読売日響・第88回芸劇マチネー

演奏会の直前になって気が変わり、電話予約の形で読売日響の「東京芸術劇場マチネーシリーズ」を聴いてきました。席はB、直ぐ後ろの列はC席という、3階C列29・30番であります。
ここの3階というのは初体験でしたが、会場でお会いした旧友によれば“結構いい音しますよ”。なるほど、これなら満足、という結果でした。それもこれもオーケストラと指揮者が良いからなんですがね。
このコンサートをキーワード一言でまとめると、「コンパクト」でしょうか。

プログラム前半はドヴォルザークの交響曲第7番。休憩を挟んでスクロヴァチェフスキの「ミュージック・アット・ナイト」とストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」(1919年版)というもの。
指揮はもちろんスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ、コンサートマスターは小森谷巧、フォアシュピーラーが鈴木理恵子という組み合わせであります。

ドヴォルザークの交響曲が最初に置かれましたが、この曲の楽器編成は、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部です。今更何を、と思われるかもしれませんが、チョッと待ってね。弦は普通に16型。
定期では対抗配置で客席を驚かせましたが、今日はいつものパターンです。やはり対抗型は大フーガのための特別版だったことを確認しました。

演奏は気力が漲り、特に木管やホルンをよく響かせた、如何にもドヴォルザークという「森の響き」がします。ヴィオラ、チェロ、コントラバスのカチッと締まった響きもいつもの読響のもの。
マエストロはかなり自由にテンポを揺らし、例によって鋭い視点で作品を解き明かしていきます。

例えば第4楽章ではやや響きが曖昧になって、作品としての完成度が今一つと感ずる箇所もあるのですが、ミスターSの手にかかると、響きの中に埋もれているようなパッセージが鮮やかに浮かび上がり、作品の弱さを全く意識させません。
これも毎度の事ながら、X線透視術による指揮の魔術なのです。
スクロヴァチェフスキ氏がいつまでも若く、精力的に指揮できる秘訣はここにあるんですな。スコアを常に新しい視点で読む。肉体は年齢に応じて衰えていくでしょうが、頭脳は決して退化しませんね、この人。

後半はスクロヴァチェフスキの自作品。「ミュージック・アット・ナイト」は1948年か1949年の作品ということで、その年にパリまたはニースで初演された、とプログラムに掲載されています。真にもって要領を得ません。「ウーゴとパリジナ」というバレエ組曲から抜粋し、4つの楽章はすべて物語の音楽部分だけで構成されています、という解説。
よく判りませんね。バレエ全曲からの抜粋ではなくて、組曲からの抜粋? 組曲はどういう構成なんでしょうか。
音楽部分だけ、ということは、このバレエには音楽以外の要素(歌とか)もあるんでしょうか。読めば読むほど解らない解説です。別に挙げ足を取っているんじゃないですよ。

さて3階席なので編成がよく判りました。
フルート2(2番奏者はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番奏者はイングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、サクソフォン1、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、打楽器3、ピアノ、ハープ、弦5部です。打楽器は、第1奏者が大太鼓、第2がドラとシンバル、第3が小太鼓とボンゴ? というもの。

何が言いたいか、というと、これはドヴォルザークの編成にサクソフォーン、チューバ、3人の打楽器、ピアノ、ハープが加わっただけなのですよ。基本は全く同じ、弦も16型。
種明かしをすると、このメンバーからサクソフォンが抜けるだけで、ストラヴィンスキーが演奏出来るのです。打楽器の3人が扱う楽器は多少変わりますが、実際の所オーケストラは全く同じメンバーで演奏しました。
キーワードが「コンパクト」と言ったのは、このことです。

ミスターSは、自作だけはスコアを置いて指揮します。前回の客演時に管弦楽のための協奏曲を指揮したときも同じ。
ストラヴィンスキーと同じ編成、と言うわけでもないでしょうが、全体にクールでメロディック、特に奇抜な効果を狙った所の無い、それでいて新しさを感じさせる作品でした。
ストラヴァチェフスキ、と駄洒落の一つも口をついて出てきます。
大きな“ブラヴォ”が一つかかりました。

ということでストラヴィンスキー。これは文句無しですね。オーケストラの実力とスクロヴァチェフスキの怜悧なる棒捌きを堪能しました。
その中にもスクロヴァ先生ならではの工夫があります。

その一つ。子守歌ではピアノの横にチェレスタが準備してあり、どちらで弾いても良いという指定の箇所をチェレスタで演奏していました。
更にこの子守歌では、ファゴットのメロディーが再現する箇所で、楽譜では最初と違って吹く箇所を統一し、譜面を書き換えて演奏していました(別にスクロヴァチェフスキの専売特許ではありませんが)。

アンコールはなし。もう少し聴きたいな、という感じもしますが、そこはマチネー、腹八分が相応しいでしょう。
先日の定期が正餐とすれば、これはランチ。休日の午後、終演後も陽はまだ長く、若干の空腹感と大きな満足感を味わった、素敵なコンサートでした。

 

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