハンデ(GⅢ)4着、フォール・ハイウエイト・ハンデ(GⅢ)でも135ポンドを背負っての3着し、前走12月にはグレーヴセンド・ハンデ(一般ステークス)に勝ち、これが今年の初戦でした。陣営ではこのあと、二つ目のGⅠを目指して4月5日のカーター・ハンデに向かうとのことです。

続いてはトップ・フライト・ハンデキャップ Top Flight H (GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)。かつてはGⅠ戦でしたが現在はGⅡに降格、2011年は実施が無く、今年74回目を迎えました。勝てば3頭目の2連覇となるはずだったサマー・アプローズ Summer Applause が取り消して僅か5頭立て。そのライヴァルと見做されていたティーン・ポーリーン Teen Pauline が1対5の圧倒的な1番人気に支持されています。
先行を得意とするティーン・ポーリーン、スタートでやや躓いたようにも見えましたが、予想通り先頭を奪っての一人旅。最後方から追い込む2番人気(6対1)セントリング Centring を2馬身半差寄せ付けず逃げ切り勝ち、G戦初制覇をステークス3連勝で飾りました。ハナ差でフラッシュ・フォワード Flash Forward が3着。
トッド・プレッチャー厩舎、トム・フールに続いてG戦ダブル達成のイラッド・オルティスが騎乗したティーン・ポーリーンは、絶好調タピット Tapit 産駒の4歳馬。今年に入ってお正月のアフェクショネイトリー・ステークス、1月25日のレディーズ・ハンデキャップと連勝、何れも逃げ切ってのステークス3連勝となります。特に前走レディーズ・ハンデは、トップ・フライト同様グレード制導入から暫くはGⅠに格付けされていたレース。時代が時代なら、GⅠ2勝となっていた筈でした。

アケダクトの最後はダービーへのポイント(50ポイント)対象となるガッサム・ステークス Gotham S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。2頭が取り消して9頭立て。厩舎は違えど同じオーナーのサムラート Samraat とノーブル・コーナーストーン Noble Cornerstone が馬券上はカップルとなり2対1の1番人気。もちろん人気の対象は前哨戦のウィザーズ・ステークス(GⅢ)に勝ったサムラートです。
逃げたのは、前年のフューチュリティー・ステークス(GⅡ)勝馬で4番人気(9対2)のイン・トラブル In Trouble 。これをウィザーズでサムラートと1馬身差の接戦を演じた2番人気(7対2)のアンクル・サイ Uncle Sigh がピタリとマークし、サムラートも離れず3番手追走。レースは終始先行3頭の争いとなり、3頭の一番外から仕掛けた本命サムラートが直線入口で主導権を奪うと、中のアンクル・サイ、最内沿いのイン・トラブルとの激しい叩き合い。狭い間隔で3頭が馬体を接する叩き合いは審議になりましたが、結局は最外サムラートが中のアンクル・サイを首差、更に最内のイン・トラブルも首差3着の入線通りで確定しました。4着以下は5馬身以上離れ、相手に成らず。
リチャード・ヴァイオレット厩舎、ホセ・オルティス騎乗のサムラートは、これで5戦5勝と無傷。前走ウィザーズに続くG戦連勝で、ニューヨークのステップ・レース三冠の最後となるウッド・メモリアル(GⅠ)からダービーを目指します。もちろん敗れた2頭も路線は同じで、前走1馬身差から首差まで詰めた2着のアンクル・サイは意気軒昂、更なる成長で東海岸のダービー筆頭候補の座を狙うでしょう。

次はガルフストリーム・パーク競馬場の2鞍。フロリダ・ダービーの前哨戦となるスウェイル・ステークス Swale S (GⅡ、3歳、7ハロン)は、今年からGⅡに格上げ。シャンペン・ステークス(GⅠ)勝馬でBCジュヴェナイル2着のハヴァナ Havana と、英仏でG戦に勝った3戦無敗のチャンピオン馬ノー・ネイ・ネヴァー No Nay Never の対決、両雄共にシーズン始動とあって一騎打ちに期待が高まっていました。しかし残念ながらハヴァナが脚部不安のために取り消し、6頭立てになってしまいます。fast の馬場、ダート・コースは初体験(デビュー勝ちはキーンランドのポリトラック)ながらライヴァル不在となったノー・ネイ・ネヴァーが2対5の断然1番人気。
ダッシュ良く飛び出したノー・ネイ・ネヴァーでしたが、ハナっ速い2番人気(7対2)キャント・ストップ・ザ・キッド Can’t Stop the Kid のスピードに譲って2番手待機。楽にレースを進めていたように見えましたが、逃げ馬が急速にバテて後退したのに拍子抜けしたか、後方2番手から外を回って追い上げた4番人気(9対1)のスポット Spot に並ばれるとあっけなく先頭を譲り、結局はスポットに2馬身半遅れの2着に終わる波乱です。更に1馬身4分の1差で最低人気(25対1)のブラザーオブザタイム Brotherofthetime が3着。
勝ったスポットは、前走ハッチェソン・ステークス(GⅢ)5着のあとジェームス・ディヴィート厩舎からオーナーが替ってニコラス・ジート厩舎に転じての初戦。鞍上ホセ・レズカノも同馬には初騎乗でした。これで6戦2勝、去年10月にホーソン競馬場の6ハロンで未勝利を脱して以来の勝鞍で、もちろんステークスもG戦も初勝利となる芦毛のせん馬です。意外な形で初黒星を喫したノー・ネイ・ネヴァー、初ダート、予定外の展開など敗因は予測の域を出ませんが、もちろんこれで終わったわけではなく、フロリダ・ダービーで捲土重来を期したいところ。

