キングマン復権

先週末のヨーロッパはビッグ・レース目白押し。その大事な時に留守をしていたため、書くべきレポートが山積みになっています。何処から手を付ければ良いのか迷いますが、やはり順序良く消化して行くのが筋でしょう。
ということで最初に取り上げるのは5月24日土曜日の結果。この日はアイルランドとイギリスでG戦が行われましたが、アイルランドのカラー競馬場で行われたギニー・フェスティヴァルから。

メインはもちろん愛2000ギニーですが、結果は既にご存知でしょうから、ここはレース順にレポートして行きます。この日は雨で馬場は極めて重く、直線コースは soft 、1マイルの周回コースは soft to heavy で行われました。

最初のグリーンランズ・ステークス Greenlands S (GⅢ、3歳上、6ハロン)は直線の6ハロン・コース。soft の馬場に6頭が出走してきました。当ブログでは度々紹介しているように、ヨーロッパの短距離戦は英国勢が断然強く、このレースもイギリス馬の草刈り場になっています。
ところが今年は英国からの参戦は1頭も無く、やや趣の異なる一戦。アベイ・ド・ロンシャン賞の勝馬で、前走デューク・オブ・ヨーク・ステークス(GⅡ)にも勝って重馬場適性も証明しているマーレク Maarek が11対8の1番人気に支持されていました。

レースは最低人気(20対1)のアン・サイジュール An Saighdiur がいくらかでも馬場状態の良いスタンド側を逃げ、マーレクは後方2番手で待機。逃げ馬が渋太く粘るところ、3番手に付けていた2番人気(5対2)のスレイド・パワー Slade Power が外からこれを捉えで先頭。マーレクもこれを追って更に外から追い上げましたが2馬身及ばず。粘ったアン・サイジュールが1馬身4分の3差で3着に粘っています。
エドワード・ライナム厩舎、ウェインローダン騎乗のソール・パワーは、これが今期初戦ながら去年秋にアスコットでブリティッシュ・チャンピオン・スプリントに優勝した5歳馬。その後の香港遠征ではロードカナロアに完敗でしたが、じっくり調整を重ねての復帰初戦。去年のこのレースは1番人気に推されながら3着でしたが、見事に雪辱を果たしました。予定されている次走、ロイヤル・アスコットのダイアモンド・ジュビリー(GⅠ)には6対1のオッズが出されています。

そして愈々アイルランド今年最初のクラシック・レースとなるアイルランド2000ギニー Irish 2000 Guineas (GⅠ、3歳、1マイル)。事前に紹介した14頭の登録から3頭が取り消し、特に5頭を揃えたオブライエン厩舎の1番手ウォー・コマンド War Command が取り消してファンをガッカリさせています。同馬に騎乗を予定していたジョセフ・オブライエンは、替ってヨハン・シュトラウス Johann Strauss を選択、当初予定していたハッセー騎手が下りることになりました。日本ではあり得ない騎手変更ですね。
ニューマーケットでは断然1番人気になりながら、展開の綾などもあってナイト・オブ・サンダー Night of Thunder の奇襲に会って2着に敗れた感のあるキングマン Kingman がここでも4対5と2倍を切る1番人気。

レースは英2000ギニー4着馬で3番人気(7対1)のシフティング・パワー Shifting Power が思い切って先頭に立っての逃げ作戦、10頭を引き連れて馬場の良いスタンド側のラチ沿いを選びます。4頭に減ったオブライエン軍団のマイケルマス Michaelmas が2番手を追走し、1番枠発走のキングマンは前半は後方、一団となった馬群の外に待機して機を窺います。
シフティング・パワーを追って抜け出したのは2番人気(4対1)のムスタジーブ Mustajeeb と本命キングマンの2頭。大外のキングマンが最後の1ハロンで相手2頭を突き放すと、スタンド側を逃げ粘ったシフティング・パワーに5馬身の決定的な差を付けて念願のクラシック制覇を果たしました。2馬身差でムスタジーブが3着、更に6馬身差が開いてチーム・オブライエンのヨハン・シュトラウスが4着に入っています。

