アンサンブルシリーズ2006・第4回

昨日、3月10日はミューザ川崎で行われたアンサンブルシリーズから、ウィハン弦楽四重奏団のコンサートを聴いてきました。
ウィハンQ、メンバーは第1ヴァイオリンがレオシュ・チェピツキー、第2ヴァイオリンはヤン・シュルマイスター、ヴィオラをイジィー・ジイックモンド、チェロがアレシュ・カスプジークという面々です。チェコを代表する若手グループの一つですね。

私はこのクァルテットについては出遅れで、今回が初体験でした。巷の評判が良かったので期待して出掛けましたが、噂に違わぬ優れた団体であることを確信してきました。
プログラムによると、1995年9月の初来日での演奏が、その年度の音楽の友社主宰・マイベストコンサートの1位に選ばれた由です。

今回のプログラムは、ハイドンの作品64の5、有名な「ひばり」に始まり、モーツァルトのいわゆるウィーン四重奏曲の最後、ニ短調K173が続きます。
更にベートーヴェンのラズモフスキー第3番とドヴォルザークのアメリカ。

弦楽四重奏曲の定番といえる作品で構成されています。ここミューザでは弦楽四重奏の演奏会は決して多くはなく、その意味では先ず馴染み易い曲から聴きましょう、という意図があったように思います。
休憩はベートーヴェンの後で入り、前半がウィーン古典派、後半はウィハンのお国ものという按配。
ハイドン後の拍手に応えた後、彼等はそのまま続けてモーツァルトを弾きました。そのあと一旦舞台裏に下がり、拍手のまま再登場してベートーヴェンも続けて演奏します。

感想を一言で言えば、一筆書きでしょうか。サーっと一気に弾き切ってしまう爽快感がありましたね。
そもそも完全に手の内に入れているレパートリーでしょうから、ある意味で余裕綽々という趣があったと思います。
四人の内、第1ヴァイオリンは比較的に線が細いというか、やや女性的な印象があります。もちろん悪い意味ではありません。対して第2ヴァイオリンが骨太。男性的な役割でしょうか。
この感じは低音組にも言えて、ヴィオラが堂々たる音色なのに対し、チェロは細やかな音色で歌うのでした。
これは比較的にの話であって、全体のバランスがこういう単純な図式で成り立っているわけではありません。あくまで比喩。

後半のドヴォルザークは、例えばチェコ・フィルが来日すれば必ず新世界を演奏するようなもので、名刺代わりの一曲でしょう。手馴れた、というと安直な表現で相応しくありませんが、真にこれぞアメリカ、という演奏でしょう。
ところでベートーヴェンでチョッとした事故がありました。聴衆がクァルテットに不慣れ、ということもあったのでしょうが、フィナーレで一旦終わったような箇所で拍手が起きてしまいました。false applause 。第1ヴァイオリンがチョッと客席に目をやってそのまま無視して弾き続けましたが、やや残念な瞬間でしたね。

ところが、です。
アンコールにハイドンの「冗談」からフィナーレが演奏されました。線の細い第1ヴァイオリン・チェピツキー氏が太い声で曲名を告げます。
私は一瞬、冗談かと思いましたよ。クァルテット・ファンならご存知の通り、これはハイドンのユーモアが最高レヴェルで発揮された楽章で、どこで終わったのか判らないようなトリックが仕掛けてありますね。もちろん熟練した聴き手なら起承転結がハッキリしていて、場所を間違うことはありません。
さっきベートーヴェンでミスした聴衆にこのアンコールとは・・・。

ところが驚いたことにミューザの聴衆は、拍手を間違えるどころか、最後の最後、ユーモアの極みで微かなる笑い声を立ててみせたのです。これ最高。何と素晴らしい聴衆であったことよ。
たった1回のミスを瞬時に学び、挽回してしまう高度な聴衆をここに発見しました。
少し誉めすぎかな。いやぁ、素晴らしいコンサートでしたね。ここでもっと頻繁に室内楽コンサートを開催してくれることに期待しましょう。

 

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