雨の蒲田・アプリコ

“今日は上空に寒気が流れ込み、天気は不安定になります。所によっては雷を伴って激しい雨が降る惧れがありますから注意してください”という予報を、この春になってから何度聞いたことか。
やはり異常気象、地球温暖化の影響に違いありません。
地球温暖化というのは毎日がハワイになるのではなく、天気が荒れること。異常に暑い日もあれば、逆に寒い日もある。
「地球温暖化」なら毎日暖かくていいじゃないか、という誤解を生み易いので、名称を改めたほうがいいと思いますね。

ということで昨日(5月31日)の東京首都圏は夕方から雷雨、JRの車内放送によると、横浜線は集中豪雨のため運転中止の由。
そんな中を皆さん傘をさして蒲田のアプリコに向かいます。読売日響の新シリーズ、「アプリコ&読売日響」の第1回目を聴くために。

ホールに辿り着いて傘を置こうとしましたが、傘立てが見当たりません。仕方なく係員に聞くと、“あいにく傘立てはございません。傘袋に入れて各自ホールにお持ち下さい”という。これは良くないですよ、アプリコさん。
傘袋がガサガサするし、ホールに湿気が充満する。音楽を聴く場所でしょ、チョッとは考えなくちゃ。
今日のプログラムは、

ベートーヴェン/交響曲第1番
マーラー/交響曲第1番
指揮/下野竜也
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/鈴木理恵子
でありました。

私共の席は1階10列17・18番。このホールは小振りで、ステージも決して広くありません。この日のように大編成のオーケストラが乗る場合は、普段の客席を5列分犠牲にしてステージを増設しているのじゃないでしょうか。たまにしか来ないホールなので憶測ですが、10列というのは事実上5列目に相当します。
チョッと前過ぎかな、というのは最初の懸念ですが、これは当たりでしたね。

アプリコはステージが比較的低く、客席も10列目(実際の5列目)では既に段差が設けてあるので、指揮者と同じ目線になります。例えばオーチャードホールや東京オペラシティなどの同じ位置では演奏者が目の上遥かに位置することになり、音が上に抜けていく不満があるのです。
ところがここアプリコは理想的なバランスで聴こえてきました。ホールの音響や当日の聴環境は別にして、正に最高のオーディオ・システムを理想的なセッティングで聴いている状態。

今飛ぶ鳥を落とす勢いの下野氏と、絶好調・読売日響が悪いわけがないでしょ。素晴らしいナマ体験でした。
これ以上言うこともないのですが、この2曲はベートーヴェンにしてもマーラーにしても若さの漲る作品。若手指揮者はそのことに何の躊躇もなく、思いのままをぶつけて音楽を進めていきます。何より思い切りの良さ、そして適切な判断と素早い切替、胸のすくような演奏です。得てしてそのくどくどしさに辟易し勝ちなマーラーの終楽章も、手に汗を握るほどの推進力と集中力。退屈とは無縁の世界です。

これだけステージに近いと、演奏者の表情が手に取れるように判ります。各プレイヤーの楽しそうなこと。特にヴィオラ首席の鈴木康浩さん、トランペット首席の長谷川潤さん。もう、演奏するのが楽しくて楽しくてたまらん、という感じです。
“読響は変わったなぁ”。ホントにそう思いました。かつては音を出す前から重くて暗い雰囲気が漂っていた同じオーケストラとは思えません。
この意識改革がどのようにして達成されたのか。このノウハウを是非伝授して頂きたいオーケストラがいくつかありますね。

ティンパニは菅原淳さん。そろそろ引退を迎えますが、だからという訳ではなく、その妙技を堪能しました。マーラーにはティンパニの聴かせ所が随所にありますね。しっかりと耳に焼き付けてまいりましたヨ。
新シリーズは大成功ですね。特にマーラー、知っている人も知らない人も、改めてオーケストラ演奏をナマで体験することの素晴らしさを実感できたのではないでしょうか。

今後の展開を大いに楽しみにしています。その前にアプリコさん、傘立て用意しておいてくださいな。スペースはあるんですから。なんなら寄付しましょうか、隣町に住む誼で・・・。

 

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