楽勝と見做しても良いキングマンは、英国のジョン・ゴスデン厩舎、ニューマーケットでは悔しい思いをしたジェームス・ドイル騎乗。前走で初めて土が付きましたが、ここで復権してマイラーとしての存在感が高まりました。オーナーのハーリッド・アブダッラーを総裁に頂くジャドモントは、“この馬をクラシック・ホースにしたい、いやしなければならない”という陣営の強い信念を背負った馬でもあります。
このあとはロイヤル・アスコットのセント・ジェームス・パレス・ステークス(GⅠ)が目標、同じく参戦表明しているナイト・オブ・サンダーとの雪辱戦は大注目。ブックメーカーは同レースのオッズを、キングマンにイーヴン、英2000ギニー馬には5対2を出しました。やはり最初のクラシックで敗れたとは言え、キングマン優位と見ているのは間違いないでしょう。今年のアスコット、最大の目玉です。

カラーのG戦3連発、最後はランウェイズ・スタッド・ステークス Lanwades Stud S (GⅢ、4歳上牝、1マイル)。去年はアブ・デュパイ・ステークス Abu Dubai S 、その前はリッジウッド・パール・ステークス Ridgewood Pearl S として行われていたもので、2004年創設ですから今年が未だ11回目。レース名も固定していないGⅢです。
出走馬は14頭。フランスからエイダン・オブライエン厩舎に移籍、その初戦として前走アサシ・ステークス(GⅢ)2着で順当に新シーズンを迎えたピース・バーグ Peace Burg が7対2の1番人気。

レースはスイッチャー Switcher が逃げ、後方2番手で待機していた9番人気(20対1)のパー・アロング Purr Along が末脚を爆発させ、4番手から抜けた2番人気(4対1)フィエソラーナ Fiesolana に半馬身差を付ける番狂わせです。1馬身半差で2番手を追走していた4番人気(7対1)のプリンセス・ルールー Princess Loulou が3着に入り、ピース・バーグは10着敗退。
勝ったパー・アロングは、本命ピース・バーグ同様に今シーズンから新天地に活路を見出した1頭。去年まではフランスでウイリアム・ミュイール師の管理下にあり、2歳時にはドーヴィルのカルヴァドス賞(GⅢ)に勝つなど、GⅠ戦にも何度か挑戦していた常連。去る12月に100万ギニーでカタール・レーシングが競り落とし、アイルランドのジョニー・ムルタ厩舎に転厩してのこれが初戦です。去年の最終戦はニューマーケットのリステッド戦での5着でした。

最後にイギリスから、ヘイドック競馬場で行われたテンプル・ステークス Temple S (GⅡ、3歳上、5ハロン)を取り上げましょう。雨で馬場はこちらも soft 。残念ながら前走パレス・ハウス・ステークス(GⅢ)を制したソール・パワー Sole Power が取り消しての9頭立て。
歴戦の古馬に混じって3歳馬が2頭挑戦してきましたが、9対4の1番人気に支持されたのは、その3歳の1頭で前記パレス・ハウス・ステークスでも3着しているホット・ストリーク Hot Streak 、現時点で古馬を差し置いて人気になるのは、将来性が高く評価されている証でもあります。

逃げ馬フスティネオ Justineo が飛ばし、これを2番手で追走したホット・ストリークが捉えます。後続から追い上げてきたのは、中団に待機していた2番人気(10対3)のパール・シークレット Pearl Secret 。スタンド側に進路を変えてホット・ストリークを追いましたが、本命馬も余力を残しており半馬身差で見事期待に応えました。3馬身差が開いて9歳の古豪で去年の覇者、4番人気(8対1)キングスゲート・ネイティヴ Kingsgate Native が3着。1着ホット・ストリークと2着パール・シークレットは共にシェイク・ファハド氏を総裁に頂くカタール・レーシングの持ち馬で、同じオーナーのワン・ツー・フィニッシュでもありました。この日カラーのランウェイズ・スタッド・ステークスも勝ったカタール・レーシングにとっては最良の一日だったでしょう。

勝馬を管理するケヴィン・ライアン師は、“私がこれまで調教した中で最高の馬”と些か興奮気味。騎乗した弱冠18歳のオイシン・マーフィー Oisin Murphy 騎手は去年の今頃デビューし、去年6月に初勝利を挙げたばかりですが、10代の天才騎手として期待されている新人。今回がもちろんこれまでで最高の成果で、“今夜は眠れません”とこれまた興奮を隠し切れない様子。
馬も3歳ながらスター性充分で、2歳時にはアスコットのコーンウォーリス・ステークス(GⅢ)に勝っており、今年のロイヤル開催ではキングズ・スタンド・ステークス(GⅠ)に挑戦する予定。オッズは6対1が出されています。

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