読売日響・定期聴きどころ~08年9月

 9月はスクロヴァチェフスキ登場、3種類のプログラムが披露される予定です。聴きどころはいつものように定期と名曲。先ずは先に行われる定期聴きどころから始めましょう。
曲目はブラームスの第3交響曲、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番、ショスタコーヴィチの第1交響曲という3本立て。3曲に何か共通のテーマがあるかと考えていましたが、思い当たりません。
ブラームスとショスタコーヴィチはご存知の方も多いと思いますので、先ずシマノフスキを取り上げましょう。
日本初演はこれでしょうか。
1983年2月19日 東京文化会館 堀米ゆず子(ヴァイオリン)、渡邉暁雄指揮東京都交響楽団
続いて楽器編成は、
フルート3(第3フルート、ピッコロ持替)、オーボエ3(第3オーボエ、イングリッシュホルン持替)、クラリネット3(第3クラリネット、ESクラリネット持替)、バス・クラリネット、ファゴット3(第3ファゴット、コントラファゴット持替)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器4人、ハープ2、チェレスタ、ピアノ、弦5部。打楽器はトライアングル、鐘、小太鼓、シンバル、大太鼓、タンバリン。弦5部は、12-12-8-8-6という指定になっています。
シマノフスキについての解説や作品の作曲経緯などはプログラムをご覧ください。
私が9月定期で一番楽しみなのは、スクロヴァチェフスキの指揮でシマノフスキが聴けることです。マエストロは、単に同じポーランドの先輩作曲家を紹介する以上の意気込みでこの定期に臨むことが期待されます。例えばシマノフスキは4曲の交響曲を書いていますが、その第2交響曲はスクロヴァチェフスキ自身が改訂に携わっているほどなのですね。
そのヴァイオリン協奏曲第1番、今回はアリョーナ・バーエワのソロで演奏されます。ヴァイオリン協奏曲と言えばメンデルスゾーン、ブラームス、ブルッフ、チャイコフスキーなどを思い浮かべますが、シマノフスキはそういうロマン派の協奏曲とは全く趣が異なります。敢えて近いものはベルクでしょうか。実際、ベルクがヴァイオリン協奏曲を作曲する時に手本にしたのがシマノフスキだそうですね。
シマノフスキはR.シュトラウスやフランス近代音楽の影響を受けていますので、所々でシュトラウスやドビュッシーが顔を出します。しかしこの協奏曲は既に独自の音楽語法を確立した時期の作品ですので、シマノフスキ独特の響きを味わうのが筋というものでしょう。
まず注意して聴きたいのは冒頭でしょう。いかにも東洋的、異教的な雰囲気で始まりますし、聴こえてくるのは鳥や虫の鳴き声のようにも思えます。この作品には同郷の作家ミチニスキの「5月の夜」を読んだ印象が根底にあるそうですが、この冒頭などは正に「夜の音楽」でしょう。その意味ではハンガリーのバルトークにも通ずる音楽だと思います。
単一楽章で書かれていますが、全体はいくつかの部分に分けられます。スケルツォ風な速い音楽、夜想曲風なゆったりとした音楽、多彩なオーケストレーション、最後の方にカデンツァがありますが、これはシマノフスキの友人で名ヴァイオリニストだったパウル・コハンスキの作です。
最後は冒頭の「夜の音楽」が回想され、コントラバスのピチカート(ラ)で静かに終わります。
次にブラームスの交響曲第3番、日本初演はこれだそうです。
1927年10月23日 日本青年館 ヨゼフ・ケーニヒ指揮新交響楽団(現N響)第15回定期演奏会。
楽器編成は標準的な2管編成で、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部。コントラファゴットが使われていますが、ブラームスはこの楽器が好きなようで、4曲ある交響曲の内コントラファゴットを使わないのは第2番だけですね。
ところでブラームスの第3は、スクロヴァチェフスキが読売日響に初登場した時の最初の曲目なのですね。そのとき聴かれた方は少ないかも知れませんが、マエストロと読響の出会いの作品だということを頭の片隅に置いて聴かれるのも一興ではないでしょうか。
一般的な解説書には、第3はブラームスの「英雄交響曲」と呼ばれているということが書かれていますね。初演を指揮したハンス・リヒターが命名したのですが、これは当たっているとは思えません。
