2015クラシック馬のプロフィール(4)

直ぐに続けて仏1000ギニー勝馬の血統プロフィールを取り上げます。横綱相撲と言うか、女王の貫録で圧勝したエルヴェディヤ Ervedya です。
エルヴェディヤは、父シユーニ Siyouni 、母エルヴァ Elva 、母の父キングズ・ベスト Kings Best という血統。

最初に父のシユーニに付いて簡単に触れると、昨日紹介した仏2000ギニー馬メイク・ビリーヴ Make Believe の父マクフィ Makfy と同期の2007年生まれで、エルヴェドヤはその初年度産駒。去年、シユーニは初年度産駒のリーディング・サイアー部門で首位に輝いています。
シユーニ自身も2歳時に能力の頂点に達しており、その年6戦目でジャン=リュック・ラガルデール賞(GⅠ)を制しています。当然ながら仏2000ギニーを目指しますが、ロぺ・デ・ヴェーガ Lope De Vega の9着に敗退、クラシック馬にはなれませんでした。それどころか3歳馬としては1勝も出来ずに引退、そのまま種牡馬になります。
この成績からは2歳馬に特化した種馬のようにも見えますが、無事に初年度産駒からクラシック馬を輩出、これからもマイラー系を中心に産駒が活躍すると思われます。もちろん配合によってはより長距離も克服できると思いますが、その辺りも注意しながらエルヴェディヤの牝系を見ていきましょう。

母エルヴァ Elva (2004年 鹿毛)はエルヴェディヤと同じアガ・カーン氏の所有馬。アガ・カーンと言えば牝系を大事にしてジックリ育成する生産者でもあり、このファミリーは4代母まで全てが氏の生産・所有になるもの。更には戦前からフランスの大オーナー・ブリーダーだったマルセル・ブーサック氏が亡くなった時、その所有繁殖牝馬たちを大量に引き取った牝系でもあります。ブーサック→アガ・カーンと続いていくフランスの名門と言えましょう。
さてエルヴァ、今年の仏1000ギニー馬と同じくジャン=クロード・ルジェ師が管理した馬で、2歳時にボルドーの1850メートル戦でデビュー勝ち。2歳はこの1戦のみで、3歳初戦のサン=クルーで一般戦に連勝しましたが、勝鞍はそれが最後。その後はヴァントー賞(GⅢ)2着、サンドリンガム賞(GⅡ)4着、リューリー賞(当時はリステッド)5着、ボルドーのリステッド戦4着、ロンシャンのリステッド戦6着で現役を終えます。現在まで母としての成績は以下の通り。

2009年 エルマル Elmal 鹿毛 せん 父ダラカニ Dalakhani 未出走?
2010年 エラユーナ Elayouna 牝 父ドクター・フォン Dr. Fong 未出走?
2011年 エナーヤ Ennaya 鹿毛 牝 父ナイェフ Nayef 3戦未勝利2着1回 ルジェ厩舎で走り、去年シャンティー4着、タルブ2着、ドーヴィル4着の3戦 現役?
2012年 エルヴェディヤ

データが揃わないので明言は出来ませんが、恐らくエルヴェディヤは母の4番仔で最初の勝馬に当たるようです。

2代母はエヴォラ Evora (1999年 鹿毛 父マージュ Marju)と言い、アガ・カーンでもアイルランドで走った馬。管理したのはジョン・オックス師で、2歳時に3戦1勝3着1回とレース経験は極く僅かでした。勝鞍は最後の3戦目、フェアリーハウス競馬場の9ハロンでのもの。
調べた限りでは、その産駒はエルヴァの他に牝馬が1頭とせん馬が1頭いるだけのようで、あるいは早逝してしまったのか、余程受胎率が悪いのか、詳しいことは調べが付いていません。

3代母エヴィルナ Eviyrna (1989年 鹿毛 父ザ・ミンストレル The Minstrel)も2戦未勝利とレース成績はほとんどなく、4代母エウリーヤ Euliya (1981年 黒鹿毛 父トップ・ヴィル Top Ville)に至って漸くG戦クラスの馬が登場します。
エウリーヤは5戦4勝とやはりレース回数は少なかった馬ですが、ロワイヤリュー賞(GⅢ)の他にリステッド戦にも2勝しています。2歳時は出走せず、3歳デビュー戦(2100メートル)が2着。2戦目にドーヴィルの2000メートルで初勝利を挙げると、その後は4連勝し、ロンシャンのリステッド戦(トゥーレル賞、2400メートル)、エヴリーのリステッド戦(ジュベール賞、2400メートル)、そして1月のロワイヤリュー賞(2500メートル)でキャリアのピークに達します。勝鞍は2000メートルから2500メートル、その多くが重馬場でのものと、典型的なフランス長距離タイプだったと言えそうです。

そして5代母ユーモニア Eumonia (1975年 黒鹿毛 父アブドス Abdos)に至って、マルセル・ブーサックのファミリーに繋がります。ユーモニアは8戦1勝で勝鞍は2100メートルでのものですが、このファミリーからGⅠ級の馬が出るのには更に2代遡らなければなりません。
即ちエルヴェディヤの7代母オルマラ Ormara に至って漸く、その仔にジャン・プラ賞(現在はGⅠ、当時パターン・レース・システムは無い)に勝ったロクリス Locris (1964年)が登場します。

更に2代遡ったサナー Sanaa (エルヴェディアの9代母)の娘エスメラルダ Esmeralda は仏1000ギニー、フォレ賞、モルニー賞の勝馬で、その娘コロネーション Coronation も仏1000ギニーと凱旋門賞に勝ってフランス屈指の母娘として名を残します。
サナーの娘たちでは、①仏セントレジャー馬スタインファール Stymphale を産んだタニス Tanis 、
②グラン・クリテリウムに勝ったダニシュカダ Danishkada の4代母に当たるガリーナ Galina 、
③日本にも牝系が繋がっていくジェラニウム Geranium が出ます。

ジェラニウムの孫娘になるダマシ Damasi にはモス・ローズ Moss Rose と、トレダム Tredam という2頭の娘があり、モス・ローズの娘レディー・ベリー Lady Berry が仏セントレジャーに勝ちます。
レディー・ベリーは繁殖牝馬でも超の字が付くほど優秀で、パリ大賞典のル・ナーン・ジョーヌ Le Nain Jaune 、ヴェルメイユ賞のインディアン・ローズ Indian Rose 、ガネー賞のヴェール・タマンド Vert Amande を出した他、
凱旋門賞とキングジョージを制覇したドイツの名牝デインドリーム Danedream の2代母ローズ・ボンボン Rose Bonbon 、リュパン賞のグルーム・ダンサー Groom Dancer 、仏2000ギニー馬ファルコ Falco 、サン=クルー大賞典のプルーマニア Plumania に繋がるフェザーヒル Featherhill の母でもあるという具合。

一方トレダムは、仏セントレジャーとカドラン賞を制したステイヤーのジェントゥー Gentoo の5代母であり、天皇賞(春)と有馬記念に勝ったサクラローレルの3代母でもあります。

以上、エルヴェディヤの牝系は6代まで遡っても特記するほどの競走馬は登場しませんが、更に目を広げるとブーサック/アガ・カーンの長距離血統の源の一つである、ということが言えるでしょう。
ファミリー・ナンバーは14、この牝系の直径から伸びるザ・オールドフィールド・メア The Oldfield Mare が基礎牝馬となります。

 

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