ガルフストリームのもう一鞍も同じ3歳馬のG戦ですが、アメリカではマイナーな芝コースのパーム・ビーチ・ステークス Palm Beach S (芝GⅢ、3歳、9ハロン)。ダートに変更された時に出走予定の1頭が弾かれての12頭立て。G戦初挑戦ながら3連勝中のストーミング・インティ Storming Inti が5対2の1番人気に支持されていました。
そのストーミング・インティがスタートから先手を奪い、逃げ切りを図ります。2番手を争っていた1頭で5番人気(8対1)のガラ・アウォード Gala Award がシッカリした足取りで本命馬を射程圏に捉えると、最後方から一気に追い込むミスター・スピーカー Mr Speaker を何とか半馬身凌ぎ切っての逆転劇。首差でストーミング・インティが3着に粘りました。
勝ったガラ・アウォードは、珍しくもトッド・プレッチャー厩舎の馬ながら人気が無かった存在。ジョン・ヴェラスケスが騎乗していました。プレッチャー/ヴェラスケスでも単勝9倍だったのは、これが未だ3戦目で前走ガルフストリームの芝で未勝利戦に勝ったばかりだったから。デビュー戦(やはりガルフストリーム)は2着で、もちろんステークスもG戦も初挑戦でした。プレッチャー師は意外にもパーム・ビーチ初勝利。オーナーはクールモアで、半兄ストーメロ Stormello はハリウッド・フューチュリティー(GⅠ)勝馬、マイ・ベスト・ブラザー My Best Brother もデル・マー・ダービー(芝GⅡ)勝馬という良血馬で、芝のスペシャリストと限定すべき血統ではありません。当然ながらケンタッキー・ダービーも狙える器と見ました。

土曜日最後は、サンタ・アニタ競馬場から牝馬のクラシック戦線として注目されるサンタ・イザベル・ステークス Santa Ysabel S (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。去年は1月末に行われましたが、今年はよりオークスへの重要度を増す3月初めの施行となりました。西海岸は一転して雨が降りしきる中、コースは泥田のようのようになりましたが、それでも fast と発表された馬場。3頭が取り消し、5頭立ての寂しいメンバーになりました。前走サンタ・イネズ・ステークス(GⅡ)勝馬のオウサム・ベビー Awesome Baby が中心と思われましたが、意外にも3対2の1番人気に支持されたのは出走馬中の稼ぎ頭である5戦3勝2着2回と堅実なスイス・レイク・ヨーデラー Swiss Lake Yodeler 、G戦初勝利を目指します。
ダッシュ良く先手を奪ったのは3番枠スタートで2番人気(2対1)のオウサム・ベビー、人気のスイス・レイク・ヨーデラーは2~3番手で追走する流れ。この馬場では先行有利は明らかで、2番手を争っていた3番人気(5対2)のアーテミス Artemis が前を楽に逃がしてはならじと早目に追撃を仕掛けますが、オウサム・ベビーのスピードは一枚上、そのまま後続を寄せ付けず2馬身4分の3差の逃げ切り勝ちです。アーテミスが積極的に追うも2番手のまま、スイス・レイク・ヨーデラーは更に半馬身差の3着に終わりました。典型的な行った行ったの競馬。
ボブ・バファート厩舎、マイク・スミス騎乗のオウサム・ベビーは、前走サンタ・イネズでの勝利は短距離(6.5ハロン)でのもの。コーナーを二度回る距離では、去年9月のシャンデリア・ステークス(GⅠ)で7頭立て5着に敗れていました。今回1番人気に成らなかったのは、やはり距離不安が懸念されていたからでしょう。この勝利でケンタッキー・オークスへの10ポイントを獲得。

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