また冒頭の金管に出てくる主題がF-As-Fで、これがブラームスのモットーである Frei aber Froh (自由に、しかし楽しく)のイニシャルであるという解説もよく見かけます。確かに第1楽章はこのモチーフを徹底的に使いますし、第2楽章にもチョロッと出てきます(106~107小節のホルン)。第4楽章の最後にも、全体を回想するような感じでこのモチーフが鳴らされます(277~278小節のホルン)。
しかし aber がAではなくAsというところは、この解説の説得力がイマイチという感じがしますね。その辺がブラームスらしいと言えばそれまでですが、作品全体が長調なのか短調なのか曖昧という原因でもありますし、それこそが第3交響曲の魅力と言えるのも事実でしょう。
更に4つの楽章の全てが消えるように終わるのがこの作品の特徴、という解説もあります。これも改めて見直すと、ブラームスの4つの交響曲、夫々4つある全16楽章のうち、ドカンと大きな音で終わるのは、第1の終楽章、第2の終楽章、第4の第2楽章以外の3楽章だけ。残りの11楽章は全て消え入るように終わります。確かに全楽章が静かに終わるのは第3だけですが、この終わり方を捉えて第3交響曲の特徴というのも当たらないような気がします。
私が第3で一番好きな箇所、それは第3楽章のオーケストレーションですね。この楽章は三部形式ですが、主部が帰ってくる第3部。ホルンがメランコリックに主題を吹くところも素敵ですが、これがオーボエに繰り返された後、第1ヴァイオリンで切々と歌われるところが私の最大の聴きどころです。
ここ、実は第1ヴァイオリンが二部に分割(ディヴィジ)され、各プルトの表と裏が1オクターヴ離れて主題を歌うのですね。このことから来る微妙なハーモニー、全員が同じ高さで弾くのではなく、オクターヴの開きがあることによって生まれる壊れやすく儚い響き。これこそブラームスっ! と思わず叫んでしまうほど素敵な瞬間。とかく古臭いといわれるブラームスですが、このオーケストレーションの「新しさ」に注目して欲しいですねぇ~。
最後にショスタコーヴィチの第1交響曲です。日本初演は恐らくこれ、
1931年10月25日 日本青年館 山田耕筰指揮新交響楽団(現N響)第96回定期演奏会。
楽器編成は、フルート3(第3奏者は第1ピッコロ持替、第2奏者は第2ピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンバ・コントラルタ、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器4人、ピアノ、弦5部。打楽器は小太鼓、トライアングル、タムタム、グロッケンシュピール、シンバル、大太鼓。スコアによっては冒頭ページの使用楽器欄にタムタムが落ちているものがあります。
トロンバ・コントラルタ Tromba Contralta という耳慣れない楽器が使われていますが、コントラルトの音域を持つF管のトランペット。19~20世紀のロシアの作曲家がスコアに指示している楽器ですが、通常はB♭のトランペットで代用しています。今回もトランペットが使われるでしょうが、本来はよりドスの効いた音が望ましいパートですね。
さて、これはショスタコーヴィチが未だ二十歳のときの作品です。ブラームスの第3交響曲が作曲者50歳の時の作品だったのとは好対照。正にその若さを感ずること、にもかかわらず後年のショスタコーヴィチの「らしさ」が全部出揃っていることを体感することが聴きどころだと思います。
ショスタコーヴィチのオーケストレーションの特徴として、楽器をソロで扱う場面が多いという点が挙げられると思います。
第1交響曲では、スコアの中に「ソロ」あるいは複数に対する「ソリ」という指定が多く見られます。ザット数えた限りでも、第1楽章に44箇所、第2楽章では8箇所、第3楽章に11箇所、第4楽章では13箇所あります。合計すれば76箇所。ソロという指定が与えられている楽器も、第2クラリネット、第2トランペット、小太鼓、ティンパニ、トロンバ・コントラルタ、チューバ、グロッケンシュピールなど他の作曲家ではあまり見かけないものも多いですね。
更に弦楽器の分割、つまり「ディヴィジ」という指示も徹底していて、例えば第1楽章の練習番号18など第1ヴァイオリンがソロ4人とその他、第2ヴァイオリンとヴィオラも同じ、チェロとコントラバスもソロとその他という具合で、弦楽器は全部で19声部にも分割されているほど。ここなどもショスタコーヴィチの独特なオーケストレーションを味わえる聴きどころだと思います。このあたりを名匠スクロヴァチェフスキがどのように聴き手の耳に意識させるか、私はここに注目しています。

 

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください